Web版 有鄰

561平成31年3月10日発行

異世界へ行こう – 2面

緋色優希

WEB小説で火がついた「異世界もの」

書店に並ぶ「異世界もの」の数々

書店に並ぶ「異世界もの」の数々
有隣堂テラスモール湘南店にて撮影

こんにちは、緋色優希です。WEB小説サイトで小説、しかも「異世界もの」の小説を書いている者です。54歳という遅咲きで、作家としてデビューいたしました。

アニメ化もされて放送中の伏瀬氏の小説『転生したらスライムだった件』(マイクロマガジン社)など、昨今は「異世界」を舞台にした小説が流行で、「小説家になろう」などの小説投稿サイトには数多くの作品が発表されています。ヒナプロジェクトが運営する「小説家になろう」は140万人以上がユーザー登録する小説サイトで、書いた小説を掲載したり、他の人が書いた小説を読むことができます。無料サイトですが、作品が人気になれば、あっという間に書籍化されたりします。私のデビュー作『おっさんのリメイク冒険日記』(ツギクルブックス)もそうでした。

「異世界もの」とは、主人公がそれまで暮らしていた場所と全く違う世界に転移・転生したり、異世界で生まれた主人公が活躍したりするストーリーで、小説のジャンルで言えば「ファンタジー」に当たるのではないでしょうか。ハヤカワ文庫SFやハヤカワ文庫FTに収録されているような、壮大なスケールの海外作品に比べ、現在の日本の異世界ものはもっとライトで奇抜で、身近なものと言えます。超人ではない、自分と何も変わらないような主人公が、ほとんどなんの脈絡もなく異世界なる場所へ行き、大冒険をしてしまいます。等身大で感情移入を大いに誘うあたりも、昨今の人気の一端でありましょうか。

もう一つ、異世界ものの魅力を挙げると、「SFの面白さ」に通じるものがあると思います。現実世界とは大きく異なる世界での非日常的冒険。ちなみに小説サイトに投稿されている異世界もの小説には、一種の「共有世界観」のようなものがあります。転移・転生した主人公が能力を発揮してその世界でのレベルを上げていく、獣人やエルフ、魔物、魔法使いといった存在が登場するなどといった「お約束」や「お作法」のようなものが共有されているのです。違う作家による、それぞれ異なる作品群が、不思議と共通する「相互に、しっかりと共通の鍵を持って入り込める世界」を作っています。

かつて、エドガー・ライス・バロウズが火星シリーズなどで大人気だったころ、そのバロウズの模倣作品を100人が発表したら、またその模倣をした作品が、それぞれに100作書かれたとさえ言われました。そんな既視感のある風景を、我々は見ているだけなのだと思います。非常に不思議で興味深い現象でありますが、それでも今までにも繰り返されてきた事に過ぎないのだと、私は思っています。この「テンプレ効果」によって、少々理解しづらい部分があっても、比較的スンナリと物語が頭に入ってきます。それもある意味で魅力的なのではないでしょうか。

欠点としては、いささか異世界ものにスタイルが集中しすぎていることでしょう。商業出版化では異世界ものがまだまだ優勢ですが、WEB上で好評だった異世界もの作品が書籍化であまり動かず、「小説家になろう」サイトでしばらく人目に付かずにいた住野よる氏の、異世界ものでない小説『君の膵臓をたべたい』(双葉社)が書籍化で大ヒットするという現象も起きています。そのため編集者が埋もれた作品を掘り起こすようなムードもありますので、また何か変わっていくかもしれません。

なにげなく書き出したものが書籍化に

私自身の異世界ものの出版経緯ですが、私はちょっと体を壊して家にいたのです。パソコンに向かう事が増え、ネット上には流行の「WEB小説」があり、拝読していました。特に「小説家になろう」サイトをよく読み、自分もなんとなく文章を書き出してみたりしたのです。何しろ、続々生み出される話を書いている人たちは、読者である自分と同じ、小説サイトの会員さんです。自分と同じ目線で書かれた物語を読んで、自分も書いてみたいと思って書き出すのは自然な流れで、別に作品を発表しようとか、本にしてみようかなどと考えたわけではないのです。本当に、ただ書いてみたというだけで、それは自分のパソコンの中だけに存在しました。

それは「妄想冒険日記」というもので、異世界に対する憧れから、自分を主人公にしたらどんな冒険ができるだろうと書いてみました。体を壊して退職した53歳の「俺」が、オートキャンプに出かけて突如異世界に転移し、20代の肉体を手に入れ、人生をやり直していく。それを投稿したところ、何故か人気になってしまい、とうとう本になってコミカライズ(コミック化)まで進んでしまいました。自分でも非常に驚いています。

私は、子供の頃から本当に本が好きでした。映画もSF・アクション・ファンタジー系が大好きでした。中学・高校の頃はハヤカワ文庫に熱中しており、当時は外国の作家の作品が大人気でした。エドガー・ライス・バロウズやエドモンド・ハミルトン、ロバート・A・ハインラインなどに夢中でしたね。あと、大長編で有名な宇宙英雄ペリー・ローダン・シリーズやグイン・サーガなどにも夢中でした。SFマガジンなども定期購読しておりました。あとは、講談社の「ブルーバックス」。これらのSFや科学シリーズは、私の創作に深く影響を与えたと思います。

私の『おっさんのリメイク冒険日記』シリーズは、登場する「神様」も、いわゆるガイア理論に基づいた科学系の神様です。主人公はコピー能力などで魔力・魔素を元に物質なども生成しますが、「物質とエネルギーは還元する」というような概念を元にしています。ストーリー自体はライトにしていますが科学的な理屈を用い、異世界ファンタジーの皮を被ったSFもどきのような作品です。

今年出版される『ダンジョンクライシス日本』は、さらにリアルなスタイルを採っており、早川書房にて出版を決定していただけました。子供時代からの本好きが高じて、今は自分で「異世界」を書いている。このようになったのも、これまでの自分の背景と無縁ではないのでしょうね。

若年層向けの「ライトノベル」から「新文芸」へ

私の小説は「ライトノベル」として販売されていますが、ラノベと言えば、以前は少年少女を主人公にした若年層向けの作品群でした。しかし、現在のWEBを中心にした作品群は「新文芸」とも言われ、大人向けに出版される物も少なくありません。WEB小説の商業出版の場合は、作者も読者も年齢層が広いのが一つの特徴である気がいたします。

今は隆盛を極める異世界ものも、そのうちには廃れる日が来るのかもしれません。しかし、再び形を変えて世の中に流行る事になると思っています。なぜなら、人は異世界ファンタジーなるものが大好きだからです。誰かが作った不思議な世界が魅力的で、そこで自分も本の中を旅してみたい。人は昔から、そういう願望を持っているからです。

また、現実逃避的な色合いもあります。現代日本の冴えない現実というものが背景にあるようです。会社や、あまり面白くない生活などからの逃避というか、現実を見たくない気持ちというか。「異世界・転生転移」のジャンルは、自分を取り巻く現実から抜け出して、そういう世界へ行ったら……という夢想の対象になります。私も、それで異世界ものを読み出して、自分でも書き始めた口ですから。

すると異世界作品出版への扉が開いて、思ってもみなかった展開が待っていました。

※「小説家になろう」は株式会社ヒナプロジェクトの登録商標です。

緋色優希(ひいろ ゆうき)

1963年愛知県生まれ。小説家。
著書『おっさんのリメイク冒険日記』 SBクリエイティブ 各1,200円+税 ほか。

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