Web版 有鄰

529平成25年11月3日発行

有鄰らいぶらりい

祈りの幕が下りる時』 東野圭吾:著/講談社/1,700円+税

3月30日、東京の下町にあるアパートで、死後2週間以上が経つと思われる女性の絞殺死体が発見された。その部屋に入居していた越川睦夫は行方が分からず、ほどなく、遺体の身元は、滋賀県の夫婦から捜索願がでていた押谷道子だと判明する。押谷道子の死亡とほぼ同時期の3月12日、荒川河川敷でテント小屋が焼け、なかから男の他殺体が発見されていた。押谷道子殺害事件の捜査にあたっていた警視庁捜査一課の松宮は、ふたつの事件の間に呼応するものを感じとる。

被害者の足どりをたどると、押谷道子は芝居の仕事をする幼なじみに会おうと、滋賀県から上京したらしい。本名・浅居博美。「角倉博美」の名で、演出家・脚本家として活躍するその幼なじみが明治座で上演中の芝居は、3月10日に初日を迎えていた『異聞・曾根崎心中』だった。

死体発見から10日。捜査が難航するなか、松宮は、日本橋署の刑事課に所属する従兄の加賀恭一郎とコンタクトをとる。かつて日本橋署主催の少年剣道教室で、加賀が角倉博美と出会っていたと知ったからだ。角倉博美は、心になにか深い闇を抱えているらしい。それぞれの人生が交錯し、あらわれる真相は?

加賀恭一郎シリーズの最新作。登場人物の因縁に引き込まれる、新たなる傑作。

総理の夫』 原田マハ:著/実業之日本社/1,700円+税

20××年9月20日、直進党の党首で42歳の相馬凛子が第111代日本国内閣総理大臣に指名され、日本初の女性総理が誕生した。この〈運命の日〉を起点に、凛子の4歳年下の夫、相馬日和は日記を書き始める。

東大法学部とハーバード大学院で学んだ凛子は、政策シンクタンク研究員を経て、31歳で初当選した才色兼備の論客だ。夫の日和は、大財閥の次男坊で、由緒ある研究所に勤める鳥類学者。母に溺愛され、自宅の庭に集まる野鳥を観察してぬくぬくと生きてきた日和に、結婚10年目にして大転機が訪れた。「日本初の総理の夫」として、何をすればいいのだろう?

仲よく暮らしてきた夫婦が、国政の荒波に放りこまれる。住み慣れた家をでて公邸に越し、多忙をきわめる凛子と生活がすれ違い、追っかけ&報道対策で自由が利かなくなっていく。そんな中、年下の同僚・伊藤るいが日和に急接近。さらに、百戦錬磨の策士の思惑が明らかになる。「総理の夫」として、日和が見いだした「答え」は?

『楽園のカンヴァス』で山本周五郎賞を受賞、『ジヴェルニーの食卓』が今年上半期の直木賞候補になった気鋭が贈る、政界エンターテインメント。困難に向きあう夫婦の姿に手に汗を握り、多くのことに気づかされる快作。

かりんとう侍』 中島要:著/双葉社/1,400円+税

嘉永7年(1854)、徳川幕府は日米和親条約を締結した。大騒ぎの世の中で、旗本の次男坊・日下雄征は兄と違って役もなく、柳橋の売れっ子芸者と浮名を流し、好物のかりんとうを求めて駄菓子屋に通いつめる、のんきな毎日を送っていた。

部屋住みの旗本同士でつるんでいたある日、雄征は、駆け出しの戯作者・鈍亭魯文と知り合う。御腰物奉行を勤める旗本家に婿入りした幼なじみが、切腹騒ぎの末に実家に出戻ったと魯文から聞いた雄征は、友の窮地を救おうとする(第1章 差腹)。

時代は、幕末動乱期。友の切腹騒動などのさまざまな事件に、主人公の雄征が遭遇する、5章から成る幕末青春物語。剣にも学問にも打ちこまず、優しさだけが取り得の雄征の進路の雲行きは、義姉の懐妊で日下家の跡継ぎになる道がとだえたことにより、いよいよ怪しくなる。恋人との仲がこじれ、さらには大地震に見舞われて……。

著者は、2008年に第2回小説宝石新人賞を受賞、2010年に長編『刀圭』でデビューした時代小説の新鋭。本書では、甘えん坊の若様が、市井の人々の姿を知り、進路を模索する過程を味わい豊かに描く。幕末の武家社会に漂う閉塞感が、現代の人間模様とオーバーラップして、身近な成長物語として読める。

ポンチョに夜明けの風はらませて』 早見和真:著/祥伝社/1,500円+税

生まれてすぐに父親に蒸発されながら、自分を“平凡の極み”と思い、ないものねだりでお調子者の「又八」。老舗天ぷら店の跡取り息子でおおらかな「ジャンボ」。イケメンで成績優秀だが、押しだしが弱い「ジン」。幼なじみの3人は、都立夏目高校の3年生。“高校デビュー”のラストチャンスとして卒業式ライブを計画しているが、卒業式を2週間後に控えて中途半端なままだった。

又八とジャンボは大学に進学せず、高校で知り合ったねずみは神奈川の私立大に推薦を決めた。バンドの練習をするべき場面で、ボーカルのジンが早大入試に失敗。受験のために、岡山県の倉敷に発った。くしくも、又八の蒸発した父は、瀬戸内海の小島にいるらしい。卒業式まで、残り約39時間。因縁めいたものを感じた又八は、ジャンボを誘い、車でジンを連れ帰って高校デビューを実現させようと、新宿から岡山に向かい旅にでる――。

夢抱いて敗れ続け、中途半端なままだった3年間。それでもかけがえがなかった高校生活に「最高の別れ」を告げようとがんばる男子高生の情熱を、7人の視点から描いた青春ロード・ノベル。70年代のテレビアニメ「母をたずねて三千里」の主題歌からタイトルをとり、若者たちの心情を問う、爽快作。

(C・A)

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