Web版 有鄰

515平成23年7月11日発行

西條奈加と『四色の藍』 – 人と作品

恋と仇討ちをめぐるエンタテインメント時代小説

西條奈加氏
西條奈加

それぞれに恨みを持つ女四人が集まった

夫の仇、兄の仇――。それぞれに恨みを持つ四人の女の復讐譚。恋と仇討ち、両方の行方に引き込まれる、エンタテインメント時代小説だ。

「四人の女の復讐譚を、時代小説で書いてみたい。最初はその発想のみでした。ストーリーよりもキャラクターありきで始まった、私としては珍しい作り方をした作品です。四人の女の裏側にある物語や、女性というものを書きたかったのだと思います」

藍染めを手がける紺屋の女将・環は、3か月前に夫、紫屋茂兵衛を殺された。茂兵衛が編み出した藍染め技術を狙う、大店「東雲屋」が真犯人だと睨む環は、東雲屋を探る中で、旅装束の若侍、蓮沼伊織と出会う。実は伊織は、男装の女剣士だった。兄の仇討ちのために、四国から江戸に来たばかりの伊織を、環は食客として紫屋に招き入れる。環、伊織、そして、遊女のお唄と、洗濯婆のおくめ。東雲屋とその縁者に対し、それぞれに恨みを持つ女四人が集まった――。

「女剣士、遊女、洗濯婆という、年齢も境遇も性格もばらばらな三人が次々と思い浮かび、アクの強い三人の“まとめ役”として良識的なタイプの環が生まれ、主人公になりました。四人の中でいちばん書きやすいキャラクターはお唄でした。環のような善人タイプよりも悪人タイプの方が、私は書くときに気持ちが乗りますね。アクの強い人には、“そうなる過程”があったんだと思う。人物の裏側に関心があるようです」

女たちは愛憎を抱いて生きている。環は、同心の山根森之介に対し、夫には感じたことがない思いを持ち始める。伊織は、兄の仇として討たねばならない新堀上総に幼い頃から惹かれていた。お唄は、元亭主で、今は東雲屋にたむろするチンピラの束ね役をしている源次を、憎みきることができない。個性的な女たちは、凛とした性格の環のもとで絆を深めていく。

「ひとつだけ四人の女に共通している点は、元々徒党を組まない、自立したタイプであることです。私の友人関係をみても、ひとりで旅行に行ったり、電話やメールは短かったり(笑)、独立心旺盛でしゃきしゃきしたタイプが多い。寄りかからずにそれぞれ自立しているから、頻繁に会わなくても信頼しあい、友人同士でいられるんですね」

『金春屋ゴメス』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞

1964年北海道生まれ。2005年、『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。時代は近未来、日本領土内に「江戸国」があるという斬新な設定で、読者を驚かせた。デビュー後、物語で読者を引っ張るエンタテインメント小説を発表。著書に『烏金』『恋細工』『善人長屋』『無花果の実のなるころに』など。子供の頃から空想癖があり、夜じゅう物語を考えて遅刻したり、会話中に空想の世界に数分ほど飛んでしまったことが何度もあった。

「子供の頃から本ばかり読んでいて、小説を自分で書き始めたのは20代後半頃からです。翻訳を志して英語の専門学校を卒業しましたが、人が書いたことを自分の言葉で訳すより、最初から自分で書いた方がいいと気づいて書き始めました。仕事が忙しくなって10年ほど書かないでいたところ、『金春屋ゴメス』の話を思いつき、この話、私も読みたいなと思い、頑張って書き上げました。その作品でデビューしました」

大賞を受けた作品が“近未来捕物帖”だったからか、デビュー後、出版社から寄せられる執筆依頼のほとんどが時代小説だった。次々書き上げて、現在、気鋭の時代小説家として注目されている。実は、読んできた作品は現代物が多かった。好きな作家、宮部みゆきさんの作品から興味が広がり、時代小説を読み始めたのは、30歳を過ぎてから。そのため、執筆依頼をこなす“実地訓練”により、書く実力をつけていった。

「この五年間は、勉強一色(笑)。大変でしたが、一つひとつ仕上げるうちに書くことが楽しくなり、苦手意識がなくなってきました。私の小説には、この本だと伊織とお唄の場面のように、本筋には関係ない、おちゃらけた会話だけのやり取りが出てきます。私は、会話が書きたいんですね。漫才をさせたいというか、会話を書きたいがために、間にストーリーを挟んでいると言えるくらい。泣くより、笑ってもらえる小説が書きたい。『感動した』も有難いですが、『面白かった』『読書で二時間、楽しく時間をつぶせた』と言っていただけたら、いちばん嬉しいです」

(青木千恵)

『四色の藍』・表紙

四色の藍
西條奈加/PHP研究所/1,500円+税

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