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第49回 2008年5月8日

●執筆者紹介●
 
加藤泉
有隣堂 読書推進委員。
仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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娘から母に捧げるバラード

5月の第二日曜日は母の日。
今回は、母の日の前に是非読んでいただきたい本をご紹介しようと思う。
 

 まず初めにどうしてもご紹介しておきたいのが、佐野洋子の『シズコさん』。
「シズコさん」とは著者の母の名前である。
本書は、60歳を過ぎた著者が、老人ホームで暮らす90歳過ぎの母を見舞う日々の中、家族の歴史とともに母娘の歴史を振り返った自伝的エッセイである。

「あの頃、私は母さんがいつかおばあさんになるなんて、思いもしなかった。 」という帯の文句を見て、美しい母娘の絆を描いている本なのだろう思う方もいるかもしれないが、いや確かにそうなのだが、毒舌で名を馳せる著者の書くものなので話はそれほど単純ではない。

著者は、4歳くらいの時に母親の手を握ろうとしたら、「チッ」と舌打ちされ手を振り払われたそうである。
「その時から私と母さんのきつい関係が始まった」と語っている。
特に、著者の兄である長男が11歳で亡くなってからは、虐待まがいのことさえされていたそうである。

この母親も困った人だけれど、ここまで身内のことを悪し様に書くのもいかがなものか、と思いつつ読んでいたのだが、読み進めれば読み進めるほど、これは娘から母への最大級の愛情表現だと思えるようになった。
そして、最後まで読んで分かったのは、本書は、この母娘の最後に訪れるもっとも美しい時を描いた1冊なのだということだ。

「母さん、呆けてくれて、ありがとう。 神様、母さんを呆けさせてくれてありがとう」というセリフが出てくる。
このセリフは本書の中で最も美しく、胸に響く一文だ。
それは心の底から絞り出された真情だからなのだと思う。

最期を前にした母に自分は何と声をかけるのだろうか。
そんなことを考えたら涙が止まらなくなった。
 
シズコさん・表紙画像

シズコさん

佐野洋子:著
新潮社
1,470円
(5%税込)

 次にご紹介する『シバの女王の娘』は、アメリカ版の『シズコさん』とも言える作品だ。

著者のジャッキ・ライデンはラジオ局に所属し、おもにアラブ方面の特派員として活躍している。
ラジオ番組のパーソナリティも務めており、ポール・オースターによってまとめられた『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』内のエピソードは、ライデンの番組内で募集されたもの、と聞けば、ああ、あの人か、と思い当たる方も多いかもしれない。

彼女の母親ドロレスは、まだ著者が幼い頃から躁鬱病を患い、自分はシバの女王やマリー・アントワネットのような力があると思い込む妄想癖もあった。
著者と2人の妹と祖母がドロレスの病にいかに立ち向かったかが、時にシビアに、時にユーモアを交えて描かれている。

ジャッキ・ライデンの自伝として実に読み応えのある本書であるが、彼女の人格形成に母親がいかに大きな役割を果たしたかが伺え、どんな家族にもかけがえのない歴史があるということにも気づかせてくれる。

ラッセ・ハルストレム監督で映画化も決まっているので、今のうちに、『シズコさん』ともども是非お読みいただきたい。
 
シバの女王の娘 (躁うつ病の母と向きあって)・表紙画像
シバの女王の娘
(躁うつ病の母と
向きあって)


ジャッキ・ライデン:著
晶文社
2,520円
(5%税込)

 最後に、『おかあさんとあたし。と、おとうさん』。
「おかあさんとあたし」シリーズ第三弾で、「おかあさんといたあのころ」をイラストと短い言葉でアルバムのように詰め込んだかわいらしい本。

ページをめくるたび、ああ、こういうこと、あったあった、と懐かしい気持ちで一杯になる。
最後まで読み終えた後、「ちいさいあたしになって、また、おっきいおかあさんに会いたい」という帯の文句を目にしたら、不覚にも涙がこぼれてしまった。

子供は数え言葉で”つ”がつくまでの年、つまり9つまでにすべての親孝行をすると言われているが、逆に子供の側からしてみたら、親と一番幸せな時期を過ごせるのは9歳くらいまでなのではないかと、この本を読んで思ってしまった。

母の日の前に、「ちいさいあたし」と「おっきいおかあさん」を振り返る時間を持ってみるのも、いいのではないだろうか。

 
 
おかあさんとあたし。と、おとうさん・表紙画像
おかあさんとあたし。と、おとうさん

ムラマツエリコ/
なかがわみどり:著
大和書房
1,260円
(5%税込)
 

文・読書推進委員 加藤泉
構成・宣伝担当 矢島真理子

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