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第19回 2007年2月8日

●執筆者紹介●


加藤泉
有隣堂読書推進委員。

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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 これから旬の女性作家たち Part 2
 

赤朽葉家の伝説・表紙画像

赤朽葉家の伝説

桜庭一樹:著
東京創元社・1,785円



匂いの記憶・表紙画像
匂いの記憶

日向蓬:著
角川書店・1,365円



スロウハイツの神様 上・表紙画像

スロウハイツの
神様 上
(講談社ノベルス)


辻村深月:著
講談社・893円



スロウハイツの神様 下・表紙画像
スロウハイツの
神様 下
(講談社ノベルス)


辻村深月:著
講談社・987円

 
価格はすべて税込です。

第13回で、「これから旬の女性作家たち」をご紹介させていただいたが、あれから4ヶ月、大ブレイクの予感がする作家たちが続々と登場して仕方ないので、もう一度、このテーマで作品をご紹介しようと思う。


まず初めに、桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』。
2007年が始まってからまだ1ヶ月しか経っていないのにこのようなことを言うのは勇気がいるのだが、今年のベストワンと言っても過言ではない1冊(奥付は2006年12月)。
いささか仰々しさを感じさせる桜庭一樹の文体が、この小説では実に上手く作用していて、この小説を書くためにこの作家は生まれてきたのではないかと思うほどだ。

舞台は鳥取県西部の村。
鉄鋼業を営む赤朽葉家の、母娘三代の物語。
語り手は現代を生きる「瞳子(とうこ)」。
彼女の視点から、「千里眼」と呼ばれた祖母「万葉」が主人公の、戦後間もなくから石油ショックまでの時代と、スケバンから漫画家になった母「毛毬」が主人公の、バブル崩壊までの時代と、瞳子が主人公のバブル以後の時代が描かれている。
この一族の物語を読むことによって戦後史が一望できる、壮大なスケールの小説だ。

特に強烈なのは、「鉄の女」赤朽葉毛毬だ。 伊藤麻衣子主演のドラマ「不良少女と呼ばれて」(高部知子主演の「積木くずし」でも可)を毎週欠かさず見ていた方には、たまらない懐かしさを感じさせるキャラクターだろう。
毛毬があれよあれよという間に時代の寵児となっていく過程が本当に面白くて、小説を読むことの喜びを心から味わえる。
余談だが、私は、本書を読み終わった夜、「製鉄天使【アイアン・エンジェル】」(毛毬が率いる暴走族の名前)の一員になる夢を見た。
それほど赤朽葉毛毬の印象は強烈だった。

とにかくこの本は、寝食忘れて夢中になるほど読んだ。 私の周りでこの本を読んだ人たちも、口を極めて褒め称えている。 3年に一度出るか出ないかのレベルの傑作。


次に、日向蓬『匂いの記憶』。
去年、『SWEET BLUE AGE』という青春小説集が出版されたが、今思えばこの本はとても贅沢な短編集で、森見登美彦の「夜は短し歩けよ乙女」や、有川浩の「クジラの彼」や、桜庭一樹の「辻斬りのように」や、そのほかにも角田光代や三羽省吾、坂木司といった作家の短編が収録されている。
この豪華短編集の中で私が最も惹かれたのは、それまで読んだことのなかった日向蓬という作家の「涙の匂い」という短編だった。

東北の田舎に転向した中学生の女子の初恋が描かれているのだが、溢れ出る思いをせき止めようとする息苦しさや、何かを諦めようとするときの鈍い胸の痛みがじんわりと伝わってくる名短編だ。
特に私が胸を掴まれたのは、「あの頃から倍も年を重ねてみて、わかったことがあるとすれば、それは大人が決して賢くも強くもないということだ」という一文。
この部分に何かしら感じるところのある方は、是非お読みください。


最後に、辻村深月『スロウハイツの神様 ()』。
世間に認められ始めた若手女流脚本家が所有する「スロウハイツ」というアパート。
そこに暮らすのは、彼女の友人であるクリエイターの卵たちと、大人気小説家のチヨダ・コーキ。
さながら、手塚治虫の住んでいた「トキワ荘」の様相。
何者かにならんとする若者たち1人1人の真摯な気持ちが、ひしひしと行間から伝わってくる。

トキワ荘と違うのは、住人達の間の恋愛模様が重要な要素を占めている点で、それに関しては、ところどころにちょっとしたサプライズも用意されている。
少し展開が上手すぎる気もするのだが、愛があればこういうこともあり得るよな、と妙に納得させられる力を持つ1冊だ。

ちなみに、描写がとても映像的で、醸し出す雰囲気は、「ハチミツとクローバー」のそれに似ているので、ハチクロ好きの方には特におすすめしたい。


文・読書推進委員 加藤泉
構成・宣伝課 矢島真理子

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