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第74回 2009年5月21日

●執筆者紹介●
 
加藤泉
有隣堂 読書推進委員。
仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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〜この作家に注目! 朝倉かすみ登場!!〜

  加藤:   今回は特別ゲストをお招きしております。 『田村はまだか』で第30回吉川英治文学新人賞を受賞された朝倉かすみさんです!
 
  朝倉:   ただいまご紹介にあずかりました朝倉という者です。
 
  加藤:   今月は、新刊『玩具の言い分』が発売になったり、デビュー作『肝、焼ける』が文庫化されたりと、朝倉かすみ月間と言ってもいいですね。 どうぞこの場でたくさん宣伝していってください。
 
  朝倉:   ありがとうございます! 全力で宣伝する所存です。
 
  加藤:   それでは、『肝、焼ける』 『田村はまだか』 『玩具の言い分』について伺ってまいります。
 
 デビュー作 『肝、焼ける
 
  加藤:   最初にデビュー作『肝、焼ける』について伺います。 表題作で第72回小説現代新人賞を受賞されましたが、デビューまでの習作期間はどれくらいだったのでしょう?
 
肝、焼ける・表紙画像
肝、焼ける
(講談社文庫)
講談社 刊
 
  朝倉:   小説を最初に書いたのは31歳です。 でも、そのときは恋愛のほうが面白くなってしまい、2,3年でやめてしまいました。 40歳でまた書き始めたので、のべ年数でいうと6年くらいだと思います。
 
  加藤:   「肝、焼ける」の主人公は遠距離恋愛中の年下の彼に会うために稚内まで来てしまった31歳の女性です。 このタイトルの意味は「じれったい」という意味の方言だそうですね。 表題作以外の短編も、肝が焼ける女性の心情がすごくよく描かれています。 「一入(ひとしお)」という短編の中で、結婚を紅白歌合戦に喩えているあたりはすごく巧いなあと思ったのですが、朝倉さんも肝が焼けた経験がおありでしょうか?
 
  朝倉:   それはもう、当然のように(笑)。
 
  加藤:   この本が発売になった時、帯の文言がすごく印象に残りました。
「文句なし。 この作者は、ある種の男性から敬遠され、ある種の女性から熱烈に愛される小説を書いて行く人だと思う」という山田詠美さんのお言葉、当の朝倉さんはどのように受け取られましたか?

 
  朝倉:   わたしは「文句なし」という山田さんの言葉がとにかく嬉しかったんです。 あと、「小説を書いて行く人だと思う」という部分もすごくすごく嬉しかった。 だって、ずうっと書きつづける人だと思うといっていただいたのも同然ですから。 でも、「ある種の男性から敬遠され、ある種の女性から熱烈に愛される」というところだけが、わたしのキャッチフレーズのように紹介されることが多く、かなりとまどいました。 自分の書いたもののどこがどの種の男性から敬遠され、どの種の女性から熱烈に愛されるのか、分からないので。
 
  加藤:   この本を読んで私は朝倉さんのファンになったのですが、「そうか、私は山田詠美さんの言う“ある種の女性”なのか」としみじみ思ったことを覚えています。 朝倉さんが想定される“ある種の女性”とはどんな女性だと思いますか?
 
  朝倉:   ああ、加藤さんよ、おまえもか、って感じなんですが(笑)。 ほんとうに分からないんですよ。 ごめんなさい。 でも、いまとなっては最高のキャッチフレーズだと思っています。 その言葉がきっかけとなって、朝倉かすみという書き手を認知してくださったかたが多いので。 山田さんに感謝しています。
 
 吉川英治文学新人賞 『田村はまだか
 
  加藤:   遅ればせながら、吉川英治文学新人賞受賞、おめでとうございます!もう何度も聞かれていると思いますが、受賞が決まった時のお気持ちは?
 
田村はまだか・表紙画像
田村はまだか』 
光文社 刊
 
  朝倉:   ありがとうございます。 ひたすら嬉しかったです。
 
  加藤:   この作品は雑誌「小説宝石」に連載されていましたが、連載時の思い出深いエピソードなどお聞かせ願えますか?
 
  朝倉:   坊主頭の担当編集者に声をかけてもらって、初めてお会いしたとき、わたしはあまりよい状態ではなかったんです。 でも「ぼくたちは同じ船に乗っているんですよ」という坊主頭の言葉にたいへん励まされて、というか、まんまとやられて、かなり元気よく書くことができたという。
 
  加藤:   札幌はススキノのバーで、小学校の同窓会を終えた40歳の男女5人が「田村」の到着を待っているという設定の連作長編です。 最初から長編化するおつもりで書き始められたのですか?
 
  朝倉:   「連作というかたちで、50枚を6本」という注文をいただいたときから、あんなふうにしようと思いました。
 
  加藤:   人生の折り返し地点に差し掛かった5人。 それぞれ重い荷物を背負って生きているわけですが、彼らが待っている「田村」の存在に、朝倉さんはどのような思いを込められたのでしょうか?
 
  朝倉:   本文にも書いたような気がするのですが、まじりけのない気持ち、だと思います。 もともとは「ここにいない誰かを待つ」小説を書きたいと思って書き始めたんです。 書いていくうちに、5人はどうして田村を待っているんだろう、と考えました。
 
  加藤:   なるほど。 『田村はまだか』を読みながら、なんだかすごく羨ましいような、切ないような気持ちになったのですが、自分が感じ取っていたのはこの「まじりけのない気持ち」だったのだ、とよく分かりました。
 
 最新刊 玩具の言い分
 
  加藤:   最新刊『玩具の言い分』は恋愛短編集という触れ込みになっていますが、朝倉さんの手に掛かるとただの恋愛小説ではないですね。 雑誌「Feel love」連載時のエピソードなどお聞かせ願えますか?
 
玩具の言い分・表紙画像
玩具の言い分
祥伝社 刊
 
  朝倉:   1本目を書いて送ったときに、初代担当編者から「朝倉さん、浮いてますよ」と楽しそうに囁かれたのが印象に残っています。 掲載誌を読んでみたら、ほんとに浮いてたし(笑)。
 
  加藤:   いえいえ。 突出した作品という意味かもしれませんよ(笑)。 この短編集には30代〜40代の女性の痛い恋愛が描かれています。 読みながら、「これ私のことだ」と、とてもブルーな気分になりました。 朝倉さんの恋愛小説を読んでいてつくづく不思議に思うのは、「これって私のことじゃん!」と思う人が相当いるということなんですよね。 しかも、主人公に一番似ているのは自分だとみんな思っている(笑)。 これは一体どういう現象なんでしょうね?
 
  朝倉:   どういうことなんでしょうね(笑)。 わたしは、自分には似ていないと思ってるんですが(笑)。
 
  加藤:   恋愛の渦中にいる当人はいたって真剣なんだけれども、傍で見ると非常に滑稽で不様であったりしますよね。 朝倉さんにとって「恋愛」って一体何ですか? 恋愛観をお聞かせください。
 
  朝倉:   「観」ですか? 「観」ねえ。 やはり、加藤さんのおっしゃった「渦中にいる当人はいたって真剣なんだけれども、傍で見ると非常に滑稽で不様であったりする」ことになるんでしょうか。 いや、いま、思ったんですけど。
 
  加藤:   自分は恋愛に不器用だと思っている方に、是非読んでいただきたい1冊ですね。
 
 最後に
 
  加藤:   朝倉さんがお仕事をされている上でこれだけは守っている信条のようなものはありますか?
 
  朝倉:   信条といえるかどうかは分かりませんが、思い切りよく書くことを心がけています。
 
  加藤:   現在進行している雑誌連載や今後の刊行予定が決まっていたら教えていただきたいのですが。
 
  朝倉:   7月に講談社から『ともしびマーケット』という書き下ろしの連作短編集が出ます。 9月には集英社から短編集、そして11月にマガジンハウスから長編が出る予定です。 進行中のものはブログ「アサクラ日記」(外部リンク)にていちいち報告していますので、そちらでご確認いただけましたら幸いです。
 
  加藤:   最後に、ファンの皆様にメッセージを!
 
  朝倉:   いつもありがとうございます。 いろいろな意味で面白い小説を書きたいと思っています。 たまに間違うかもしれませんが、末永くよろしくお願いいたします。
 
  加藤:   朝倉さん、お忙しい中、本当にありがとうございました!
 
 
 

インタビュー/文・読書推進委員 加藤泉

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