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第58回 2008年9月18日

●執筆者紹介●
 
加藤泉
有隣堂 読書推進委員。
仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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〜今年必読の3冊〜
 
いよいよ読書の秋到来。
今年の秋はたくさん本を読むぞ〜!と意気込んでおられる方も多いかもしれない。
今回は、読む気満々だけど何を読んでいいか分からないという方に、じわじわと話題になりつつある今年必読の3冊をご紹介したい。
 

 まず初めに、湊かなえ『告白』。
全くの新人作家のデビュー作だが、読み始めたら最後、途中で止めることのできない恐るべき1冊。

“自分の娘を殺した犯人がこのクラスの生徒の中にいる”と中学校の女教師がホームルームで語る第1章。
続く第2章からは犯人の少年、少年の母親、クラスメートの女子などが語り手となってこの事件について独白していき、最後は女教師によるトンデモない復讐で幕を降ろす。

読んでいる間も、読み終わった後も、けっして愉快な気分になれる話ではないのだが、読後感の良さだけが読書の愉しみではないのだと、本書を読むとつくづく思う。
寝食を忘れて没頭できる本はそうそうあるものではない。

本書はデビュー作だと冒頭で書いたが、小説推理新人賞を受賞したのは第1章「聖職者」のみ。
受賞後、担当編集者の「犯人の男の子はどうなったの?」「あの子はどういう家庭で育ったの?」という問いに対して、著者が「それはね、…」「あれはね、…」と流れるように答えていくうちに本書はできあがったのだそう。
いやはや、凄い作家が登場したものだ。

 
 
告白・表紙画像

告白

湊かなえ:著
双葉社
1,470円
(5%税込)

 次に、柳広司『ジョーカー・ゲーム』を。
昭和初期、日本陸軍内に設置された“D機関”というスパイ養成学校。
この機関の提唱者であり教官でもあるのは、自らも優れたスパイであった結城中佐。
生徒たちに彼が施した訓練は熾烈を極めるもので、外国語学習はもちろん、爆薬や無電の扱い方、変装術、異性の口説き方など多岐に渡る。
本書は、この結城中佐の下、D機関で訓練を積んだ1人1人が主人公となって、東京・横浜・上海・ロンドンを舞台に暗躍する姿を描いた連作短編集だ。
ダークなスパイの世界に、蠱惑的な空気が見事にマッチしていて、「耽溺」とか「陶酔」といった気分を本書を読みながら味わうことができる。

何と言っても、本書が読者を惹きつけてやまない最大の理由は、悪魔的とも言える結城中佐の魅力だ。
一切の私情を排除してスパイの養成にあたる彼の口から出るラストの台詞。
この一言で彼の虜になる読者は多いはずだ。

 
 
ジョーカー・ゲーム・表紙画像

ジョーカー・ゲーム

柳広司:著
角川書店
1,575円
(5%税込)

 最後に、池上永一『テンペスト (上下)』。
「野性時代」連載中から話題だったこの作品、実は「本の泉」でも1度ご紹介したことがあるのだが(第32回「〜暑い夏こそ熱い本を! Part2〜」)、単行本化を記念してもう一度ご紹介。

舞台は19世紀、琉球王朝下の沖縄。
真鶴(まづる)という少女が一族の期待に応えるべく、宦官と身分を偽り女人禁制の王宮に仕える。
孫寧温(そんねいおん)という名前で科試に合格した彼女は、政治のトップである評定所筆者に抜擢される。
そこからの怒涛の展開は、政争あり、禁断の恋あり、魔術あり、と盛りだくさんの内容。

悲劇的な話でありながらも、読み終わった後、爽快な気分にさせられるのは、個性豊かなキャラクターたちが実に生き生きと描かれているからだ。
下巻ではペリー来航が描かれ、いま大人気の大河ドラマ『篤姫』にも通じる時代設定であるので、篤姫ファンにも是非読んでいただきたい。

著者は、これまでにも故郷沖縄を舞台にした破天荒なファンタジーを書いてきたが、琉球王朝時代を舞台にするのはこれが初めて。
ふるさとを愛する著者の意気込みが伝わってくる傑作だ。

 
 
テンペスト 上・表紙画像
テンペスト 下・表紙画像
テンペスト (上下)

池上永一:著
角川書店
各1,680円
(5%税込)
 

文・読書推進委員 加藤泉


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