Web版 有鄰

『有鄰』最新号 『有鄰』バックナンバーインデックス  


有鄰


平成14年10月10日  第407号  P5

 目次
P1 P2 P3 ○座談会 鎌倉仏教と蒙古襲来 (1) (2) (3)
P4 ○路面電車復興の時代  今尾恵介
P5 ○人と作品  塩澤実信と『本は死なず』        藤田昌司

 人と作品

出版不況下でも生まれるベストセラーの秘密を解き明かす

塩澤 実信と本は死なず
 

書名(青字下線)』や表紙画像は、日本出版販売(株)の運営する「Honya Club.com」にリンクしております。
「Honya Club有隣堂」での会員登録等につきましては、当社ではなく日本出版販売(株)が管理しております。
ご利用の際は、Honya Club.comの【利用規約】や【ご利用ガイド】(ともに外部リンク・新しいウインドウで表示)
を必ずご一読くださいませ。



  天才的編集者による意図的なベストセラー

 本に関する本の出版が相次いでいる。そうした中で塩澤実信(みのぶ)著の『本は死なず』(展望社)は一週間ほどでたちまち再版になるという人気。塩澤氏は出版評論家として、自著の好評をどう見るか。

塩澤 実信氏
塩澤 実信氏
 「出版評論家なんかじゃない、“出版ジャーナリスト”だ。ぼくは腰から下は(出版界の)冷たい水に漬かっていて、ぬかるみの中を歩きながら、出版編集者たちと同じ目線で見ている」

 確かにそうだ。高所から批判的に分析するのではなく、至近距離に迫って肉眼と肉声でとらえるのが、著者の手法である。

 「出版界はほんとにオオカミが出ちゃった。オオカミが出た、オオカミが出たといわれながら、出版は不況に強かった。しかし五年続きの出版不況で去年は千二百店も書店が消え、ことしももう七百店もやめている。しかしその半面、郊外店、大規模店がその半分ぐらい新規に開店しているんです。だから、出版はもうダメだとか、本は死んだとかいうマイナス要因ばかり言われている中で、ぼくが本にエールを送って、本は死なず といったプラスイメージで書いたのが、受けたんだと思います」

 出版不況といわれながら、実は“空前のベストセラー”に沸いている本も少なくないのだ。そのようなベストセラーはどうして生まれたのか。それを生み出した出版編集者にストレートに質問をぶつけて、その秘密を解き明かしたのが本書だ。

 ところでベストセラーには大別すると二種類ある。一つは天才的・カリスマ的編集者によって企画され、出版される本。その典型は本書のトップを飾っている幻冬舎の本だ。代表取締役社長の見城徹氏はかつて角川書店の編集部長。幻冬舎を創業してまだ七年だが、この間『永遠の仔』(天童荒太)、『ふたり』(唐沢寿明)、 『大河の一滴』(五木寛之)、『弟』(石原慎太郎)、『人生の目的』(五木寛之)、『ダディ』(郷ひろみ)など、ミリオンセラーを六点も出している。

 〈見城 ……それと、「あいつは何をやるかわからない」と思われ、「あのヤロー!」と言われなければ認められたことにならない。この世界は、常識を破ってナンボですから。

 塩澤 既成の出版社から見て、見城さんのいままでは、常識破りの連続のようなものです。

 見城 こんな小さな歴史のない出版社なんか、既成出版社が束になってくれば、ひとたまりもありませんよ。正直言って、大手であればあるほど、潰しにかかってくる。それに対抗する意味で、ヒンシュクを金を出してでも買っているわけです。〉

  自然発生的に生まれたベストセラー

 こういった意図的ベストセラーの反面、自然発生的なベストセラーもある。それはどうして生まれるのか。たとえば講談社の『だから、あなたも生きぬいて』。

 いじめにあって中学二年で切腹自殺を図り、十六歳で背中に刺青を入れて極道の妻になった女性が、養父に励まされて、二十九歳で難関中の難関の司法試験を突破して弁護士になり、非行少年の弁護を担当しているという大平光代さんの実録だ。

 テレビに出演した大平さんを見て、講談社が執筆を頼みに行ったとき、すでに数社の申し込みがあったという。同社の田代忠之専務取締役はいう。

 〈田代 その波瀾万丈の経歴から、単にその半生を書いてくれといった執筆申し込みは断っていたそうです。講談社は児童局の児童図書部で出版することで、大平さんに会って、「児童図書として出したいので、小・中学生が読める真面目な本にしたい」と交渉したのでした。それで大平さんはOKした。

 塩澤 大阪のテレビに出演したという情報と、ビデオを見て児童図書部がアクションを起こしたところに、第一の鍵がありましたね。〉

 同書は今や二百万部を超すミリオンセラーになっているが、このほかにも『五体不満足』『サラダ記念日』『他人をほめる人、けなす人』『大往生』『チーズはどこへ消えた?』などなど、ベストセラー誕生の意外な秘密が掘り起こされていて、興味が尽きない。

 著者自身、かつて双葉社の編集局長・常務として本づくりにかかわってきただけに、その切り込みは的確。ビジネスの企画を考えるうえでも刺激的なヒントがいっぱいだ。

 塩澤実信著
 『本は死なず
       展望社 1,785円(5%税込) ISBN:4885460816

(藤田昌司)


(敬称略)


  『有鄰』 郵送購読のおすすめ

1年分の購読料は500円(8%税込)です。有隣堂各店のサービスコーナーでお申込みいただくか、または切手で
〒244-8585 横浜市戸塚区品濃町881-16 有隣堂出版部までお送りください。住所・氏名にはふりがなを記入して下さい。







ページの先頭に戻る

Copyright © Yurindo All rights reserved.