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第116回 2011年2月17日 |
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~オンナの友情、恋愛、生き様の3冊~ | |||||||||||||||
ヴァレンタインは終わってしまいましたが、想いを伝える、告白するというのはいつでも良いと思うのです。大切な「好き」は必ず伝わると信じています。 |
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この小説は女の人にしか書けないのかもしれない。さらに言えば、朝吹さんにしか書けない小説なのかもしれないと思いました。『きことわ』は子供時代を共に過ごした別荘の解体を機に、貴子と永遠子が25年の歳月を経て再会する物語です。冒頭に描かれる少女たちの仲睦まじい様子や、別荘で過ごした過去の思い出が、再会したふたりの現実的な距離を丁寧に埋めていきます。そこにふたりの記憶の思い違いや、時折あらわれる往時の幻の描写が織り交ざることで、豊かな時間の積み重なりを体感することができます。不安を感じつつ出会うふたりの最初の会話が「百足がでたの百足が」という場面が僕は大好きです。芥川賞の選評において山田詠美委員は「後ろ髪引かれる事柄について書かれた小説は数多くあれど、後ろ髪引くものそのものを主とした小説は、私の知るかぎりほとんどない」と述べておられます。 |
きことわ 朝吹真理子:著 新潮社 1,260円(5%税込) |
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芸術に携わっている人は素敵に見えてしまいます。村山由佳の『天使の卵』や羽海野チカの『ハチミツとクローバー』も心に残る魅力的な作品なのですが、昨年発売された『夏の前日』も、芸大生の青木と画廊を営む藍沢の真剣な眼差しが交錯していく物語です。そこには異性に惹かれる一瞬一瞬が確かに刻まれており、相手を求める大人の感情が強い意志で表現されています。「好き」と告白するよりも強く相手を想っている、その言葉の輝きに胸が苦しくなります。「女の人を断っているの? そうして自分を律しているの? 芸術のために…」「俺じゃあなたとはつり合わない…」一見、年下男青木の物語のようにも見えますが、年上の藍沢の物語でもあります。恋愛とはそういう時間のこと。見本や正解はありません。つたなくていい。そう強く思えるのです。 |
夏の前日 吉田基已:著 講談社 610円(5%税込) |
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友情、恋愛とおすすめしまして、最後はオンナの生き様です。友情も恋愛もひっくるめて「こんなアタシってどうなのよ…」というオムニバスストーリィのマンガ『HER』です。強面だけど本当は世のすべての男性にモテたい井出さん、まわりのフツーに振り回される女子高生処女西鶴さん、歳をとる未来に怯える小野房さん、地味だけど一夜限りの関係を繰り返す西浦さん、男に愛されルックの花河さん、私たち付き合ってるのかなあ…な高子さん。 数多くの女性読者に支持され、このマンガがすごい1位に選ばれたこの作品を読んだり、NHKの夜のショートドラマ「祝女」や、劇団本谷有希子の舞台を見たり、実際に身近な女性と接して思うことは、女子は男子よりも圧倒的にひとりひとり、個人個人の生き方、考え方、感じ方の幅が星の数ほどあるなあということです。 タイプ分けなんかより、付き合う条件を挙げるより、男子はその目の前にいる女の子ひとりひとりを大切にする、肯定することが歩み寄る第一歩だと思います。 |
HER ヤマシタトモコ:著 祥伝社 680円(5%税込) |
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文・ 広沢友樹
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