本の泉 清冽なる本の魅力が湧き出でる場所…

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第39回 2007年11月29日

●執筆者紹介●


加藤泉
有隣堂読書推進委員。

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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  〜新人作家・久保寺健彦登場!! 〜
 
デビュー前
  加藤:   今回の「本の泉」はスペシャルゲストをお招きしています。
今年、第1回ドラマ原作大賞選考委員特別賞、第1回パピルス新人賞、第19回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞の三冠に輝いた、久保寺健彦さんです。
 
  久保寺:   初めまして。 よろしくお願いします。
 
  加藤:   まさに「彗星のごとく現れた」という表現がぴったりのデビューですが、今までずっと書き溜めておいたものを一気に放出なさったのですか?
 
  久保寺:   30代半ばまでほとんど書いていなかったんですが、その頃から急にあせり出して、本格的に執筆を始めました。 受賞した3つの作品は、ここ2年くらいの間に書いたものです。
 
  加藤:   デビューなさる前は何をなさっていたのでしょうか?
 
  久保寺:   進学塾の講師です。
 
  加藤:   久保寺作品の最初の読者は、作家の水原秀策さんだとうかがっていますが、水原さんとは前からお知り合いだったんですか?
 
  久保寺:   はい。 職場の先輩で、10年以上のつき合いになります。
彼の方が先にデビューしていて、書きかけの作品を読んでもらったら面白いと言ってくれて。 それですっかり自信をつけました。
この世界の先輩で、人生の恩人でもあります。
 

ブラック・ジャック・キッド
  加藤:   ここからは著書についてお伺いします。
第19回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した『ブラック・ジャック・キッド』(以下『BJK』)。
この作品は初めからファンタジーノベル大賞に応募するつもりで書かれたのですか?
 

ブラック・ジャック・キッド
新潮社 刊
  久保寺:   いえ。 初めから意図していたわけではなく、書いているうちにファンタジーの要素が混入してきたので、応募しました。
読んでいただければ分かりますが、ファンタジー色は極めて薄い作品です。 ただ、この賞は間口が広いから、なんとかなると思いました。
で、実際なんとかなった。 やはりこの賞は素晴らしい(笑)。
 
  加藤:   ファンノベ大賞は森見登美彦さんや畠中恵さんや池上永一さんを輩出しています。
受賞作家の顔ぶれを見ると、確かに間口は広いですが(笑)、かなりハイクォリティの新人賞ですね。
さて、『BJK』の主人公は手塚治虫のブラック・ジャックに心酔する小学生の男の子です。
彼のブラック・ジャックおたくぶりが、読んでいて本当に面白かったです。
久保寺さんも何か一つのことに夢中になるととことん突き詰めるタイプですか?
 
  久保寺:   そうですね。 好きな本、マンガ、映画、音楽なんかは、何度も読むし、見るし、聴き返します。
 
  加藤:   ああ、そのお気持ち分かります。
私も中学生の頃、漫画『ガラスの仮面』はセリフを覚えるまで何度も読みました。
『BJK』の主人公が、『ガラスの仮面』を面白いと思ってくれたところはすごく嬉しかったです。
『BJK』は、小学生の日常のディテイルがよく描きこまれていると思います。
運動会や学芸会などの小学校の行事の場面は、すごく生き生きしていますね。
声をあげて笑ってしまいました。
書きながらご自分でも笑ってしまいませんでしたか?
 
  久保寺:   ぼくにとって笑いは重要なテーマで、そういう場面にはことさら神経を使います。 もちろん面白いと思って書くんですが、何度も推敲しているうちに、面白いんだか面白くないんだか、分からなくなってくる。 だから、笑ったとうかがうとすごくうれしいし、ホッとします。
 
  加藤:   電車の中で読んでいて笑いが止まりませんでした。 周りから「目を合わせてはいけない人」みたいに思われていたと思います。
大人になった主人公が当時を回想するラストも、とてもいいですね。
大人になったから分かることもあれば、大人になっても分からないこともあるし、逆にあの頃でなければ見えなかった世界もあるのだ、としみじみ思いました。
読み終わって本を置いたとき、子供の頃の自分が目の前に立ち現れて、いとおしくてたまらない気持ちになりました。
すごく幸福な読後感でした。
 
  久保寺:   こちらこそ、そんなことを言っていただいて幸福です!
 

みなさん、さようなら
  加藤:   次は、第1回パピルス新人賞を受賞した『みなさん、さようなら』についてお伺いします。
この作品を読んで、久保寺さんのファンになる読者は多いでしょうね。
実際、有隣堂の中にもこの本に力を入れている書店員がたくさんいます。
 
みなさん、さようなら 表紙画像
みなさん、さようなら
幻冬舎 刊
  久保寺:   この作品を書き上げた時、自分のスキルが飛躍的にアップしたのを実感しましたし、作家としてやっていく自信がつきました。 そういった意味で、ぼくにとっても思い入れの強い作品です。
 
  加藤:   12歳から30歳まで、自分の住む団地の敷地から出られなくなった男が主人公ですね。
この設定を思いついたのはどういうきっかけなのでしょうか?
 
  久保寺:   ひきこもりというと、ネガティブな印象がつきまといがちですが、人が大きく成長し、なにかを成し遂げるためには、一つの場所にジッととどまって、エネルギーを溜め込む作業も必要だと思うんです。 ポジティブなひきこもりを描きたい、と考えたのが、発想のきっかけですね。
 
  加藤:   なるほど。 ポジティブなひきこもりですか。
中盤で、主人公が団地から出られなくなった理由が明かされます。
本書の山場とも言える部分だと思いますが、ものすごく驚きました。
最初から読み返してしまったくらいです。
読者を驚かそうという考えもありましたか?
 
  久保寺:   ぼくは読者を驚かせるしかけに、ほとんど興味がありません。
一番重視しているのはリアリティで、言い換えるとそれは、語り口や展開の自然さ、ということになります。
この物語は主人公の一人語りで進行しますが、最も自然なタイミングで種明かしをさせたら、それがたまたま中盤に来た感じです。
加藤さんのようにおっしゃる方は多くて、かえってぼくの方が、へえ、と思いました。
 
  加藤:   本書も『BJK』と同じく、主人公は片親に育てられていて家は貧しいという設定です。
しかも暮らしている団地が年月とともに荒廃していって、暗い方向にいってもおかしくない話なのに、根底には常にユーモアがあります。
主人公が大山倍達に心酔しているというところが、ユーモアの大部分を占めているようにも感じます。
なかなかいないですからね、大山倍達オタクは。
ブルース・リーではなく大山倍達というところがかえってリアリティがあります(笑)。
 
  久保寺:   大山倍達さんは、この作品の陰の主人公とも言うべき存在。 しかしなぜか、そのことに言及する人は少ないんですよ。 加藤さんはよく分かっていらっしゃる(笑)。
 
  加藤:   主人公以外の登場人物のキャラクターもまたいいですね。
私が大好きなのは、主人公が勤めるケーキ屋のご主人「師匠」です。
師匠のモデルになった人物はいるのでしょうか?
 
  久保寺:   ぼくも師匠、大好きです。 モデルは前の職場の上司です。 有能だけど、気どらない。 しょっちゅうバカなことを言ってるけど、すごくもてる。 男の憧れを体現したような人で、師匠の人物像はそこから造形しました。
 
  加藤:   『BJK』も『みなさん、さようなら』も、主人公にはエキセントリックなところがあって、なかなか人から受け容れられないタイプです。
いじめられたり拒絶されたりもします。
そんな主人公が築き上げる人生観に最後は胸が打たれます。
こういう小説が読みたかったんだ、と快哉を叫びたくなりました。
 
 久保寺:   こちらこそ、そんなことを言っていただいて快哉を叫びたいです! って、さっきも同じことを言いましたね(笑)。
 

久保寺健彦・今後の活動予定
  加藤:   もう1作、第1回ドラマ原作大賞選考委員特別賞を受賞した『すべての若き野郎ども』がまだ刊行されていませんが…。
 
  久保寺:   2人組のヤンキーが主人公の4話連作ですが、彼らは毎回、喧嘩ばかりしているんですね。 それがテレビ向きではないと判断されたようです。 BS-iで映画化の話が進行しているので、もしそれが実現すれば、書籍化もされると思います。 自分で言うのもなんですけど、抜群に面白いですよ(笑)。
 
  加藤:   ううっ、今すぐにでも読みたいです! ○○社さーん、早く書籍化してくださいねー!
さらに次回作のご予定などは?
 
  久保寺:   3部構成の長編を2部まで書き上げ、現在、3部の入り口あたりです。
こんな説明ではなんのことだか分かりませんが、"東京の野生児"の話です。
 
  加藤:   読みたいです! 東京の野生児も!(笑)
最後に、読者の皆様にメッセージを!
 
  久保寺:   ぼくはたぶん、多作がきくタイプの作家ではありません。
自分が本当に面白いと思う作品を、納得できるクオリティで、1年に1本くらいのペースで書いていきたいと考えています。
みなさんがそれを読み、また読み返したいと思っていただけたら、こんなにうれしいことはありません。 これからもよろしくお願いします。
 
 加藤: 読者の側から申し上げれば、これからずっと応援していきたいと思える作家に出会えることは至福の喜びです。
今後の久保寺さんのご活躍を、心からお祈りしています。
今回はお忙しい中、本当にありがとうございました。


文・読書推進委員 加藤泉
構成・宣伝担当 矢島真理子

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