Web版 有鄰

555平成30年3月10日発行

本が好きでたまらない!――私のランキング – 1面

恩田 陸

疑問を覚えつつも気になる「ランキング」

恩田陸さん・本屋大賞実行委員会提供

本屋大賞実行委員会提供

ランキングというものが、完全に消費者のモノを買う指標になって久しい気がする。人は売れているものを買う、というのが厳然たる事実になったのだ。そういう風潮に疑問を覚えつつも、やはりランキングは気になるし、特に本については、他人や気になるあの人が何を選んだのか知りたいと思うものである。

そんなわけで、これまでにいろいろなアンケートに答えてきたし、アンケートの結果にも注目してきた。ここでは、これまでに答えたアンケートの中から幾つか紹介してみたい。カッコ内は、アンケートの載った媒体である。それぞれのコメントは今回付けたもの。

時間を忘れさせてくれる文庫ベスト5

  • 『戒厳令の夜』上・下
    五木寛之/新潮文庫
  • 『ドナウの旅人』上・下
    宮本 輝/新潮文庫
  • 『田中角栄研究全記録』上・下
    立花 隆/講談社文庫
  • 『ガン回廊の朝』上・下
    柳田邦男/講談社文庫
  • 『ファイアスターター』上・下
    スティーヴン・キング/新潮文庫

(1998年『この文庫がすごい』宝島社)

この頃は、とにかくページターナーである本がこの世でいちばん偉いと思っていた。まだまだ若かったのだ。最近は、「面白くない」というのも「面白さ」の一種であると考えるようになったので、今同じことを聞かれたら、小説3本は入れ替わるかもしれない。

海外ミステリマイベスト7

  • 『毒入りチョコレート事件』
    アントニイ・バークリー/創元推理文庫
  • 『時の娘』
    ジョセフィン・テイ/ハヤカワ・ミステリ文庫
  • 『スイート・ホーム殺人事件』
    クレイグ・ライス/ハヤカワ・ミステリ文庫
  • 『薔薇の名前』上・下
    ウンベルト・エーコ/東京創元社
  • 『緑は危険』
    クリスチアナ・ブランド/早川書房
  • 『レベッカ』上・下
    ダフネ・デュ・モーリア/新潮文庫
  • 『黒後家蜘蛛の会』1~5
    アイザック・アシモフ/創元推理文庫

(1999年『EQ翻訳ミステリー大全特集』光文社)

なぜ7本というハンパな数なのかというのは当時も今も疑問に思うが、この7本は不動。もしかすると、今なら『レベッカ』を、直近でいちばん感心した『13・67』(陳 浩基/文藝春秋)に入れ替えるかも。

アガサ・クリスティー私のベスト5

  • 『葬儀を終えて』
  • 『終りなき夜に生れつく』
  • 『メソポタミヤの殺人』
  • 『ねじれた家』
  • 『鏡は横にひび割れて』

すべて早川書房クリスティー文庫

(2000年『ハヤカワミステリマガジン』早川書房)

クリスティーは後期のものが好きだ。初期の超有名作品は、トリックを一行で説明できるものが多く、ガイド本や友人に読む前にネタばらしをされてしまったので読む機会を逸してしまったというのもある。昔のミステリーのガイド本って、思いっきりネタばらしをしていたものが多かったけれど、あれはいったいどういうつもりだったんだろう?

今もう一度聞かれたら、『スリーピング・マーダー』を入れたい。

文庫SFマイベスト5

  • 『地球の長い午後』
    ブライアン・W・オールディス
  • 『成長の儀式』
    アレクセイ・パンシン
  • 『緑の瞳』
    ルーシャス・シェパード
  • 『闇の聖母』
    フリッツ・ライバー
  • 『リンカーンの夢』
    コニー・ウイリス

すべてハヤカワ文庫

(2001年『新SFハンドブック』早川書房)

こうしてみると、やはり私の好みはコアなSFというよりも、幻想小説寄りという気がする。この頃、まだコニー・ウイリスは『ドゥームズデイ・ブック』上・下(ハヤカワ文庫)も『航路』(ハヤカワ文庫)も出していなかったし、今と全然イメージが違っていた。

架空長編アンソロジー

  • 『料理人』
    ハリー・クレッシング/ハヤカワ文庫
  • 『地に火を放つ者』
    三田誠広/トレヴィル
  • 『リプレイ』
    ケン・グリムウッド/新潮文庫
  • 『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち』上・下
    リチャード・アダムズ/評論社
  • 『地獄の家』
    リチャード・マシスン/ハヤカワ文庫
  • 『香水』
    パトリック・ジュースキント/文春文庫
  • 『傭兵ピエール』上・下
    佐藤賢一/集英社文庫
  • 『透明人間の告白』上・下
    H・F・セイント/河出文庫
  • 『フリッカー、あるいは映画の魔』上・下
    セオドア・ローザック/文春文庫
  • 『神無き月十番目の夜』
    飯嶋和一/小学館文庫
  • 『蟻』
    ベルナール・ウエルベル/角川文庫

(2003年『図書』岩波書店)

これは説明が必要だろう。恐らく最初は「あなたが短編のアンソロジーを作るとしたら」というお題だったと思う。私は、いろいろな作家の短編を集めたアンソロジーというのは、読者側に技術が必要なので読書初心者にはハードルが高いというのが持論で、もし自分でアンソロジーを編むとしたら、長編でやってみたいと思い(こうなるとアンソロジーというより文学全集ですが)、このようなリストを作った次第である。

コンセプトは、ジャンル分け不能な小説で、強烈な世界が築きあげられているもの、なおかつエンターテインメント性に優れたもの、という基準で選んだ。

私の好きなポケミスベスト3

  • 『ペーパーバック・スリラー』
    リン・メイヤー
  • 『もう一人のアン』
    スーザン・ジャフィー
  • 『黒い蘭の追憶』
    カーリーン・トンプスン

すべて早川書房

(2013年『ハヤカワミステリマガジンポケミス60周年記念特集』早川書房)

1800番台まで出ているポケット・ミステリから3冊選ぶのは無理だと最初からあきらめ、女性作家のサスペンスで文庫になっていないもの、なおかつそれしか出していない、一発屋に近い人という基準で面白かったものを選んだ。

紀行文学3冊

  • 『五足の靴』
    五人づれ/岩波文庫
  • 『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』
    石井好子/河出文庫
  • 『Shall we ダンス?アメリカを行く』
    周防正行/文春文庫

(2010年『考える人』新潮社)

私の脳内では、石井好子も周防正行も、この本は紀行文学である。

知的好奇心がめちゃめちゃ刺激される5冊

  • 『大阪の神さん仏さん』
    釈 徹宗・高島幸次/140B
  • 矢印『災害と妖怪』/畑中章宏/亜紀書房
  • 『IMF』上・下
    ポール・ブルースタイン/楽工社
  • 矢印『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』上・下
    アンドリュー・ロス・ソーキン/ハヤカワ文庫
  • 『禅とハードル』
    南 直哉・為末 大/サンガ
  • 矢印『身体能力を高める「和の所作」』/安田 登/ちくま文庫
  • 『仙台で夏目漱石を読む』
    小森陽一・荒蝦夷
  • 矢印『「山の音」こわれゆく家族』/ジョルジョ・アミトラーノ/みすず書房
  • 『映画術』
    塩田明彦/イースト・プレス
  • 矢印『建築映画マテリアル・サスペンス』/鈴木了二/LIXIL出版

(2017年「ブック・ツリー」)

これは本の紹介サイトで、テーマも自分で決めた。矢印の右の書名は、上の本を読んで気に入ったら、下の本もお薦めです、という意味である。

未来に読み継ぎたい平成の3冊

  • 『バガボンド』1~37
    井上雄彦/講談社モーニングKC
  • 『白夜行』
    東野圭吾/集英社文庫
  • 『自壊する帝国』
    佐藤 優/新潮文庫

(2018年「サンデー毎日」毎日新聞出版)

これがいちばん直近に受けたアンケートである。30年になろうとしている平成から3冊選ぶなんて、ものすごく殺生な企画であったが、「これが登場してそのあと世界が変わった」と思うものを選んだ。

元号が変わって、もうしばらく経ってから振り返った時、このリストがどうなっているのか、自分でも興味がある。

※掲載書籍には絶版・品切のものも含まれています。

恩田 陸 (おんだ りく)

1964年宮城県生まれ。作家。2005年、『夜のピクニック』(新潮社)で本屋大賞を受賞。
2017年、『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)で直木賞、本屋大賞を受賞。

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