Web版 有鄰

531平成26年3月4日発行

“夜回り先生”の 今、子どもたちは – 海辺の創造力

水谷 修

私は、これを読むみなさんとは、全く違う世界を、22年間生き抜いてきた人間です。みなさんは、まずは間違いなく「昼の世界の住人」だと思います。朝、起きて、そして昼間は学校、仕事、夜になれば家に帰り、一家団欒。私は、この22年間「夜の世界の住人」でした。かつては、毎日のように、今は週末、夜の町に出ます。そして、たむろしている子どもたちに声をかけ、彼らを家に帰す。からだを売っている子どもたちがいれば、名刺を渡して、昼の世界に戻る手助けを。「夜回り」です。数多くの「夜眠らない子どもたち」、つまり、夜の世界で非行や犯罪、薬物乱用を繰り返す子どもたちと関わってきました。

12年前に、暗い自分の部屋で、過去や今に苦しみ、明日を見失い、自らを傷つけ、死へと向かう、「夜眠れない子どもたち」の存在に気づきました。そして、10年前に、水谷青少年問題研究所を作り、そんな子どもたちからの、電話やメールでの相談に答え続けてきました。関わった子どもたちの数は、すでに25万人を超えました。「一人の子どもも死なせない」そんな思いではじめたことでしたが、残念ながら、関わった子どもたちのうち、7人が殺人の罪を犯し、131名の尊いいのちを、自死や事故死、病死によって失いました。また、薬物によって50人のいのちを奪われました。何度、この闘いを止めようと思ったかわかりません。それでも、続けてきたのは、関わった子どもたちの多くが、笑顔になり、昼の世界に戻ってくれたからです。彼女ら彼らから届く、「ありがとう」の一言が、私の支えでした。

今、日本の子どもたちが苦しんでいます。いじめ、不登校、ひきこもり、リストカットなどの自傷行為、自殺、非行、援助交際、薬物乱用…。私のもとに日本中の数え切れないほどの子どもたちから、日々相談が届きます。

なぜ、日本の多くの子どもたちが、暗い部屋で暗い街角で明日を見失いこんなに苦しんでいるのでしょうか。私は、原因は、私たち大人が作ってしまった今の社会の攻撃性、いらいらにあると考えています。そのいらいらが、社会的に最も弱い子どもたちに集約されています。人は日々、叱られ続けたらどうなるでしょう。「もうどうなってもいい」と夜の世界に入りますか。「私は、駄目な人間だ」と明日を捨てて、引きこもったり、自らを傷つけたり、死を考えますか。あるいは、一時的な救いを薬物に求めますか。肉体ねらいの大人の甘いことばに身をあずけますか。だれかをいじめることで、その鬱憤を晴らしますか。私は、これが今の子どもたちの現状だと考えています。

みなさんにお願いがあります。我が子は当然として、身近な子どもたちを、認めてあげてください。たくさん誉めてあげてください。たくさんの優しさを配ってあげてください。自分に自信のある子、自分が愛されていることを自覚している子どもは、自分を大切にできます。人にも優しい子となります。子どもたちは、みなさんからの優しさを待っています。

(水谷青少年問題研究所所長)

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