本の泉 清冽なる本の魅力が湧き出でる場所…

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第125回 2011年7月5日


●執筆者紹介●


加藤泉

「本の泉」執筆リーダー
有隣堂アトレ恵比寿店

仕事をしていない時は
ほぼ本を読んでいる
尼僧のような生活を送っている。


磯野真一郎

「本の泉」執筆メンバー
有隣堂 販売促進室
書籍仕入・販促担当

晴れて気持ちのいい休日は、
自転車で遠くの公園に出掛けて本を読んでいます。

岩堀華江

「本の泉」執筆メンバー
有隣堂厚木店
文芸書・文庫を担当

本と映画、そして音楽がないと生きていけないと思っています。

広沢友樹

「本の泉」執筆メンバー
有隣堂アトレ新浦安店
文芸書・コミック等を担当

書評と建築、
そして居心地の良いカフェや図書館が好きです。

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第145回直木賞大予想
 

(この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません)


 
平尾才助
(55歳…書店員歴33年)

悠木和雅
(44歳…書店員歴15年)

野口魚子
(33歳…書店員歴6年)










  悠木:   さあ、またもや直木賞の季節がやってまいりました。
  野口:   今回も私たちは本命・対抗・大穴と予想しなくてはならない辛い立場にいます。
  平尾:   毎度のことながら、誰にも頼まれてないけどな。
  野口:   毎回、候補作が発表になる前にどの作品が候補になるかある程度予想しますが、今回は意外な顔ぶれじゃないですか?
  平尾:   高野和明が入ってるのがすごいな。
  悠木:   私が予想していた万城目学、三田完、湊かなえが入っていないのが意外でした。
  野口:   はい。ここだけの話、前回の予想は楽でしたが今回は本当に難しいですね。
  平尾:   ま、外れてもともとのつもりで気楽にやろうぜ。我々の使命はお客様に少しでも興味を持っていただくことなんだから。




ジェノサイド・表紙画像
ジェノサイド
高野和明:著

角川書店
1,890円(5%税込)





















    本命・高野和明 『ジェノサイド』 (角川書店)
 
  野口:   高野和明キターッ!
  悠木:   高野和明は初の候補です。
  平尾:   おいおい、本命は文春の葉室麟じゃないのか?
  野口:   安全策ばかりとってもつまらないじゃないですか。
  悠木:   今回の候補作のうち、我々三人が揃って★★★★★をつけた作品です。我々の本命として推そうじゃないですか。
  平尾:   そうだな、確かにすごい作品だった。だが、スケールが壮大すぎて直木賞にはどうかな?
  野口:   私はこの作品を読んで、人類として生まれたことを恥じた程です。でも読み終わった後は、人の善なる部分を信じたいと切に思いました。
  悠木:   今年の文芸書の中で1冊だけ人にお勧めするとしたら、迷うことなくこの作品を選びますね。
  平尾:   角川が受賞するのも珍しいんじゃないか?
  悠木:   『ジェノサイド』が受賞するとしたら、第130回で京極夏彦『後巷説百物語』が受賞して以来ですね。
  平尾:   う~ん、この作品がはたして選考委員ウケするか、疑問だな。
  野口:   いいんです!敵にひざまずいて命乞いするくらいなら立ったまま撃たれたほうがマシです!
  平尾:   影響受けすぎだろ!




恋しぐれ・表紙画像
恋しぐれ
葉室燐:著

文藝春秋
1,500円(5%税込)











    対抗・葉室燐 『恋しぐれ』 (文藝春秋)
 
  悠木:   葉室麟は、4回目の候補です。
  平尾:   そろそろ受賞するだろ。文春だし。
  野口:   そうなんですよ。前回『橘花抄』が候補にならなかったのはこのためか、と合点がいきました。
  平尾:   じゃあなぜ本命にしないんだ。
  悠木:   これまで葉室さんは武士の生き様を描くことが多かったですが、今回は一変して与謝蕪村、最後の恋がテーマですね。
  平尾:   おお。意外だったよな。
  野口:   それが、葉室ファンとしては腑に落ちないというか…。やっぱり葉室さんの代表作は『秋月記』であってほしいと思うんですよねぇ。
  平尾:   野口の気持ちは分かるがな、やっぱりこの作品が本命だと思うぞ、わしは。いかにも直木賞っぽい装丁じゃないか。
  悠木:   そこですか!




下町ロケット・表紙画像
下町ロケット
池井戸潤:著

小学館
1,785円(5%税込)


















    池井戸潤 『下町ロケット』 (小学館)
 
  悠木:   池井戸潤は3回目の候補です。
  平尾:   おいおい、大穴は設けないのか?
  野口:   今回我々は賭けに出てるんです。
  悠木:   この作品は池井戸さんお得意の大企業vs中小企業をテーマにしたビジネス小説ですね。
  平尾:   いやあ!痛快だった!主人公が経営する佃製作所で働いている気分になれた。「佃プライド」のくだりには熱い気持ちになったぞ。
  野口:   池井戸さんの作品を読むと、仕事頑張ろうって気持ちになれますよね。ただ、きっと勧善懲悪で終わるんだろうな、と先が読めてしまうのが難点でもあります。
  悠木:   確かに“うまくいきすぎ感”はありますね。
  平尾:   まったく、おまえたちはどうしてそう冷淡なんだ!いいじゃないか、小説の中くらい夢を見させろよ!
  野口:   平尾さん、落ち着いてください。
  悠木:   そうですよ。それに、池井戸さんはつい最近「別冊文藝春秋」で「ブラックバード」の連載が終わったばかりです。JALの経営再建がテーマの堅い作品です。それで次回の直木賞を受賞する可能性が高いですからね。楽しみにして待とうじゃないですか。
  平尾:   うう、なんか上手く丸め込まれてる感じ。




アンダスタンド・メイビー 上・表紙画像

アンダスタンド・メイビー 下・表紙画像
アンダスタンド・メイビー

島本理生:著

中央公論新社
各1,575円(5%税込)





    島本理生 『アンダスタンド・メイビー 上
        (中央公論新社)

 
  平尾:   今回候補になって一番意外だったのがこの作品だ。
  悠木:   島本さんは芥川賞候補の作家、というイメージが強いですからね。芥川賞で3回候補になっています。
  野口:   芥川賞候補だった作家が直木賞候補に鞍替えになったケースは角田光代さんが有名ですね。角田さんは直木賞2度目の候補で受賞していますが。
  平尾:   かなり古くは渡辺淳一もそうだったな。
  悠木:   この候補作は、写真家を志すヒロインの中学時代から20代前半までを描いた作品です。
  平尾:   いやあ、この作品は読むのがしんどかった!
  野口:   そういうことは言わないでください。
  悠木:   親子の確執やレイプや宗教問題など、かなり重い題材を盛り込んだ上下巻の長編ですからね。
  野口:   確かに読んでいて辛い場面もありましたが、私はかなり夢中になって読みました。紡木たくの『瞬きもせず』というコミックを思い出しましたね。
  悠木:   おそらく、読んでいる間の息苦しさもこの作品の魅力なのでしょう。




オーダーメイド殺人クラブ・表紙画像
オーダーメイド殺人クラブ
辻村深月:著

集英社
1,680円(5%税込)










    辻村深月 『オーダーメイド殺人クラブ
        (講談社)

 
  悠木:   辻村深月は2度目の候補です。
  野口:   辻村さんは今年「ツナグ」で吉川英治文学新人賞受賞しています。『本日は大安なり』も山本周五郎賞の候補になったりして、波がきてますね。
  平尾:   この作品の良さは、おじさんには分からなかったなあ。
  野口:   それは平尾さんが幸せな少年時代を送ったからです。
  悠木:   主人公の中学2年生の女子が、同級生の男子に「私を、殺してくれない?」と依頼する。人の子の親としては、そんなことで簡単に死のうとするんじゃない!と怒りたくなりました。
  野口:   辻村さんにはコアなファンがいて、それはおそらく辻村さんが“自分の痛みを分かってくれる作家”と思えるからだと思います。そういったファンにはドンピシャリの作品だと思いました。この作品を必要としている読者は絶対にいます。
  悠木:   辻村深月もまもなく文春から新刊を出します。その作品で受賞する線が濃厚なのではないでしょうか。



 














  平尾:   以上、言いたい放題だったが、今回も力のある作品が出揃ったな。
  野口:   はい。皆様にも是非全作品お読みいただいて予想してほしいですね。
  悠木:   ちなみに第145回直木賞、発表は7月14日(木)の夜です。
  平尾:   これで、池井戸潤、島本理生、辻村深月のいずれかが受賞したら、大穴枠を設けなかった我々はとんだ笑いものになるぞ。
  悠木:   我々は高野和明と葉室麟に賭けるということで。
  野口:   そうです!私たちにも佃プライドがあるんです!
  平尾:   「該当作なし」だけは避けてほしいな。


 
文・加藤泉


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