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第89回 2010年1月7日


●執筆者紹介●


加藤泉
有隣堂読書推進委員。

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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  〜第142回直木賞大予想〜
  (この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません)
 
 
平尾才助
(55歳…書店員歴33年)

悠木和雅
(44歳…書店員歴15年)

野口魚子
(33歳…書店員歴6年)
  悠木:   さあ、またもや直木賞の季節がやってまいりました。
 
  野口:   今回も私たちは本命・対抗・大穴と予想しなくてはならない辛い立場にいます。
 
  平尾:   毎度のことながら誰にも頼まれてないけどな。 俺たちも好きだよな。
 
  悠木:   今回の候補作もバラエティに富んでいます。
 
  野口:   予想するのが本当に難しいですね。
 
  平尾:   外れてもともとのつもりで気楽にやろうぜ。 我々の使命はお客様に少しでも興味を持っていただくことなんだから。 これも毎回言っているけどな。
 



花や散るらん・表紙画像
花や散るらん

葉室麟:著

文藝春秋
1,575円
(5%税込)

   本命・葉室麟 『花や散るらん』(文藝春秋)
 
  悠木:    葉室麟は前回、前々回に続いて3度目の候補です。
 
  平尾:   前回(「本の泉」第77回参照)我々は葉室麟を本命に予想して大ハズレだったな、野口。
 
  野口:   ………。
 
  悠木:   落ち込むなよ、野口。 今回は3人揃って葉室麟を推すんだからさ。
 
  野口:   ああ、あの時私がユーハイムを贈っていれば!
 
  平尾:   それは関係ないと思うぞ。 ま、今回は版元から考えても順当だな。
 
  悠木:   『花や散るらん』は第140回で候補になった『いのちなりけり』の続編と言える作品で、主人公の雨宮蔵人と咲弥が忠臣蔵騒動に巻き込まれるという話です。
 
  平尾:   蔵人の無骨キャラは相変わらず魅力的だけど、なんと言っても今回は吉良上野介像が光ってたな。
 
  野口:   そうなんですよ! 吉良のためにどれだけ涙を流したか…。 『秋月記』もそうでしたが、葉室さんの作品を読むと、イヤなヤツだと思っていた人物にも同情すべきところがあって、人には添うてみないと分からないってつくづく思うんですよ。
 
  平尾:   前半ちょっとゴチャゴチャしていて人物関係が掴みづらい、という指摘もあるかもしれんが、そんな批判を覆すような情熱を感じる作品だ。
 
  悠木:   3回目の候補で受賞した作家は過去に、重松清、石田衣良、京極夏彦など数多くいます。 最近の時代小説では松井今朝子もそうですね。 しかも葉室麟は3回連続の候補ですからね。 受賞の可能性は大いにあるのではないでしょうか。
 
  野口:   葉室さんが松本清張賞を受賞した時の選考委員でもあった宮部みゆき先生に、是非頑張っていただきたいです!
 



花や散るらん・表紙画像
球体の蛇

道尾秀介:著

角川書店
1,680円
(5%税込)

   対抗・道尾秀介 『球体の蛇』(角川書店)
 
  悠木:    3度目の正直と言えば、この道尾秀介も3回目の候補です。
 
  平尾:   巧いよな〜。
 
  野口:   巧いですね〜。 読んでいてかなり暗い気持ちになる作品ですが、リーダビリティと読み終わった後の「ああ、すごい作品を読んでしまった!」という驚きは相当なものです。
 
  悠木:   いや、正直言って驚きましたよ。 間違いなく、道尾秀介の現時点での最高傑作でしょう。 この作品だったら納得の受賞でしょう。
 
  野口:   率直に言って、この作品を貶す選考委員がいたら早くその選評を読みたいくらいですね。
 
  悠木:   この作品を一言で表せば「青春のリグレット」ですね。 あの時ああしていれば…という思いが自分のことのように胸に迫ってきました。
 
  平尾:   人生とはそういうものだ。
 
  悠木:   直木賞の選考ではミステリーは不利と言われています。 確かに驚きの展開はあるというものの、この作品はもうミステリーではないですよね。
 
  平尾:   純文学系の読者にもじゅうぶん通用する作品だな。
 
  悠木:   余談ではありますが、売る側の目線で言わせていただくと、去年は『悼む人』と『利休にたずねよ』の2作が受賞していますので、道尾秀介くらいの人気作家が受賞してくれないとちょっと困るという思惑もあります。
 
  平尾:   まあ、ここで商売の話はやめようぜ。
 
  野口:   前回『鬼の跫音』で候補になった時に大プッシュしていた北方謙三先生に頑張っていただきたいところですね!
 



ほかならぬ人へ・表紙画像
ほかならぬ人へ
白石一文:著

祥伝社
1,680円
(5%税込)

   大穴・白石一文 『ほかならぬ人へ』(祥伝社)
 
  悠木:    白石一文は第136回に続いて2回目の候補です。
 
  平尾:   つい最近山本周五郎賞を獲ったばかりだよな。
 
  悠木:   はい。 『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で去年受賞していますね。 宮部みゆきも重松清も、山周賞を受賞した翌年に直木賞を受賞しています。 白石一文もそうなる可能性が大きいです。
 
  野口:   悠木さん、白石作品かなりお好きですよね。 率直に言って、女子として私はいまひとつこの作品に乗れなかったのですが、悠木さんはいかがでしたか?
 
  悠木:   個人的にはこれを本命にしたいくらい良かったな。
 
  平尾:   悠木は密かにロマンチストにしてエロチストだからな。 白石作品に己の願望を投影しているんだろう。
 
  悠木:   あ、いえ、そういうことでは…。 でもこれまでの作品の中で一番直木賞向きなんじゃないかと思います。
 
  平尾:   でもよぉ、お膝元の文藝春秋としては、やっぱり自分のところの作品で受賞させたいんじゃないのぉ。
 
  悠木:   白石一文はかつて文藝春秋の社員でしたからね。 そのあたりの事情がどのように作用するか分かりませんが。
 
  平尾:   大穴ぐらいにとどめておこうぜ。
 



鉄の骨・表紙画像
鉄の骨
池井戸潤:著

講談社
1,890円
(5%税込)

   池井戸潤 『鉄の骨』(講談社)
 
  悠木:    池井戸潤は2回目の候補です。
 
  野口:    この『鉄の骨』は建設業界の談合をテーマにした企業小説です。 分厚さが気にならないくらい面白くて一気読みでしたが、率直に言って、以前候補になった『空飛ぶタイヤ』のほうがはるかに面白かったです。
 
  平尾:   野口、お前の率直さは武器にもなるが凶器にもなるからな。 気をつけろよ。
 
  野口:   はい。
 
  悠木:   まあ、確かに野口の言っていることも一理あるかと。 池井戸潤は「別冊文藝春秋」で新連載を開始する予定があります。 今回のノミネートはおそらくその作品に受賞させるための布石ではないかと…。
 
  平尾:   そういうことか。 よし、じゃ次いこ。
 



廃墟に乞う・表紙画像
廃墟に乞う
佐々木譲:著

文藝春秋
1,680円
(5%税込)

   佐々木譲 『廃墟に乞う』 (文藝春秋)
 
  悠木:    佐々木譲は、葉室麟、道尾秀介と同じく3度目の候補です。
 
  平尾:    なんと! まだ受賞していなかったのか! この作家はとっくに受賞していたものと思っていたぞ。
 
  野口:   ぶっ! 平尾さん、第138回候補作『警官の血』の時とまったく同じこと言ってますよ! あはは!
 
  平尾:   だってほんとにビックリなんだもん。
 
  悠木:   そうですねえ。 確かに佐々木譲は受賞時期を逸した感がありますね。
 
  平尾:   だから『警官の血』で受賞させておくべきだったんだよ。
 
  野口:   率直に言って、今回どうしてこの作品で候補になったのかさっぱり分かりません。
 
  悠木:   シリーズ2作目だからね。 今回受賞するとしたら、前回の北村薫と同じく功労賞的な意味合いになるのではないか、と。
 
  平尾:   それなら分かるな。
 



花や散るらん・表紙画像
ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ
辻村深月:著

講談社
1,680円
(5%税込)

   辻村深月 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』 (講談社)
 
  悠木:    辻村深月は初ノミネートです。
 
  野口:   ああ、辻村さんがノミネートされて本当に嬉しい! 個人的にすごく応援している作家の方です。
 
  平尾:   どうしてだ?
 
  野口:   私が勤務している店によくご来店してくださるからです。 いえいえ、それだけじゃなくて、この作品自体すごい力作なんですよ。 辻村さんの魂がこもっているのが感じられます。
 
  悠木:   テーマは「母殺し」ですね。 確かに第二章のリーダビリティは半端ではありません。 角田光代『八日目の蝉』にも匹敵するほどです。
 
  平尾:   うむ。 このタイトルの意味がわかる場面は何とも言えない気分になったな。
 
  悠木:   ただ、冒頭がちょっともたつくというか、もう少し整理されても良かったかなという印象は残ります。
 
  平尾:   この作家はこれからの人だからな。 このノミネートを励みにしてさらにいいものを書いていってほしいものだ。
 
  野口:   ちょっと、まだ受賞するかどうか分からないじゃないですか。 いずれにしても、この作品は1人でも多くの方に読んでいただきたいです。 特に20代30代の女性の方に。
 


 
  平尾:    以上、言いたい放題だったが、今回も力のある作品が出揃ったな。
 
  野口:   はい。 是非、皆様にもお読みいただきたいですね。
 
  悠木:   第141回直木賞、発表は1月14日の夜です! 皆様、お楽しみに!
 
 
文・読書推進委員 加藤泉

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