Web版 有鄰

531平成26年3月4日発行

原田マハと『翔ぶ少女』 – 人と作品

阪神・淡路大震災を主題に、東西の被災地への思いを物語に


原田マハ氏
©合田昌弘

震災で両親を亡くした少女が主人公

阪神・淡路大震災の発生から19年。『翔ぶ少女』は、震災で両親を失った少女が主人公の長編小説だ。著者の原田マハさんが、長らく抱いていた被災地への思いを、物語にした一作である。

「私は大学時代を兵庫県で過ごしました。青春時代の思い出をたくさん作らせてもらった神戸で震災が起きたとき、何か役に立ちたいと思いながら心配するばかりで、そのことが悔いになって心に引っかかっていました。その後、東日本大震災が発生。時を隔てずしてふたつの大震災に遭った日本人の経験を、作家として書いておかなくてはならないと強く思いました。阪神・淡路大震災を主題に、東西の被災地に何か思いを届けることができないかと、この物語を構想しました」

1995年1月17日、神戸市長田区。一階から漂うパンの匂いに包まれ、幸せな夢を見ていた小学1年生の少女・丹華の体が、突然宙に投げ出された。午前5時46分52秒、兵庫県南部地震が発生。両親を亡くした丹華は、兄の逸騎、妹の燦空とともに、医師の佐元良是朗(ゼロ先生)に助けられる。

「児童書を多く手がけている出版社、ポプラ社さんの特質にあわせて、大人にも子供にも、親子で読んでいただける物語にしようと考えました。子供の読者に近しく感じられるように、主人公を少女にし、ファンタジー要素を交えました。高校生へと成長する丹華の年頃は、心も体も変化する時期です。その多感な成長期に、震災で負った心と体の傷が絡む、現実に向き合ったリアルなファンタジーにしようと意識しました」

心療内科の医師であるゼロ先生は、被災地でメンタルケアに奔走する。災害を経験したショックで、被災者は心に傷を負っている。まだ子供で、気持ちをうまく説明できない丹華に、研修医の由衣がこう言う。〈でも、どんなにしんどいことがあってもね。このままじゃあかん、元気出して生きていかなあかん、って、前を向いて歩いていけるようになるのも、「心」のおかげやねんよ〉――。

1995年1月17日、東京で暮らしていた原田さんは、朝7時のニュースで震災の発生を知った。午前5時46分から7時まで、約1時間15分の間に何があったのか。小説を書く前に、その時間の町の空気感を知っておきたいと、2012年1月17日早朝、神戸市長田区を歩いた。

「キャンドルを灯した追悼行事がいろいろなところで行なわれていました。午前中ずっと歩き回り、お話を伺って、被災者や遺族の方の心の中で震災は終わっていないのだなと思いました。早朝、真っ暗な夜が明けていく中で、町の方たちは凄まじい光景を見たのだと思います。生き延びた方たちの未来がそこから始まったのですから、丹華たちが被災した辛い場面をあえて冒頭で書きました。その日から力強く立ち上がってほしい、日本人みんなで奇跡を起こしていこうという願いを、この小説に込めたかった」

いろいろなテーマで人間のよさを抽出した物語を

1962年、東京生まれ。1985年に関西学院大学を、1996年に学士入学した早稲田大学を卒業。アートコンサルティング、キュレーターを経て、2005年、『カフーを待ちわびて』で第一回日本ラブストーリー大賞を受賞し、翌年にデビューした。

「40歳を機にフリーランスになり、仕事で文章を書くうちに、小説も書けそうな気がしてきた。沖縄を舞台に書いてみようと、漠然としたところから仕上げた小説がデビュー作になりました」

2012年、『楽園のカンヴァス』が大好評を博し、山本周五郎賞を受賞。『ユニコーンジョルジュ・サンドの遺言』『総理の夫』『ジヴェルニーの食卓』など著書多数。恋愛、芸術、旅、政治など多様なテーマを手がける。

「好奇心が強く、社会のいろいろなテーマに関心を持っているので、特定の分野に収まりたくない。共通項を挙げると、私の小説は、性善説に基づいていると思います。どんな人にもいいところがある。人間である限り、いい部分を必ず持っているはずだとの思いに裏打ちされて、人間のよさを抽出する物語を書いている。読んでスッとする、カタルシスが得られる小説にすることも意識しています。書かせていただく媒体と読者に向けて、その都度物語を変える変化球投手のつもりで、いろいろな小説を書いていきたい。投げかけた物語が読者に届いて、楽しく受け止めてもらえたら嬉しいです」

(青木千恵)

翔ぶ少女・表紙画像

翔ぶ少女』/原田マハ/ポプラ社/1,500円+税

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