Web版 有鄰

524平成25年1月3日発行

会田誠さんの展覧会を見に行った – 海辺の創造力

高橋源一郎

六本木ヒルズのいちばん上にある森美術館で会田誠さんの展覧会をやっていたので、見に行った。すごいなあ。あんな「オシャレ」の権化みたいな場所で、いまいちばん「現代な」美術の展覧会をやってるんだから。

「現代美術」で有名な、そして若い日本人作家というと、まず村上隆さん、それから奈良美智さん、そして会田誠さんということになるんじゃないだろうか。でも、会田さんの作品は(実は、村上さんも奈良さんもだけど)、しかめっ面をして見るような(この言い方自体が陳腐だな)難解な作品じゃなくって、とっても楽しい。ぼくは展覧会の会場を歩きながら、長男(小学校二年生)や次男(小学校一年生)を連れてもう一度来たいなあと思った。まるで「遊園地」みたいなんだ。

もちろん、この「遊園地」、小学校で(どの学校でも)先生が生徒を連れて見学に行くようなものではない(でも、それができるようなら、この国も未来があるってことだ)。 会田さんといえば「少女」を描いた作品が多く、中でも有名な「滝の絵」は高さ四メートル以上もある大作だけど、それはスクール水着を着た女子高生たちが三十人も(そのうち二人はセーラー服)滝の水にうたれながら遊んでいるだけの絵だし、「ジューサーミキサー」では、(おそらく)数百人の少女たちがジュサーミキサーの中でぐるぐる回転していて当然のことながら下の方の女の子は切り刻まれて血だらけだし、「切腹女子高生」では、文字通り、女子高生が切腹してかわいそうにお腹からとんでもないものが出ている。うへい、グロいなあと思っていると、隣の部屋には「戦争画」というシリーズがあって、そこでは、ニューヨークを無数の日本の戦闘機が襲って街は火の海になっているし、それから、日本人の女子高生らしい年代の子と(おそらく韓国もしくは朝鮮の)女子高生らしい年代の子が、それぞれの国旗を持って戦場で向かい合う絵なんかもあって、それらを見ていると、この人は誰よりもこの社会のことを考えて描いているんじゃないかと思えたりする。いや、それだけじゃなくて、他にも、サラリーマンの死体でできた巨大な山を描いたり、特性の自殺用の装置を考案したり(実際にはできないけど)、嘔吐している男のこれもまたデカい張りぼてがあったり、ビン・ラディンが酔っぱらってとりとめないおしゃべりをしているヴィデオを制作したりで、ひとことでいうと「態度が悪すぎます!」ということになるだろう。そして、観客の中には「正視できません」と怒って帰ってしまう人もいるだろう。でも、ぼくは、これは「ほんとうのことをいっている作品」だと思った。

「場の空気」を読まずにほんとうのことをいうのは「子ども」だ。とすると、会田さんは、子どものままおとなになっちゃった人なんだろう。それにしても、「ほんとうのこと」って、実は面白いんだよね。びっくりだよ。

(作家)

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