本の泉 清冽なる本の魅力が湧き出でる場所…

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第122回 2011年5月26日


●執筆者紹介●


加藤泉

「本の泉」執筆リーダー
有隣堂アトレ恵比寿店

仕事をしていない時は
ほぼ本を読んでいる
尼僧のような生活を送っている。


磯野真一郎

「本の泉」執筆メンバー
有隣堂 販売促進室
書籍仕入・販促担当

晴れて気持ちのいい休日は、
自転車で遠くの公園に出掛けて本を読んでいます。

岩堀華江

「本の泉」執筆メンバー
有隣堂厚木店
文芸書・文庫を担当

本と映画、そして音楽がないと生きていけないと思っています。

広沢友樹

「本の泉」執筆メンバー
有隣堂アトレ新浦安店
文芸書・コミック等を担当

書評と建築、
そして居心地の良いカフェや図書館が好きです。

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~今、注目の作家 辻村深月登場!!~

  はじめに
加藤:   今回は人気作家の辻村深月さんをゲストにお招きしています!
 
辻村:   よろしくお願いします。
 
加藤:   辻村さんは、ミステリー作家の綾辻行人さんの大ファンでいらっしゃいますよね。ペンネームの一字も綾辻さんから取られたとか。
 
辻村:   おそれおおくも。昔からずっと憧れの作家さんなのですが、綾辻さんを知らなければ、今と同じ形で小説を書いていることはなかったかもしれないなあと感じています。
 
加藤:   あと、辻村さんと言えば「ドラえもん」ですよね。私が働いているお店でも購入されていかれたのを記憶しております(笑)。
 
辻村:   今は藤子F先生の大全集が刊行されているので、家の本棚のスペースが大部分、藤子色に染まりつつあります。ドラえもんは何度読んでも面白いので、今も仕事の合間にヘビロテで読んでいます。
 
加藤:   それでは、辻村さんの最近の3作品についてお話を伺いたいと思います。
 
  『ツナグ』
加藤:   吉川英治文学新人賞受賞、おめでとうございます。
 

ツナグ・表紙画像
ツナグ』 
新潮社:刊
1,575円(5%税込)


辻村:   ありがとうございます。受賞自体が嬉しいことはもちろんなのですが、それが初期の頃から書いている“スコシ・フシギ”テイストを含めた話である『ツナグ』で叶ったことも、とても嬉しいです。
 
加藤:   この『ツナグ』という作品ですが、生涯に一度だけ死者と会わせてくれる使者(ツナグ)がいる、という設定の連作短篇集ですね。
この設定を思いついたきっかけは?

 
辻村:   日常から少しだけ浮き上がった小説ならではの設定を使うとしたら、人が一番望み、願うことって何だろうと考え、現実では絶対に叶うことのない“死者との再会”にテーマを取ろうと決めました。
 
加藤:   泣けるお話なのかな?と思いながら読んだのですが、「親友の心得」という章はとても辻村さんらしいというか、一筋縄ではいかないものを感じました。
 
辻村:   私自身も書きながら毎回どうなっていくかわからないところがあって、回数を重ねながら、自分が書きたいことを探っていくような感じでした。「親友の心得」は特に勢いがあって最後までノンストップで書き上げ、ラストでは自分でも残酷なことになった、と呆然としました。
 
加藤:   辻村さんご自身でしたら、誰に会わせてほしいと願いますか?
 
辻村:   この設定を書こうと決めた時まず考えたのですが、いなかったんです。中学の時に亡くなった祖母に会ってみたいけど、祖母に会う権利が一番あるのは祖父だろうなあと考えて、そこから、小説の中にも“一人の死者に会えるのは一人だけ”というルールを決めました。
 
加藤:   ツナグ』を読むと、自分だったら誰に会いたいか、つい考えてしまいますね。そうやって、もう会えなくなってしまった人たちに思いを馳せることは、すごく大切なことなのではないかと感じています。
 
  『本日は大安なり』
加藤:   本日は大安なり』は、同じ日に同じ結婚式場で披露宴を行う4組のカップルをめぐる物語ですね。辻村さんの新境地のように感じましたが…。
 

本日は大安なり・表紙画像
本日は大安なり
角川書店:刊
1,680円(5%税込)

辻村:   同時進行的に時間で区切って物語を動かしていく作業は初でしたが、思っていた以上に楽しくて、登場人物と一緒にあっという間に一日過ごしたような気がします。
 
加藤:   ウエディング・プランナーの女性の視点から見た“オシゴト小説”としての側面もありますよね。
 
辻村:   結婚式、と聞くとどうしても“夢見る花嫁”のようなイメージが持たれがちだと思うのですが、だからこそ彼女のようなそこで働く子の目線も入れてみたかったんです。彼女の立場はいわば裏方ですが、働く女子たちにもぜひ読んで欲しいです。
 
加藤:   登場人物たちが皆、個性的ですね。 中でも、双子姉妹が印象的でした。式を挙げる片方が、もう片方に尋常ならざる思いを抱いている…。辻村さんにとって思い入れのある登場人物はいらっしゃいますか?
 
辻村:   白須真空。小学生の男の子を久しぶりに思いきりかけて楽しかったです。誰でも幼い頃にわけもわからず式に出席した経験が一度や二度あると思うのですが、そうやって物心つく前から問答無用に人を巻き込む冠婚葬祭の力って、やっぱりすごいなあと思います。
 
加藤:   あの男の子はすごく健気ですよね。どの登場人物をとっても、辻村さんが楽しんで描いていらっしゃるのが伝わってきます。ぜひ読者の皆さんにもお気に入りのキャラクターを見つけていただきたいですね。
 
  最新刊 『オーダーメイド殺人クラブ』
加藤:   さて、いよいよ新刊『オーダーメイド殺人クラブ』についてお話を伺います。クラスメイトたちとの関係に行き詰った主人公が、自分が被害者となる殺人事件を同級生の男子に依頼する、というあらすじですね。
中学生時代特有の息苦しさや教室の閉塞感が伝わってきて、この作品を心から必要としている読者がいるに違いないと思いました。

 
  オーダーメイド殺人クラブ・表紙画像
オーダーメイド
殺人クラブ

集英社:刊
1,680円(5%税込)


辻村:   前の2冊とは書き方が全然違っていて、単行本化にあたって改めて読み返し、自分でも驚きました。主人公の目線がとても近くて狭い。だけどこれが中学生の教室であり、距離感なのかもしれないですね。この空気感を、読者が必要としてくれるならとても嬉しいです。
 
加藤:   今回、中学2年生を主人公になさったのは?
 
辻村:   これまで、小学生、高校生、大学生を書いてきましたが、中学生ってあまりにも生々しい世代な気がして書かなかった。作品数を重ねる中で、思いきって封印を解くような気持ちで飛び込みました。
 
加藤:   もともと辻村さんは青春小説で多くの読者を獲得なさってきた作家だと思いますが、古くからのファンの方が待ち望んでいたタイプの小説なのではないかと感じました。
この作品にこめられた思いをお聞かせ願えますか?

 
辻村:   封印を解くような気持ちで挑戦してみるつもりが、結果的に、これまで私が書いてきた青春小説と呼ばれるものの最高到達点みたいなものができあがったと思っています。かつて中学二年生だった人たちへの、大袈裟に言っていいなら、私なりの贈り物です。どうか、多くの人に受け取って欲しいです。
 
加藤:   辻村さんが自ら「最高到達点」とおっしゃるこの作品、一人でも多くの方に是非お読みいただきたいです。
 
  終わりに
加藤:   最後の質問ですが、辻村さんが執筆なさる上でこれだけは守っている信条のようなものはありますか?
 
辻村:   作者の都合で登場人物を動かさない、ということに気をつけています。一人一人に自分の納得いく形で行動して、結論を出して欲しい。
 
加藤:   次回作のご予定などはおありでしょうか?
 
辻村:   8月後半に文藝春秋より『水底フェスタ』という小説を刊行予定です。ロックフェスが開催される、ダム湖のある村の話で、高校生の男の子が主人公です。こちらもまたこれまで出したものとは雰囲気が違う話なので、どうぞよろしくお願いします。
 
加藤:   最後に、ファンの方々にメッセージを。
 
辻村:   一冊一冊、新しい本を出すたび、読者にここまで連れてきてもらったと感謝しています。自分の本の向こうに、受け止めてくれる誰かが確実にいると信じることができる私は幸せな作家です。
 
加藤:   辻村さん、今回はお忙しい中、本当にありがとうございました!
 
 

インタビュー・文/加藤泉

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公式の表記では「辻」の(しんにょう)の点が2つです。


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