Web版 有鄰

  『有鄰』最新号(P1) 『有鄰』バックナンバーインデックス 『有鄰』のご紹介(有隣堂出版物)


有鄰

平成20年10月10日  第491号  P5

○座談会 P1   野澤屋と伊勢佐木町 (1) (2) (3)
鎌仲友二/津田武司/平野正裕/松信裕
○特集 1 P4   三崎と三崎の物語 いしい しんじ
○特集 2 P4   横浜開港150年・有隣堂創業100年
「横浜を築いた建築家たち (4)」 コンドル
 吉田鋼市
○人と作品 P5   乾くるみと『カラット探偵事務所の事件簿 1』
○有鄰らいぶらりい P5   日本エッセイスト・クラブ 編 『美女という災難』津村節子 著 『ふたり旅』ヒキタクニオ 著 『上を向いて歩こう』北原亞以子 著 『父の戦地』
○類書紹介 P6   内閣総理大臣…歴代宰相のリーダー・シップとその時代を読み解く。


 人と作品
 
乾くるみ氏
”謎解き専門の探偵”の活躍を描いた

いぬい  
くるみと『カラット探偵事務所の事件簿 1』

 
  乾くるみ氏

書名(青字下線)』や表紙画像は、日本出版販売(株)の運営する「Honya Club.com」にリンクしております。
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六つの事件に施された細かい仕掛け
 
  

〈あなたの頭を悩ます謎を、カラッと解決いたします〉。 人口12万の小都市「倉津市」を根城にする「カラット探偵事務所」は、”謎解き専門の探偵”だ。 所員は、並外れた推理力と観察力を持つ所長の古谷と、調査員・井上の二人だけ。 元新聞記者の井上は、高校の同級生だった古谷の誘いで事務所に入り、怪事件を次々解決していく古谷の活躍を物語る——。

「ビジネスマン向けの本を多く出しているPHP研究所の月刊誌『文蔵』での連載だったから、いきなりマニアックなミステリにせず、”謎解き専門”の事業を立ち上げた男と、元会社員のコンビという設定にして、ビジネスマンの人にもとっつきやすくしようと考えました」

浮気調査や信用調査は苦手で、”謎解き”が得意な古谷は、ほんわかと太平楽な性格である。 一方、井上は過労体質で、事務所の成り行きに一喜一憂している。 シャーロック・ホームズとワトソン博士のように好対照の二人の事務所に、作家の妻が夫の浮気調査を依頼しに来たり、山ろくの豪邸に射ち込まれた弓矢の謎、暗号歌解読による宝探しなど、怪事件がぽつぽつと持ち込まれる。

「締め切りが近づくと考える感じで、連載で四つの話を書きました。 ネタは常にゼロの状態。 締め切りの2週間前に謎ができていないとちょっとまずくて、何とかひねり出し、ネタから舞台や人物を決めて、話を作っていく。 一話目に出てきた”卵”の話題を再び出して全体を収束させようかと考えたり、三兄弟を出したから三姉妹はどうかと、考えていくうちにネタが生まれて、話ができていく」

全部で六つの事件が収められ、仕掛けが細かく施されている。 倉津市のほか、六瀞市、池戸市という地名が出てくるが、逆さに読むと、横溝正史の『白と黒』、ディクスン・カーの『死時計』のタイトルであり、さりげなく名作と関連づけて作られている。

「気がつけば、こんなところにもネタがあるとミステリ・ファンに楽しんでもらえるといいし、通じなくても話自体を面白がってもらえればいいなと、ビジネスマン向けに”家族の物語”、人の心を絡めて書こうと思いました。 僕自身のことを反映させようと意識していませんが、見知らぬ自分がひゅっと出てきて書き始めるときがある。 一話目で古谷が突然駄洒落を飛ばして、なぜこんな会話を書きたくなったんだろうと驚いたんですが、ああ、今の自分だったらこういうキャラクターになるんだと、必ず毎回、古谷がオヤジギャグを言うようになりました。 連載した06-07年当時の流行や固有名詞も入っています。 時代の流れが速くて、もう古い感じのものも、書いたときの自分の気持ちをとっておきたくて、そのまま入れています」

 
小中学校のころから“健全じゃない”ミステリに惹かれる
 
  

1963年、静岡生まれ。 98年、『Jの神話』で第4回メフィスト賞を受賞。 『匣の中』『塔の断章』『マリオネット症候群』など、異色作を次々と発表している。

「謎とトリック、範囲を広げてアイディアと言ってもいいですが、ネタを思いついてしまったから人に読んでもらいたい、それが小説を書く第一の動機です。 小中学校のころから本格ミステリを中心にした読書で、惹かれた理由は”健全じゃない”ところ。 江戸川乱歩の『魔術師』などは非常にいかがわしい話ですが、親が子供にあまり読ませたくないような、どきどきさせられる刺激物の虜になり、ミステリの魔力に引き寄せられました。 30歳を過ぎて、手持ちの三つのネタを長編小説にすることを人生の優先課題にしようと、会社を辞めて書き上げて、そのうちの一作でデビューに到りました」

本作は、4年ぶりの単行本。 昨年から今年にかけ、04年発表の『イニシエーション・ラブ』と『リピート』が文庫化され、『イニシエーション・ラブ』は30万部超のベストセラーになっている。

「”30万部突破”には驚いています。 自分の小説はベストセラーに縁がないと思っていたけど、ネタを中心にした変わった話が、これほど大勢に楽しんでもらえると知り”マニアック”と言われ勝ちな本格ミステリ好きとして、明るい、希望が持てることだと思いました。 ネタ中心の僕は、ネタに合わせて小説の設定や雰囲気を変えてしまいます。 一、二作読んだくらいで『分かった』なんて言われない、いつも違うサービスをしていきたい。 ネタがある限りやっていない作風にチャレンジしてみたい」

   カラット探偵事務所の事件簿 1 1,470円(5%税込)
乾くるみ著 PHP研究所

(青木千恵)
(敬称略)



有鄰らいぶらりい

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日本エッセイスト・クラブ 編
美女という災難』 文藝春秋 1,850円
(5%税込)
 
  

表題を見ると、美女の話ばかり出てくるのか、とも思えるがそうではない。 副題は「08年版ベスト・エッセイ集」。

文筆業だけでなく、主婦業も含めた各種の職業人の多彩な随筆を集めている。 自ら”美女”と名乗っているのは有馬稲子。 宝塚のスターから映画界に入った女優だから異論はない。 しかし、かつて美女の代表のように言われていた彼女は、このレッテルがいやでたまらなかった、という。

美女とは目がぱっちりしたオードリー・ヘップバーンやデボラ・カー、日本なら原節子のこと。 全く違う顔立ちの自分は美女ではない、と固く思いこんでいたからである。

また、宝塚から演技のイロハも分らないまま、小津安二郎、内田吐夢など世界的巨匠が居並ぶ世界に飛びこんだコンプレックス。 今井正監督には「待って」というだけのセリフを1日100回も言わされ、以後、美女アレルギーがついて回ったという。

鹿島茂「独裁者コレクション」は毛沢東、スターリン、金日成などが自分を崇拝させるために残した肖像画、記念切手、貨幣などを集める趣味の話。 こういう大物のイコンは数が多いので、手に入れやすいが、レアものは東欧の小型スターリンたちのもの。

先年、チェコスロバキア時代、ゴットワルト大統領などの記念メダルを手に入れた場所はチェコのプラハの「共産主義ミュージアム」であり、経営者はどうやらロシア・マフィアらしかったとか。


津村節子 著
ふたり旅』 岩波書店 1,995円
(5%税込)
 
  

吉村昭没後に出た『ひとり旅』の表題をつけたのは津村さんであり、「あくまでも現地に一人で赴き、徹底的に独自な調査をする執念を書いたもの」と、これは『ふたり旅』の「あとがき」に記している。

もとは『津村節子自選作品集』(岩波書店)の巻末に掲載した「私の文学的歩み」を書き継いだもの。 したがって自伝的要素もあり、軍需工場で働いた女学生時代、疎開した埼玉県の入間川町に米軍が進駐した時の話、父母を亡くした三人姉妹で洋裁店を始める話など興味深い。

吉村氏は、観光などしても小説を書く足しにはならないと、仕事以外の旅行はせず、夫婦で旅行したいときには津村さんが吉村氏の仕事についていくしかなかったという。

新婚早々、吉村氏がはじめた商売に失敗、不渡り手形代わりに貰った大量のセーターを東北から北海道と売り歩くという二人旅もある。 巻末に雑誌『旅』の昭和45年7月号に掲載された「夫婦対談」が採録されている。

日本の果てに来たというわびしい思いの妻と、変化の日々が楽しかったという夫の対比がおもしろい。 夫は芥川賞候補に4回、妻は直木賞候補に3回あがっては落ちる、という苦節の日々が、味わい深く語られている。


ヒキタクニオ 著
上を向いて歩こう』 講談社 1,785円
(5%税込)
 
  

堅気になって、会員制でバーつきの湯屋を開いている元スジモン(やくざ)が、狂言回しとなり、8話を収めた連作短編集。 珍しいことだが、冒頭に小説のモチーフを語っている文章「序オヤジバナシ」がある。 昭和一桁世代の自分の父親の話から、次のような文章が並ぶ。

「オヤジは本能に従って家族を養う、馬鹿にされたり、疎まれたり、臭いと言われながらも、その本能をまっとうしている。 がんばったから自分にご褒美なんてふざけたことを言うこともなく。 働いて営々と労働の対価である金を家族にもたらしている。 働いて家族がひもじい思いをしないだけで有り難いと思ってしまう」

「近頃の若い男は、彼女に別れ話を持ち出されて泣くらしいが、これは男が泣くのではない。 ただの子供がうまくいかなくてぴーぴーと泣いているだけだ」

「親父は家族を養うための仕事では泣かない。 泣いたって何も変わらない」

「オヤジは黙って家族を養う」

「もしも、親父が泣くときがあるとしたら、それは養うべき家族が自分より先に逝ってしまったときだと私は思う」

小説の方の父親像は様々だが昔ながらの仁義や侠気を残した筋ものが出てくる表題作が一番、こうしたモチーフにそっているようだ。


北原亜以子 著
父の戦地』 新潮社 1,470円
(5%税込)
 
  

『父の戦地』
  父の戦地
  −新潮社 刊−
   

昭和16年、著者が数え年4歳のとき出征、昭和20年、ビルマ(現ミャンマー)で戦死した父親が、子供の著者宛に送った葉書は70数枚に及ぶという。

それも現地で見聞したことを子供が喜ぶような絵(マンガ)で描かれており、スコールらしき風景には「俄雨」、道端で何か食べている光景には「露天そば」と書き添えてある。 「ビルマノメイブツ、ミヅマツリ」と但し書きのついた絵には人力車に水をかける子供たちが「ヤアイ、メイチュウダ、バンザイバンザイ」かけられた方が「トホ……アリガタイガ、ツメタイナ、モウケッコウ、ゴメン、ゴメン」と言っているせりふが、いずれも吹き出しに入っている。

葉書の片隅に「ケフハ、ウレシイミズマツリ、オトナモ、コドモ、モ、ウレシナ」とか「ヨシエ(著者の本名、美枝)チャン、ゲンキデアソンデ、オリマスカ、オトウチャンハ、マイニチゲンキデス」といった文章が付けられている。

東京・新橋の家具職人の長男に生まれた父親は、家業があまり好きでなく、イラストや漫画を子どものころからよく描いていたという。 それにしても、戦地で克明な絵を描くには相当の時間が必要なはずで、父親の娘に寄せた愛情がそくそくと伝わってくる。

(K・K)




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