Web版 有鄰

502平成21年9月10日発行

有鄰らいぶらりい

自殺プロデュース』 山田悠介:著/幻冬舎:刊/1,100円+税

2001年のデビュー作『リアル鬼ごっこ』がミリオンセラーとなり、映画化されるなど若者層の人気を得ている著者の最新作。

全体として現実ではありえないゲームに、主人公たちが巻き込まれるという設定が多い。この作品も大学の演奏部に属する女子学生6人の、裏活動を描いたホラーである。

リーダーの美女、真理乃に言わせると、その活動は「自ら命を絶つ方たちに美しく“良い死”を迎えてもらう」役目である。具体的にはリーダーが自殺希望者を選び、死の前に希望の音楽を演奏して、最後の時間を送らせるという「自殺幇助」である。

「プロローグ」の主人公は、二人暮らしだった母親に自殺され、その後、契約社員として自動車会社に就職、恋人も出来た男。不況の到来で、10年勤めた会社を首になったとたん、恋人から「無職になった人とは結婚できない」と一方的に宣告され、亡母と住んでいた団地の屋上から飛び降り自殺する話。

男が死んでからは、当然、主人公は代わり、6人の中で最後に真理乃から選ばれたバイオリン奏者の「私」白川。以後、真理乃を慕う「私」を通して、次々と演奏による自殺者葬が行われるが、ある自殺志願者の変節から、ことはおどろおどろしい殺人事件に変わっていく。

明治キワモノ歌舞伎 空飛ぶ五代目菊五郎
矢内賢二:著/白水社:刊/2,500円+税

明治キワモノ歌舞伎 空飛ぶ五代目菊五郎・表紙

『明治キワモノ歌舞伎 空飛ぶ五代目菊五郎』
白水社・刊

五代目尾上菊五郎といえば九代目市川団十郎とともに「団菊」と並び称された明治時代を代表する歴史的名優だが、新しいものに目がなく、舞台に持ち込んでは観客の目を白黒させた。

イギリス人の風船乗りが来日して評判になると、さっそく「風船乗評判高閣[ふうせんのりうわさのたかどの]」を興行。今なら、芸術院会員にして人間国宝といったエラい役者が、ヒゲモジャのイギリス人曲芸師に扮し、気球で宙乗りをする。

日清戦争では「海陸連勝日章旗[かいりくれんしょうあさひのみはた]」を上演、軍服を着て「本物の軍人そこのけの、しびれるようにカッコいい敬礼をしてみせた」。観客は「音羽屋は今度は何をやるのだろう」と、胸を膨らませて劇場に足を運んだという。

<「古典芸能」という座布団の上にチンと収まる以前、歌舞伎はバイタリティ溢れる「見世物」の親玉でもあった>

と著者は言う。

いまではゲテモノと紙一重の意味で使われ、歌舞伎の研究でもほとんど出てこないキワモノ(際物)についても、「日本の芸能史においては由緒正しいテクニカル・タームの一つ」と評価する。

歌舞伎が「キッチュな見世物」として時代と呼吸をともにしていた頃の姿を、菊五郎を通じて見事に浮かび上がらせている。

お岩 小山内薫怪談集
東雅夫:編/メディアファクトリー:刊/2,300円+税

築地小劇場を創立するなど日本近代演劇の祖といわれた演出家、劇作家、評論家の小山内薫が、大正8年から翌年にかけ日刊紙「万朝報」に連載した幻の長編時代小説。

「お岩」は鶴屋南北・作の歌舞伎『東海道四谷怪談』や講談などで有名なヒロインだが、長編小説になったのはこれがはじめて。これまで単行本化されず、全集にも収録されなかった、ホラー小説の元祖とも言うべきこの物語を、編者(怪談専門誌『幽』編集長)が他の怪談に関する小文とともに収録している。

物語は幕府同心を勤める民谷家の老夫婦が家の血筋を保つため、ただ一人残る孫娘、お岩の婿を探すところから始まる。醜く生まれついたお岩は、年頃になって疱瘡を患い、顔は一面の黒痘痕、片目がつぶれ、腰まで曲がっていた。

普通の手段では、婿取りはできないと思った老夫婦は、婿を金で買おうと、同僚の近藤六郎兵衛を通し、女衒をはじめ、あらゆる周旋業を裏の仕事にしている風車の長兵衛に婿探しを依頼する。

長兵衛は露天で易者をしていた浪人、柳原数馬に目をつけ、数馬も民谷家の豊かな家屋敷や身分にひかれ、見合いもしないまま、民谷伊右衛門と改名して結婚する。

このあたりまでは歌舞伎などのストーリーとほぼ同じだが、その後、話は思わぬどんでん返しを含め複雑に展開する。

完全復刻版 新寶島
酒井七馬:原作構成 手塚治虫:作画/小学館:刊/1,905円+税

戦後間もない昭和22年に出て、藤子不二雄、石森章太郎、赤塚不二夫、横尾忠則など全国の少年に衝撃を与えたという手塚の単行本デビュー作(別冊で藤子、横尾らが当時の驚きを書いている)。

これまで復刊や復刻が無かったのは、酒井七馬との共作の形になっているのを生前の手塚が嫌がったためらしい。

表紙に「SHINTAKARAZIMA」というローマ字表記があったのも当時はカッコよかったらしいが、「本文のページをめくって、僕は目のくらむような衝撃を感じた」と藤子Aが書いている。

1コマ目はオープンスポーツカーを走らせる少年。2コマで波止場と書かれた標識の前を車が進む。3コマ目では海の見える道を、こちらへ向かって車がクローズアップ。4コマ目は波止場のロングショット、少年は走る車から飛び降りようとしている。

「この間セリフもなければ擬音も一切ない。それなのに僕は、ギャーン!と唸るようなマシンの轟音を確かに聞き(中略)。こんな漫画見たことない」

手塚自身も、従来の平面的な漫画の手法にあきたらず、映画的手法を取り入れた、と自著で語っている。話自体は「宝島」と「ターザン」を合成したような単純なものだが、こうした新鮮な手法が、当時の少年たちを驚かせたらしい。

(K・K)

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