本の泉 清冽なる本の魅力が湧き出でる場所…

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第113回 2011年1月6日


●執筆者紹介●


加藤泉

「本の泉」執筆リーダー
有隣堂アトレ恵比寿店

仕事をしていない時は
ほぼ本を読んでいる
尼僧のような生活を送っている。


磯野真一郎

「本の泉」執筆メンバー
有隣堂 販売促進室
書籍仕入・販促担当

晴れて気持ちのいい休日は、
自転車で遠くの公園に出掛けて本を読んでいます。

岩堀華江

「本の泉」執筆メンバー
有隣堂厚木店
文芸書・文庫を担当

本と映画、そして音楽がないと生きていけないと思っています。

広沢友樹

「本の泉」執筆メンバー
有隣堂アトレ新浦安店
文芸書・コミック等を担当

書評と建築、
そして居心地の良いカフェや図書館が好きです。

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~第144回 直木賞大予想~
 
(この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません)

 
平尾才助
(55歳…書店員歴33年)

悠木和雅
(44歳…書店員歴15年)

野口魚子
(33歳…書店員歴6年)

  悠木:   さあ、いよいよ直木賞の季節がやってまいりました。
  野口:   今回も私たちは本命・対抗・大穴と予想しなくてはならない辛い立場にいます。
  平尾:   毎度のことながら、誰にも頼まれてないけどな。
  悠木:   今回の候補の5作品のうち3作が初候補の作家のものです。フレッシュな風を感じますね。
  野口:   いつものことですが、予想するのが本当に難しいですね。
  平尾:   外れてもともとのつもりで気楽にやろうぜ。我々の使命はお客様に少しでも興味を持っていただくことなんだから。これも毎回言っているけどな。


月と蟹・表紙画像
月と蟹

道尾秀介:著

文藝春秋
1,470円(5%税込)

   
本命・道尾秀介 『月と蟹』 (文藝春秋)

 
  悠木:    道尾秀介は5回目の候補です。しかも第140回から連続して5回目です。そろそろ受賞してもおかしくないでしょう。
  平尾:   文春だしな。まあ、鉄板なんだろうけどな、この作品がこの作家の最高傑作なのかというと違う気がするんだよなあ。
  悠木:   はい。ミステリー色が弱いので初期の道尾作品が好きな読者には求心力が弱いかもしれませんね。
  野口:   でもやっぱり巧いのは確かですよね。この作品の主人公は小学生ですが、自分が小学生だった頃の暗い不安感みたいなものを思い出しました。
  平尾:   お前がそんなに暗い小学生だったとはな。
  野口:   えへへ。去年道尾さんがNHKの「トップランナー」という番組に出たとき、「来年の1月には直木賞をとる」と公言してたんですよ。余程この作品に自信があるんだと思います。これで獲れなかったら逆に問題になるかもしれません。
  平尾:   そうか、それで葉室麟が外されたのか…。
  野口:   え?
何ですって?
  平尾:   いや、なんでもない。
  悠木:   確かに、読み始めてすぐに感じる重苦しい空気感は道尾作品ならではですからね。ひとつのスタイルを確立しているという点は評価されるかもしれません。
  平尾:   そうだな。直木賞は安定した作家に与える賞という意味合いもあるだろうからな。ま、これが本命だろうな。じゃ、次いってみよう。



砂の王国 上・表紙画像
砂の王国 上


砂の王国 下・表紙画像
砂の王国 下

荻原浩:著

講談社
各1,785円(5%税込)

   
対抗・荻原浩 『砂の王国 上
(講談社)

 
  野口:   あれ?!
対抗は貴志祐介じゃないんですか!
  悠木: 
  まあ、それは後でゆっくり話そう。荻原浩は4回目の候補です。
  野口:   ホームレスだった3人組が新興宗教を立ち上げて、あれよあれよという間にお金を儲けていく話ですね。
  悠木:   この3人組も、他の登場人物たちのキャラクターも立っています。荻原浩の面目躍如ですね。
  平尾:   けどよう、上下巻だろ?
長すぎるから無理だな。
  野口:   えーっ!
  悠木:   平尾さんの説も一理あって、上下巻の作品は直木賞を獲りにくいということも確かです。選考委員の偉い先生方と同世代の平尾さんのおっしゃることは我々も無碍にはできません。
  平尾:   だって長いと途中で眠くなっちゃうもん。対抗ってところでいいだろうな。
   



漂砂のうたう・表紙画像
漂砂のうたう
木内昇:著

集英社
1,785円(5%税込)

   
大穴・木内昇 『漂砂のうたう
(集英社)

 
  悠木: 
  木内昇は初めての候補です。
  野口:   木内昇キターッ!
  平尾:   キターッ!
  悠木:   どうしたんですか、平尾さんまで。
  平尾:   いやあ、この作品は素晴らしかったよ。オレ的には今回の直木賞はこれ。直木賞じゃなくて平尾賞だな。
  野口:   はい。まず、設定がいいですよね。明治維新に取り残された遊廓という舞台。しかも、吉原ではなくて根津。そこはかとない落ちぶれ感が何ともいえません。
  平尾:   それに主人公の定九郎。武士の家に生まれながらも今や廓で立ち番をしている身分。しかもナンバーツーの立場に甘んじてそこから這い上がろうという気概もない男なんだな、これが。
  野口:   この遊廓で起きるミステリアスな出来事が円朝の落語と絡んで進行していきます。この構成もお見事ですね。
  悠木:   お二人の力説でこの作品がどれだけ素晴らしいのかよく分かりました。
  平尾:   まあ、今回は受賞できなくてもいいや。候補になっただけでも良かったよな。顔見せってところだな。
  野口:   いずれ必ず受賞する作家だと思います。



悪の教典 上・表紙画像
悪の教典 上

悪の教典 下・表紙画像
悪の教典 下
貴志祐介:著

文藝春秋
各1,800円(5%税込)

   
貴志祐介 『悪の教典 上
(文藝春秋)

 
  悠木: 
  貴志祐介は初めての候補です。
  平尾: 
  なんと!
まだ受賞していなかったのか!
  悠木:   はい。これまでのホラーやSF作品では、直木賞向きではなかったんでしょうね。トンガリ過ぎというか。
  平尾:   この作品だってトンガリ過ぎだろう。サイコパスの教師に1クラスが丸ごと殺されていくとんでもない話なんだからな。でも、これが面白くてなあ。下巻なんか一気読みだったぞ。
  野口:   はい!
わたくし的には今回の直木賞はこれですね。直木賞ならぬ野口賞。版元は文春だし、本命にしてもいいくらいなんじゃないですか?
  平尾:   まあ、でもこれは獲らないだろうな。
  悠木:   はい。これだけ子供たちが殺されてますからね。まず選考委員の宮部みゆき先生が黙ってはいないでしょう。
  平尾:   確かに宮部みゆきの選評は注目だな。まあ、この作品は第1回山田風太郎賞を受賞したり、「このミステリーがすごい!」の1位にもなったりして、もうじゅうぶん評価されてるからいいんじゃないか。



蛻(もぬけ)・表紙画像
蛻(もぬけ)
犬飼六岐:著

講談社
1,680円(5%税込)

   
犬飼六岐 『蛻(もぬけ)』 (講談社)

 
  悠木: 
  この作家も初めての候補です。
  野口: 
  候補にならなかったら知ることのなかった作品でした。面白かったです!
この作品の舞台となっている「御町屋」というのは実在したそうですね。
  悠木:   江戸時代の大名や貴人が庶民の暮らしぶりをのぞき見て楽しむために作られた偽の宿場町ですね。テーマパークのようなものです。これは尾張藩下屋敷内に実在したようです。ただ、そこに本物の町人を住まわせたというのはフィクションでしょうね。
  平尾:   よく考えたよなあ。で、この「御町屋」で殺人事件が起こってしまうわけだ。
  悠木:   はい。気をつけて読んでいれば犯人はすぐに分かってしまうのですが、本格ミステリーを時代小説でやってしまう趣向がたまらないですね。
  野口:   クローズドサークルならではの、疑いだしたら歯止めがきかなくなる不信感と、それとは対照的に絆を増していく筆屋の偽夫婦の関係が上手く書けているなあと思いました。
  悠木:   読後感が予想以上に良かったですね。
  平尾:   ああ。既刊も読みたくなってきたぞ。これから注目していきたい作家だな。


 


  平尾: 
  以上、言いたい放題だったが、今回も力のある作品が出揃ったな。
  野口:   はい。皆様にも是非全作品お読みいただいて予想してほしいですね。
  平尾:   第144回直木賞、発表は1月17日(月)の夜です!
皆様、お楽しみに!

 


文・加藤泉


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