Web版 有鄰

556平成30年5月10日発行

がんばれ、横浜DeNAベイスターズ!! – 1面

佐藤多佳子

横浜大洋ホエールズ時代からの横浜ファン

2年続けて、沖縄の春季キャンプを取材、見学した。主に、投手陣を見ていたが、今年は、去年に増して、ブルペンでの各投手から、強烈な意思が伝わってくるようだった。自分がやる――という意思だ。最高のパフォーマンスを自分こそが見せるという強い意思。

チーム内での競争は熾烈だ。開幕投手を目指す、ローテーションに入る、勝ち継投のリリーバーになる、1軍に残る――目標はそれぞれだが、その当落の厳しさをひしひしと感じた。それぞれの覚悟や闘志が、ビシビシと鋭い音をたてて、ブルペンの捕手のミットに響いていく。優勝するための戦力として、年間を通じて機能するための準備を各自が着々と進めている。

投手陣をよく見るのは、プロのピッチャーを主人公とした野球小説を構想し、取材中ということもある。でも、そもそも、そういう視点で書きたいと思うこと自体、ピッチャーが好きなのだろう。横浜のファンになったきっかけが、横浜大洋ホエールズの遠藤一彦投手であり、その後ベイスターズに変わってからは、長くチームを支え続けた三浦大輔投手をずっと応援してきた。チームのファンなので、あまり個人を特別に応援しないほうだが、やはり、その時代、時代で、気になる選手は存在する。

宜野湾キャンプで注目した選手たち

宜野湾キャンプでの投手陣の練習は、全体でのウォーミングアップの後、野手陣と分かれて多目的広場でのキャッチボール、サブグラウンドでの各塁スロー、そして、4班5人のグループごとの練習になる。メイングラウンドで野手陣と一緒の投内連係、室内練習場でのバッティング練習、ブルペンでの投球練習など内容も場所もそれぞれなので、どこを見ようか、けっこう迷う。それでも、やはり、午前中からお昼過ぎまでは、かなりの時間、ブルペンに釘付けになる。

2月4日のブルペンでは、後刻取材予定があった、石田健大投手、田中健二朗投手に注目した。昨年も同じ時期にブルペンを見たが、制球のいい両投手なのに、球がバラついていて首を傾げるシーンが見受けられた。今年は、捕手の構えたところにビシリと決まり、ストレートの伸びや変化球のキレもいい感じに見える。まだ、7、8割の力の投球だと思うが、表情もとても明るくて、見ていて嬉しくなる。

6日には、ルーキーの東克樹投手が、初めて捕手を座らせて投球した。アレックス・ラミレス監督を始め、首脳陣、取材陣が大勢見守る中、東投手はかなり緊張気味だった。あとから投球内容が0点という辛い自己批評と反省のコメントを出していたが、照れくさそうにブルペンを出る姿は初々しかった。

東投手の隣で投げていたのが、高卒で入団4年目の飯塚悟史投手だ。年齢は飯塚投手が1つ下だが、プロとしてのキャリアはしっかり積んでいる。2人は、先発ローテーション入りを争うライバル関係でもある。

飯塚投手は、もともとマウンド上ではポーカーフェイスだが、この時も、実に淡々と投げていた。ドラフト1位ルーキーに集まる周囲の注目を気にしない集中力が見事だった。しかも、筒香嘉智選手がブルペンを訪れ、目慣らしをするために、打者として立ったのだ。もちろん、スイングはしないが、打席に立って構えるだけでも、ものすごい威圧感がある。

昨年、筒香選手がブルペンで目慣らしに来た時に投げたのは、ベテランの井納翔一投手だった。この巨漢同士の投打の組み合わせは、ブルペンが一気に狭く感じるような豪快さがあり、イベント的に楽しく見てしまった。今年の飯塚投手は、ブルペンといえども、真剣なチャレンジャーに見えた。打席に偉大なるキャプテン、隣に注目のドラ1ルーキーという環境で、クールに球をコントロールし、100球近く熱投した。

昨年も、キャンプのブルペンで飯塚投手を見て、球のキレやコントロールなど印象的だったのだが、紅白戦で打たれてすぐにファーム行きになってしまい、厳しい世界だと痛感した。シーズンでは1軍で9試合登板し、8月に念願の初勝利をあげた。そして、2回目の1軍キャンプを今年は完走し、オープン戦でも威力を増したストレートと新球カットボールが効果的で、見事な結果を残し、開幕ローテーション入りが当確と思われる。

東投手も、オープン戦で、ストレートとチェンジアップの緩急のコンビネーションが冴える、期待に違わぬナイスピッチングを披露し、ラミレス監督に絶賛されて、ローテ入りは確実だ。21歳、22歳、若い力が、生き生きと躍動して、開幕を待っている。

7日のブルペンでは、3人の投手の速球を同時に見た。入れ替わりもあり、隣り合わせではなかったが、同じ時間に投げていた。向かって右から、井納投手、山﨑康晃投手、今永昇太投手だ。

投手の球は生き物だ。特に一流のプロ野球投手のストレートは、圧倒的な個性であり、名刺代わりとも言える。

キャンプ序盤なので、全力投球というよりは、テーマを持った練習だと思う。今永投手は新しい球種のパワーカーブの練習中で変化球も多かった。井納投手は2段モーションを取り入れた新しいフォームを定着させるために、238球という大変な球数を投げていた。

井納投手の速球は、捕手のミットで爆発するような印象だ。捕球の仕方で音も変わると聞くが、力のある重い速球が、まさに炸裂する。破裂音のような爆音が響く。捕手の「ナイスボール!」の声も炸裂する。

山﨑投手の速球は、ぐりんぐりんと力強い回転でえぐるように迫ってくる。本当に生きているような球だ。決して高めに浮かない。魔球と言われる鋭く落ちるツーシームが有名だが、このすごいストレートあっての変化球だと、目を奪われる。

今永投手は左腕であり、平均球速は140キロ台半ばなのだが、三振を奪えるストレートの威力は鳴り響いている。豪快に速い!というより、あっという間に捕手のミットに納まる速球だ。すーっと投げて、とにかくもうミットの中、過去完了という感じなのだ。

簡単な言葉で印象のみしか語れないのが、もどかしいが、本当に三者三様の異なる「速さ」を見られて幸福だった。

これは、キャンプ序盤のわずか2日間のブルペンの光景である。ここから、各投手、試行錯誤してフォームを調整し、固めていき、練習試合とオープン戦にのぞむ。今永投手は、日本代表の試合に出場した。

今、この原稿を書いているのは、開幕間近の3月下旬だ。今永投手はコンディション不良という報道があり、井納投手は中継ぎにまわる可能性も示唆されて、開幕ローテーションについては、まだ不確定である。

オフシーズンに見る選手たちの真摯な姿勢

キャンプとオープン戦の期間に、3人の投手にインタビューする機会があった。田中投手、石田投手、今永投手の3人の左腕だ。ショート・インタビューだったので、昨シーズンの振り返りを中心に、どんな心構えで、自主トレやキャンプで準備して今季につなげていくかを聞いた。拙いインタビュアーだが、適確な言葉で誠実に話してもらえて、本当にありがたく嬉しかった。

以前、陸上の北京五輪日本代表リレー・チームの取材をしてノンフィクションの単行本を書いたことがあるが、トップ・アスリートは、自分の競技に対して、本当に「いい言葉」を持っていると心底感じた。今回も、短時間だが、3人の「いい言葉」に触れることができた。アマチュアの個人競技である陸上短距離と、団体競技であるプロ野球は、もちろん多くのことが違うが、選手としての自分の現状を正確に分析し、足りないところを補い、さらに向上させる道を探る真摯さと切実さは、共通する。

結果が出た年も不本意だった年も、オフにどれだけ自分としっかり向き合えるのかで、翌シーズンが大きく変わってくるのだろう。3人とも本当に素晴らしい言葉でそれを語ってくれた。田中投手は自然体の中に強靭な意志を、石田投手はそれ自体が武器と思えるほどの率直さを、今永投手は対面していて圧されるような凄い前向きのエネルギーを感じた。

限られたポジションを競っていく団体競技の選手は、相手チームより前に、自分のチームの選手と戦わなければならない。そんな中で、ベイスターズの投手陣は、自分のスキルや経験を惜しみなくチームメイトに伝えあっている。そこに先輩後輩の垣根や遠慮は、あまりないようだ。優勝を目指して共に戦うことと、競い合って自らが抜きんでることが、同じように行われる。当たり前のことかもしれないが、私にはとても不思議で美しく感じられる。

佐藤多佳子
佐藤多佳子 (さとう たかこ)

1962年東京都生まれ。作家。著書『明るい夜に出かけて』新潮社 1,400円+税、他多数。

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