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第31回 2007年8月2日

●執筆者紹介●


加藤泉
有隣堂読書推進委員。

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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  〜予定のない夏休みが2倍楽しくなる本〜

梅雨も明け、いよいよ夏本番! というムードが高まってきた今日この頃、着々と夏期休暇の予定を立てている方もいれば、どこにも行かないけれどとりあえず休暇は取る、という方もおられることと思う。
今回は、予定のない夏休みを迎えようとしている方にこの3冊をご紹介したい。
 
 まず初めに、読んだだけで世界各地を旅した気分になれる、池澤夏樹『きみのためのバラ』を。
ヨーロッパ、南米、アジアの各地を舞台に、ごくごく普通の人たちが、異郷の地でふとしたことに心が動かされるさまを淡々と描いた短編集だ。
この本を読むと、旅の途上での出会いを、いとおしむような、懐かしむような気持ちで胸が一杯になる。

たとえば表題作には、9.11以降の世界では不可能になりつつある美しい出会いが描かれている。
「きみのためのバラ」「ありがとう」これだけのやりとりに胸を打たれる。
隣人を疑うことなく、一輪の花を渡し渡されることのできる世界が再び訪れますように、と祈るような気持ちにもなる。

本書を絵画に喩えるなら、前期印象派だ。
極彩色は一切使われておらず、あわあわとした色彩で描かれながらも、いつまでも胸に住み続けるような、そんな1冊だ。
 
 
 
きみのためのバラ・表紙画像
きみのためのバラ


池澤夏樹:著
新潮社・1,365円
 
 次にご紹介したいのは、たくさんの本と出会う機会を与えてくれる、荒川洋治『黙読の山』。
詩人でもあり文芸批評家でもある著者の、エッセイや書評が収められた1冊だ。
本好き・小説好きの方には、荒川洋治の書評を是非お読みいただきたいと思う。
本を読むこと自体を恋しく思わせるような文章なのだ。
本書で紹介された数々の名作を読んでいなくても、「作品を読んで思ったことを、人に伝えたい。 思いをわかちあいたい」という著者の思いが伝わってきて、読書の夢は果てしなく広がっていくことだろう。

本書はみすず書房の荒川洋治シリーズ第4弾だが、私がシリーズ第1作『夜のある町で』を読んだのは、店頭でお客様(初老の紳士)に「この本は本当にいい本だよ」と勧められたのがきっかけだった。
読んでみたら本当にいい本だった。
以来、荒川洋治の愛読者の一人だ。
本との出会いは至る所にある。
 
   

黙読の山・表紙画像
黙読の山


荒川洋治:著
みすず書房 ・2,520円
 
 最後に、待ちに待った金城一紀の新刊『映画篇』を。

「太陽がいっぱい」「ドラゴン怒りの鉄拳」「愛の泉」…。
本書に収められた短編のタイトルを見ただけで映画好きの方は胸が躍るだろう。
昔の映画のタイトルを借用したこれらの短編は、本家の映画にオマージュを捧げている内容にもなっているので、読み終わった後はテーマとなった映画のDVDを観てみるのも、これまた楽しい休暇の過ごし方かもしれない。

本書はそれぞれ独立した内容の短編集としても楽しめるが、"8月31日に公民館で上映される「ローマの休日」"がたびたび現れ、登場人物たちが微妙にリンクしている連作短編集でもある。

最後に収められた「愛の泉」という短編は、この「ローマの休日」を上映しようとする家族の物語だ。
この短編の中に、「忌々しいぐらいに輝いている八つの瞳」という言葉が出てくるのだが、この部分を読んで、金城作品そのものの魅力はこれだ! と思った。
小説はドラマや映画と違って映像は拝めないが、金城一紀が描く主人公の瞳は忌々しいほど輝いているであろうと容易に想像できる。
その瞳に感化され、何かやってみたいというワクワクした気持ちがお腹の底から漲ってくるのだ。

次の作品に出会えるのは何年後になるか分からないが、この読後感を一度でも味わってしまった読者は、きっといつまでも金城一紀の新刊を待ち続けるのだろうと思う。
 
 

映画篇・表紙画像
映画篇


金城一紀:著
集英社・1,470円
 
  ※価格はすべて5%税込です。

文・読書推進委員 加藤泉
構成・宣伝課 矢島真理子

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