Web版 有鄰

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有鄰


平成15年7月10日  第428号  P5

 目次
P1 P2 P3 ○座談会 ファンタジーと現代 (1) (2) (3)
P4 ○湘南の20世紀  高木規矩郎
P5 ○人と作品  塩澤実信と『平成の大横綱「貴乃花」伝説』        

 人と作品

日本文化の影の部分に光をあてた歴史・民俗学エッセイ

塩澤実信と平成の大横綱「貴乃花」伝説
 

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  双葉山に匹敵する記録
塩澤実信氏
塩澤実信氏


あまり相撲に興味のない人でも、貴乃花が「平成の大横綱」であったことぐらいは分かるだろう。しかし、名横綱といえば、多くの人が思い浮かべるであろう双葉山に匹敵する記録を残していることは、ご存じだろうか。

双葉山といえば〈昭和前期に相撲史上空前の69連勝を重ね、横綱の理想像“心・技・体”を具現化させた〉名横綱。現在でも棋界で重きをなしている“碁聖”呉清源とともに、戦後、新興宗教に入ったこともあって、戦前生まれの人間なら、だれでも知っている名である。

「そうなんですよ。貴乃花の横綱昇進は、平成6年の11月場所の2場所連続全勝で決まったんですが、連続全勝で横綱になったのは過去に双葉山だけ。実に57年ぶりなんです。しかも双葉山の時は昭和12年1月場所が11日間、5月場所が13日ですから、星数は6勝も多い」

この時の千秋楽、宿命のライバルといわれた巨漢横綱・曙との49秒に及ぶ激闘を記憶にとどめている人も多かろう。

記録といえば、相撲史上の年少記録もすごい。大関昇進の20歳1か月に至るまでに幕下優勝、十両昇進、幕内昇進、三賞、三役、幕内優勝など、次々に記録を更新している。父親が名大関を謳われた貴ノ花、伯父が元横綱・初代若乃花、兄が元横綱の三代目若乃花と、花田家一族で三横綱、一大関を生んだのも〈相撲史上“空前絶後”の大記録〉と著者は書いている。

「副題を“花田家三代 血の証明”とつけましたが、父方の祖父も田舎相撲の関脇で鳴らしたらしい。しかし血だけじゃない。入門当初は午前二時、三時に起きて兄の若花田と猛稽古を連日やっていたといいます」

ところで、出版評論家として有名な塩沢さんがこれほど、大相撲の世界に詳しかったとは知りませんでした。

「実は、わたしの名前の実信は、昭和の初期に大日本相撲協会の二代目会長だった陸軍大将・尾野実信にあやかって、相撲好きだった父親がつけたんです。そのせいか、わたしも一端の相撲好きになりましてね。そうした話をあるとき、ベースボール・マガジン社の創業者の池田恒雄さんにしたら、“砂かぶり”といわれる特上席を毎場所いただきましてね。同社が出している『VAN VAN相撲界』にエッセーを10年間書くことになったんです。」

その後、これを縁に文藝春秋発行の雑誌『スポーツグラフィック・ナンバー』などにも執筆。この本の第五章「千代の富士インタビュー」は、同誌に載せたものである。

「引退直後のインタビューです。千代の富士本人はそう言ってませんが、引退を決めたのは貴乃花、当時の貴花田に負けたのがきっかけだったと言われましたね。ところが貴乃花の父親、貴ノ花が引退を決めたのが千代の富士に敗れた一戦だったというから、因果は巡るといいますかね。千代の富士が目標にした力士はこの貴ノ花で、転機になる貴重な助言も受けた、と話しています」

  貴乃花人気を生んだ大相撲マスコミの歴史をたどる

この本は第一部「平成の大横綱・貴乃花の宿命とその生い立ち」と第二部「『貴乃花人気』を生んだ大相撲マスコミの歴史」から成っている。 この第二部で、何とも興味深いのが、相撲記者揺籃時代の話。日刊新聞がスタートした明治の初期から、相撲に関する記事はあったが、手捌きらしいものまで紹介されているのは中期になってからという。 

「報知新聞社の相撲記者だった加藤進という人が書いた『相撲記者の揺籃時代』という本によると、彼が小屋掛けの相撲場に出入りするようになった明治39年ごろは、各社にひとかどの相撲記者がいた、といいます。みな、向こう正面の行司溜りの後方に陣取って、巻紙に矢立ての筆を走らせていた、というんですから、今とえらい違いですね」

このころ、当時の萬朝報社長で、作家としても有名だった黒岩涙香を中心に各社の取り口記者一名ずつが集まり、「振角界」という、会員以外は一切、土俵溜りに立ち入らせない、という特権的な組織をつくった、という。加藤のような駆け出し記者が、自社の席だと思って座っていると顔見知りでもお前は何だとたちまち追い出されたらしい。

原稿をそのまま読むだけだったアナウンサーが、相撲や野球を見てそのまま語ることになった実況放送の草分け時代。関脇天龍をリーダーとする大関・大ノ里以下幕内力士21名が協会に相撲道改革の要望書を突き付けた昭和7年の「春秋園事件」など、興味深い話が満載された本である。


 塩澤実信 著
 『平成の大横綱「貴乃花」伝説
       展望社 1,470円(5%税込) ISBN 4885461006

(K・K)



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