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第131回 2011年10月6日


●執筆者紹介●


加藤泉

有隣堂ヨドバシAKIBA店

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる、尼僧のような生活を送っている。


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~今年必読の一冊 桜木紫乃『ラブレス』~
 

 桜木紫乃『ラブレス』(新潮社)

一度聞いたら耳から離れない歌、というものがある。それと同じように、一度読んだら何日も何日も頭から離れない本がある。桜木紫乃『ラブレス』は、まさにそういう力のある1冊だ。2007年、『氷平線』でデビューして以来、1作出すごとに評価を高めてきた著者の到達点とも言える作品だ。

北海道釧路市に住む清水小夜子が、従姉の杉山理恵と電話で話す場面でこの物語は始まる。聞けば、母親の百合江と連絡がとれないので様子を見に行ってほしいという。小夜子が母親の里実とともに百合江を訪ねると、百合江は意識不明の重態に陥っていた。

  ラブレス・表紙画像
ラブレス』 
新潮社:刊
1,680円(5%税込)

 

次の章から、この物語はそれまでの百合江の人生を辿っていく。標茶町の極貧の家で育った百合江。歌だけは上手かった彼女にはバスガイドになる夢があったのだが、中学卒業と同時に薬局に奉公に出される。ある日、村にやってきた旅芸人の一座に飛び込み、日本各地をドサ回りする日々を送る。根無し草のような生活の中、芸人仲間の子どもを妊娠するが、出産直後その男に逃げられる。母娘2人でカツカツの生活をしている中、見合い結婚をした相手の男は借金まみれで借金のカタに百合江は旅館で働かされることになる…。
このヒロインの半生をざっと聞かされて、彼女のことをはたして幸せだと思えるだろうか。

そこで、本書の「ラブレス」というタイトルの意味を考えてみる。百合江の人生は、一見「愛」に恵まれない人生のように思える。「愛」のない人生は、はたして「幸せ」だ
ろうか。しかし百合江はこう言うのである。
――「わたしは自分のこと、世界一幸せな人間だと思ってます」
百合江の生き様を見ていると、何事をも受け容れて、受け流して、時に諦める。そんな幸せの形もあるのではないかと思えてくる。今後、愛について、幸せについて考えるとき、この本のことを思いだすに違いない。

冒頭で歌のことを引き合いに出したのは、本書の中で百合江の歌うシーンが実に精彩を放っているからである。釧路でクラブ歌手になった百合江が、沢田研二の「時の過ぎゆくままに」を歌うシーンは特に印象深い。この曲のような百合江の人生を、百合江という人物を、1人でも多くの人に知ってほしいと思う。

 


文・ 加藤泉


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