Web版 有鄰

539平成27年7月10日発行

主役に返り咲く冥王星 – 海辺の創造力

竹内 薫

9年半前にアメリカが打ち上げた宇宙探査機ニューホライズンズが、7月14日、冥王星に最接近する。

われわれはすばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡を使って、宇宙の果てまで見ることができる。だが、灯台もと暗しとはよく言ったもので、太陽系の端っこにある冥王星は、あまりきちんと観測されてこなかった。

星や銀河のように自分で光っているものは観測がしやすい。冥王星は準惑星であり、太陽からの光を反射するだけで、自分で光っているわけではない。だから、同じ太陽系の中にあるのに、これまで、「モザイク」がかかったようなぼやけた写真しか撮ることができなかったのだ。

冥王星は、地球と太陽の距離の40倍も遠くにある。大きさは(地球の)月よりも小さい。だから、ハッブル宇宙望遠鏡での観測は、たとえて言えば、60キロメートル先に落ちているコインを見るようなもの。いくら高性能の天体望遠鏡だって歯がたたない。

昔、学校で太陽系の惑星を「すいきんちかもく・どってんかいめい」と教わった憶えがありませんか? 実際、少し前まで、冥王星は惑星の一員だった。でも、2006年の国際天文学連合の総会で天文学者たちの投票がおこなわれ、冥王星は惑星から「準惑星」に降格されてしまった。いったいなぜだろう。

水金地火木土天海までは、ほとんど同じ平面上で円(楕円)軌道を描いているのに、冥王星の軌道だけが大きく傾いている。大きさも小さい。だから、「冥王星ってホントに惑星なの?」という素朴な疑問を抱いていた人は多かった。

そんな中、2003年に冥王星の近くで発見された「エリス」という天体が、冥王星よりも大きいことが判明した。当然のことながら、エリスを惑星に取り立てるか、冥王星を降格させるか、という議論が巻き起こった。

その後、エリスだけでなく、冥王星の傍には、冥王星みたいな天体が「ウジャウジャ」いることがわかり、天文学者たちは冥王星にサヨナラを言うことにした。

さて、そんな窓際族みたいな冥王星だが、天文学者たちは7月のニューホライズンズの最接近で物凄く盛り上がっている。

実は、この遠くて小さい準惑星は、「太陽系はどうやって生まれたの?」という疑問に答えてくれるかもしれないのだ。

太陽系は、46億年前にチリやガスが集まって作られたと考えられている。太陽から遠くて冷たい冥王星は、その46億年前に近い状態のまま「冷凍保存」されているので、太陽系の起源を探るのに絶好の観測対象なのだ。

ニューホライズンズは冥王星の上空1万2500キロをビュンと通り過ぎながら観測する。チャンスは一度きり。人類が初めて目にする光景が今から楽しみだ。

今年一番の科学ニュースになると思うので、どうか、ご注目ください!

(サイエンス作家)

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