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有鄰


平成13年6月10日  第403号  P5

 目次
P1 ○嫌われては迷惑なダニもいる  青木淳一
P2 P3 P4 ○座談会 横浜真葛焼−幻の名窯 (1) (2) (3)
P5 ○人と作品  亀田紀子と『明るい未来は自分で創ろう』        藤田昌司

 人と作品

アメリカのビジネス最先端で切り開いてきた”生き方、働き方”

亀田紀子と明るい未来は自分で創ろう
 



  自分を「商品」とみなすこと

 ビジネスの世界は今、激変しつつある。これまでの常識に踏みとどまっていては右往左往するしかない。では、どうあるべきなのか。『明るい未来は自分で創ろう』(日本経済新聞社)は、 アメリカのビジネス最先端で新しい生き方を切り開いてきた亀田紀子さんの、刺激的なメッセージだ。「日本の若い人に希望と意欲をもってもらうために書きました。といっても、概念では 伝わらないと思うので、イソップ物語風に、やわらかく面白く、一つの章に一つのメッセージを入れて書きました」

亀田 紀子さん
亀田 紀子さん
 たとえば「袋小路から抜け出る−最良の策でなくてもよい」とか「よき指南役を見つける−キャリアのための戦術と戦略」というように五十四項目にわたって亀田さん自身の生き方、働き方の体験談が つづられているが、「ここで私がいちばん言いたいのは、希望と勇気をもって何でもやってみよう、ということです」

 亀田さんの生家は横浜の亀田医院で、フェリス女学院から上智大で西洋哲学を学び、どうせ西洋哲学を専攻するならと、アメリカ女子大学の名門ヴァッサー・カレッジに挑戦、全額奨学金をもらって入学することに成功。

 ところが、哲学の老教授を訪ねると、初めての日本人学生のため、「卒業論文と卒業試験に無事パスできるかどうか見当がつかない」との理由で入門拒否。だが、亀田さんは専攻を許してもらえないなら中退して日本に帰ると 大宣言、驚いた老教授はただちに入門を許したという。

 ヴァッサー・カレッジを卒業後、一たん帰国し、日本で外資系商社に勤務する。これがビジネスの世界に飛び込むきっかけになった。「その前に、じつは結婚をすすめられたのですが、私の釣書に外国の学歴があるので 敬遠されてしまいまして……。見合いというものも、やはり自分を市場が求めている“商品”として提示するものだと考えればよかったんですが」

 この後、著者は米スタンフォード・ビジネススクールに入学、ビジネス・エリートのパスポートともいうべきMBA(経営学修士号)を修得。〈ビジネススクールでは実際に役に立つテクニックを、会計学、経済学、企業財務、 マーケティング等のコースから学ぶことができた。しかしその後のキャリアを築いていくために一番役に立った教訓は自分を「商品」とみなすことであった〉。たとえば履歴書をつくる場合でも、パズルを解くようにして 書かなければならないのだという。

 MBAを取得した著者はシティバンクに入社、サンパウロ支店、ニューヨーク本社などに勤めるが、「日米貿易摩擦の最中でもあり、私は日本人で女でチビで、その上“アメリカ人の自分たちより教育を受けている”とねたまれました。 民族的な壁が厚すぎると感じて、やめることにしました」

 そこで著者を迎え入れたのが、名門ハーバード・ビジネススクールだ。極東ディレクターとして、日本やアジアの経済研究に貢献する。だが、著者のチャレンジは続く。

  不況のさなかに起業業績が絶好調のときに売却

 九〇年代初頭の不況のさなか、一人の電子工学技術者と出会い、二人だけで、電子関連の製造業DTLを立ち上げる。もちろん著者はズブの素人。〈なぜ、このような不況の真っただ中に 起業をすることにしたのか〉〈私は不況こそ絶好のチャンスだと思ったからだ〉と自問自答している。

 著者はこの全く未知の分野で直面する大きな問題を小さく分けながら一つひとつ解決して、社長兼雑用係でスタートした企業を十年後には、ペンブックの町一番の企業に成長させてしまう。

 ここで終われば、この話は単なる成功譚だ。しかし著者はその絶好調のさなかに、自分の会社を“売却”してしまうのだ。なぜ? とだれしも聞きたくなるだろう。著者はキッパリと言う。
「会社も“商品”なんです。会社を起こし、大きくして売るというのは、アメリカでは当たり前のことです。自分で立ち上げた会社ですから、いつまでも持っていたいという気持ちはわかりますが、 投資家はキャピタルゲインを望んで投資しているのですから、より一層飛躍させるために大手の企業に売るのは当然で、しかもそれは登り坂のときに限ります」

 亀田さんは今、ボストン・カレッジ・ビジネススクール上級講師として若いビジネスマンの育成に尽力しており、来日する機会も少なくない。「日本がアメリカ式になれとは提案しません。しかし 日本も今、脱皮しないと、世界の趨勢から取り残されていくのではないでしょうか」

 そのためには勇気をもって挑戦を・・というのが、著者のメッセージだ。
1,575円(5%税込)。

(藤田昌司)


(敬称略)


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