Web版 有鄰

544平成28年5月10日発行

真梨幸子と『6月31日の同窓会』 – 人と作品

名門女子校卒業生の連続不審死に隠された真相とは?

真梨幸子さん
真梨幸子
撮影・嶋田礼奈

同窓会の案内状がきっかけで

案内状が届くと“お仕置き”される? 名門女子校「蘭聖学園」には、奇妙な噂が伝わっていた。創立100年の節目の年に、蘭聖学園89期OGが、相次いで不審な死を遂げる。真相が知りたくてラスト1行まで目が離せない、長編ミステリーである。

「実業之日本社の担当さんから、『同窓会』をネタにした小説を頼まれたのが始まりでした。『同窓会』系の作品は数多く、ほかの人がやらないようなネタを選んで小説にしてきた私は戸惑いましたが、『同窓会』系の作品にみられる、過去と現在の落差から生じるアブノーマルな人間模様を、突き抜けて漫画的に描いてみたらどうだろうと考えて取り掛かりました」

売れっ子漫画家の柏木陽奈子は、蘭聖学園の89期生だが、卒業から9年余り経ち、学園とは疎遠になっていた。ある日、日時を6月31日と記した同窓会の案内状が届き、クラス委員長だった多香美から電話がある。ほどなくして、多香美の死をニュースで知った陽奈子は、悲劇に見舞われる――。

「2013年に『月刊ジェイ・ノベル』で連載を始め、冒頭の“つかみ”として、蘭聖学園OGの死を第1回目に書きました。いつもプロットを立てずに書くので、なぜ死んだのかは、著者の私にもわからない状態でした。大変な書き方ですが、物語がどうなるか、私自身がどきどきして楽しめるんですよね。今回は登場人物が推理を行う後半の場面で、私も一緒に出来事をたどり、人物たちの心理を分析して、犯人を突き止めることができました」

陽奈子を殺害した容疑で逮捕されたのは、蘭聖学園OGで陽奈子のアシスタントをしていた小林友紀だった。蘭聖学園の77期生で、タレント弁護士の松川凜子が弁護人になるが、その凜子にも、同窓会の案内状が届く。

「私も女子校出身者で、平和で過ごしやすい学校でした。しかし、実際の女子校を描いても、読者にはリアル感や面白味がないんですよね。女子校と聞いて連想されるイメージに乗せて人物や舞台を設定した方が、物語に入りやすい。持っているイメージとすり合わせながら読む心理がありますから、ステレオタイプな人物や舞台をデフォルメし、物語固有のディテールを重ねて、『あるある』と思えるバーチャルリアリティを体感できるようにします」

読者を驚かせるために趣向を凝らす

1964年、宮崎県生まれ。多摩芸術学園映画科(現・多摩美術大学映像演劇学科)卒業。2005年、『孤虫症』で第32回メフィスト賞を受賞し、デビュー。2011年に文庫化された『殺人鬼フジコの衝動』がベストセラーに。2015年、『人生相談。』が山本周五郎賞候補に。『鸚鵡楼の惨劇』『5人のジュンコ』『アルテーミスの采配』など著書多数。

「元々は漫画が好きで、小学6年のときに『春琴抄』を映画で観て、難しい原作に挑戦し、次に『嵐が丘』を読んで、小説が好きになりました。映画学校ではドキュメンタリー映画を専攻し、35歳を過ぎてから小説を書き始めました。カットバックや登場人物の多さなど、学校で学んだ映像の手法を小説に取り入れています。いちばんやりたいのは、読者を驚かせること。テーマパークのアトラクションのように、驚きがある小説を目指しています。まずは担当編集者を驚かさないといけないので、担当さんの考えを想像して、求められているのと真反対のものを書こうと作戦を立てるんです」

デビュー10周年の節目に連載し、今年7月に刊行予定の『私が失敗した理由は』(講談社)は、担当編集者が驚愕とともに太鼓判を押してくれた新作となる。近年“イヤミス”と称される、人間の嫌なところを抉るミステリーの書き手として知られる。

「作品がイヤミスになるのは、私の性格が悪いからではないでしょうか(笑)。善人を演じている人が苦手なので、隠さずに潔くあろうと思っています。また、一人ひとりは悪人でないのに、システムやコミュニティに属して価値観や行動が変わることがある。人間を変えてしまうシステムについて問うのも、私の小説のテーマです。
性格の悪い人ばかりが登場して、自業自得でひどい状態になるので、むしろすっきりする、デトックス小説という感想もいただきますね。行き当たりばったりで書くのは怖い綱渡りですが、プロットを立てると予定調和になりそうなので、この手法でやっていくつもりです」

(青木千恵)

6月31日の同窓会

6月31日の同窓会』 真梨幸子/実業之日本社/1,500円+税

『書名』や表紙画像は、日本出版販売 ( 株 ) の運営する「Honya Club.com」にリンクしております。
「Honya Club 有隣堂」での会員登録等につきましては、当社ではなく日本出版販売 ( 株 ) が管理しております。
ご利用の際は、Honya Club.com の【利用規約】や【ご利用ガイド】( ともに外部リンク・新しいウインドウで表示 ) を必ずご一読ください。
  • ※ 無断転用を禁じます。
  • ※ 画像の無断転用を禁じます。 画像の著作権は所蔵者・提供者あるいは撮影者にあります。
ページの先頭に戻る

Copyright © Yurindo All rights reserved.