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第60回 2008年10月24日

●執筆者紹介●
 
加藤泉
有隣堂 読書推進委員。
仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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〜4冠新人作家・真藤順丈登場!〜

 はじめに
  加藤:   今回は、特別ゲストをお招きしています。
地図男』でダ・ヴィンチ文学賞、『庵堂三兄弟の聖職』で日本ホラー小説大賞、『RANK』でポプラ社小説大賞特別賞、『東京ヴァンパイア・ファイナンス』で第15回電撃小説大賞銀賞を受賞し、4冠に輝いた話題の新人作家、真藤順丈さんです!

 
  真藤:   こんにちは。 お招きありがとうございます。
 
  加藤:   新人賞の4冠というのは快挙だと思います。
しかも4作品とも全くテイストの違う作品と伺っています。
真藤さんはこれまでずっと新人賞に応募されてきたと伺いましたが、一気に4作受賞されたことについて感激もひとしおなのではないでしょうか?

 
  真藤:   連続受賞後、しばらくは小躍りする日々でしたが、いまは重圧ざんまいで精神状態乱れっぱなしです。 軽い躁鬱病です。
 
  加藤:   そんな大変な時に恐縮なのですが、順にお話を伺ってまいりましょう。
 
 ダ・ヴィンチ文学賞受賞作『地図男』
  加藤:   まず最初にデビュー作の『地図男』から伺います。
語り手の「俺」が出会った奇妙な男「地図男」。
関東周辺の地図を正確に把握しているのみならず、地図に様々な物語を書き込んでいて、その中のいくつかの物語が「俺」を通じて読者に語られます。
この作品の成り立ちについてお伺いします。
それぞれの物語を先に思いついた後、「地図男」という存在が出来上がったのでしょうか?
それとも「地図男」というキャラクターが先にできあがった後、それぞれの物語が生まれたのですか?

 
地図男・表紙画像
地図男』 
メディアファクトリー 刊
 
  真藤:   地図男ありきです。 まず地図帳に物語を書き込む漂浪者、というアイディアが出て。
地名や標識、住居表示などの地図内にあるアイコン縛りで、中の物語を構想していきました。

 
  加藤:   それぞれのエピソードがとても奇抜で面白くて、森見登美彦さんや古川日出男さんの小説を読んでいるような印象を受けたのですが、真藤さんご自身が影響を受けたと思われる作家はいらっしゃるのでしょうか?
 
  真藤:   お二方とも尊敬する作家です。 特に古川氏の作品の語りの豊穣さや物語の熱量はめちゃくちゃすさまじい。 ほかには映画や漫画などからも、多大な影響を受けていると思います。
 
  加藤:   初めのうちは、一体どこに連れて行かれるんだろうと思いながらこの本を読んでいたのですが、最後に、それぞれの物語を貫くあるものの存在が明かされます。
あまり種明かしをしないほうがいいとは思いますが、私は究極の恋愛小説だと思って読みました。

 
  真藤:   この作品は語り手と受け手の関係性を主題にしています。 大切な誰かに届くように語りかけるというのは、物語の語りとしてはひとつの理想的な形式だと思います。 恋愛感情が加わってくれば深度も増すし。
僕は文学賞難民というか、いくら投稿しても全滅という時代が長かったんで、そのときの心境がすごく反映してると思っています。 物語をたくさん生み出したいポジティブな衝動はあるけれど、いくら書いてもどうにもならない。 この言葉たちはどこにいってるのだろう、どこにも届かないのかな、と。
思えば執筆時の自分の状況を自然と物語に編みこむようになって、道が開けた気がします。

 
  加藤:   わずか138ページの短い物語ですが、内容はその10倍くらい濃いですね。
しかも再読必至です。 是非皆様にもお読みいただきたいです。

 
  真藤:   最後のエピソードだけじゃなく、それぞれの物語が主役の、“物語たち”の群像劇という気持ちが強いので。 どれがひとつでも、つぼにはまって楽しんでもらえば嬉しいです。
 
 日本ホラー小説大賞受賞作『庵堂三兄弟の聖職』
  加藤:   次に、日本ホラー小説大賞受賞作『庵堂三兄弟の聖職』について伺います。
死体から箸や櫛や石鹸などの生活用品を作り出す遺体加工業を営む兄弟の話ですが、この「遺工師」のアイディアはどこから生まれたのでしょう?

 
庵堂三兄弟の聖職・表紙画像
庵堂三兄弟の聖職』 
角川書店 刊
 
  真藤:   葬送の形には火葬や土葬だけじゃなく、樹木葬とか鳥葬とか様々なものがあって、そこから“遺工葬”と言う架空の葬送形態を思いつきました。
この“遺工葬”でその職人や遺族の関係性を描いて、「弔い小説」のようなものを書けないかと思ったのがスタートです。

 
  加藤:   発想の面白さだけでなく、とても心温まる(!)家族小説だと思います。
真藤さんの手にかかると、家族小説がこういう形になるのか〜、と感心してしまいました。

 
  真藤:   庵堂三兄弟は僕の作品のなかで、最も人物を掘り下げることができた現時点でのベストです。 一度舞台をセッティングしたら、三兄弟がそれぞれ勝手に躍動してくれる感覚があって、執筆中ことあるごとに、ほ〜そんなこというか〜、と僕も感心していました。
 
  加藤:   この作品は最初からホラー小説大賞に応募なさろうと思っていたのですか?
 
  真藤:   最初はもっとグロな展開も構想していたのですが、こいつらのやってることは“供養”であり“弔い”であり、それぞれが怪物的な心性を解き放つような展開へとおのずと転がっていきました。 誰しもにつきまとう、狂気とか偏向した感情を抱擁できるような、日常化したホラー的環境のなかでそのさきを窺えるような、そんな小説にしたかった。
三兄弟ともに、闇から必死で光の方向にもがき出ようとしていて、これもやっぱり僕も一緒に足掻いていたと思います。

 
  加藤:   真藤さんは映画のお仕事をされていたそうですが、『庵堂三兄弟』の映像化の話がきたらどうされますか?
 
  真藤:   解体される死体役でカメオ出演。
 
 ポプラ社小説大賞特別賞『RANK』
  加藤:   この作品について、真藤さんから読みどころなど教えていただけますか?
 
  真藤:   これまでで一番、大風呂敷を広げたエンタテイメントです。
全国民に人間番付のようなものをつけるのっぴきならないシステムのなかでの、管理側と国民側のせめぎあい。
鋭意、改稿中ですが、自分でもひろげた風呂敷をばっちり畳めるのか不安です。
そのあたりが読みどころでしょうか。

 
  加藤:   うわ〜、面白そうですね!何を基準に番付されるのかとても気になるところです。
 
 第15回電撃小説大賞銀賞受賞『東京ヴァンパイア・ファイナンス』
  加藤:   こちらの作品についても、ご説明いただけますか?
 
  真藤:   無許可の貸金業を営む主人公が、何人かの融資客の抱える問題に首を突っ込んでいく。 というと重い感じですが、ライトに愉しめる、ややブラックな群像劇を目指しました。
 
  加藤:   こちらも発売が待たれるところですね!
 
 最後に
  加藤:   真藤さんがお仕事をされる上で、これだけは守っている信条のようなものはおありですか?
 
  真藤:   発想のブレイクスルーは、二度目・三度目をしぶとく待つ。
 
  加藤:   『RANK』が来年の2月に刊行予定と伺っていますが、差し支えなければそれ以外の執筆状況など教えていただきたいのですが…。
 
  真藤:   「野性時代」で『庵堂三兄弟〜』のスピンアウトのようなものを書きます!
あとは『RANK』と電撃の改稿と、数誌から執筆依頼も。
現在の僕の厨房は未曾有のカオスです。

 
  加藤:   最後に、読者にメッセージを!
 
  真藤:   『庵堂三兄弟の聖職』、苦悩や葛藤のなかで足掻いてる人や、ホラーが苦手なひとにもぜひ読んでもらいたいです。 10月末刊行です!
 
  加藤:   今回はお忙しい中、本当にありがとうございました!!
 
 
 

文・読書推進委員 加藤泉

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