Web版 有鄰

501平成21年8月10日発行

真藤順丈と『RANK』 – 人と作品

行動を監視された近未来の管理社会を描く

真藤順丈
真藤順丈

国民に順位をつける制度〈RANK〉

昨年、4つの新人賞を立て続けに受賞、“新人賞4冠の驚異の新人”として一躍注目作家に。受賞作は順次刊行され、本作が受賞作刊行のトリである。2019年、行動の全てをカメラのネットワークで監視し、国民に絶えず順位をつける制度〈RANK〉が行われている社会を描く近未来アクション長編だ。

「監視社会というより管理社会を扱って、SF、ディストピア(反楽園)ふうのエンターテインメントを書いてみよう――が最初でした。着想は6、7年前、自分にとって初めて書いた長編小説です。受賞後、現段階で最善のものを出そうと、特に後半部分を大幅に書き直しました」

〈RANK〉制度を統括する省庁「監査調整局」に所属し、順位低位者の“処理”を担当する「執行官」の中に、春日嘉明、佐伯敏鷹という二人の男がいる。冒頭、低ランクの「執行該当者」を、〈おまえは屑だ。人間の屑。それで終わりだ〉と、冷酷に処理する佐伯。佐伯の歪んだ正義感と仕事ぶりは局内で顰蹙を買うほど激しく、一方、春日は任務に疑問を抱いていた。

「ものを作る人間の職業病かもしれませんが、住基ネットのような制度ができたり、社会現象があると、その行き着く先を考える。管理社会の流れの中で、〈RANK〉制度を構想したと思います。支配する側の末端の役人を書く際に、二つの価値観を書いてみたかった。制度を天職として殺人を謳歌してしまうタイプと、制度の中にいながら疑問を感じているタイプ」

暴走する佐伯は、取り調べ対象の女、朝霞友恵を“処理”してしまう。春日は友恵の遺児、一彦が預けられている施設に行き、監視の束縛に耐えかねて精神失調に陥った加藤詩織と出会う。「眼」に監視され、刻々と動く人々の順位の数値変化が物語を躍動させるディテールになり、読者を引きつける。低順位者が口々に言う〈ゼロから誰になる?〉の意味は?反乱を煽って自決した高名な評論家が示唆した〈最下位の人〉とは何者か――?意表をつかれる結末が待っている。

「自分の小説では、大きな存在が姿を現わさないで物語を引っ張る構成をとることが多く、この作品ではそれをとことんやってみようと、都市伝説的な〈最下位の人〉を置いてみました。自分が何位かなんて、考え始めたら身も蓋もないことですよね。書き始めた頃はとくに外から評価を決められることへの憤りみたいなものが強かったので、〈RANK〉を壊す方向に向かう構想でしたが、徐々にスタンスが変わって、良いも悪いもない状況を人物に体現させる話になっていきました。一回飲み込んだ問題がどういうふうに出てくるのか、アウトプットを試しながら移動していくスタンスというのがあって、その分混沌としたエンターテインメントとして読んでもらえればと。ランク付け自体は良いとも悪いとも言えないし、誰もがオンリーワンであればいいという言葉はまやかしだと思う。オンリーワンといった種類の言葉で思考停止させるような動きに対して、違うんじゃないの?という感覚は今でもあります」

軸足はエンターテインメントに置く

1977年東京生まれ。映画、ウェブ映像コンテンツ製作を経て、08年に『地図男』でダ・ヴィンチ文学賞、『庵堂三兄弟の聖職』で日本ホラー小説大賞、本作でポプラ社小説大賞特別賞、『東京ヴァンパイア・ファイナンス』で電撃小説大賞銀賞。ずっと映画や本に親しみ、小説では平山夢明や貴志祐介、映画ではデヴィッド・フィンチャー、パク・チャヌク、ジャン=ピエール・ジュネ、ジュゼッペ・トルナトーレの作品を挙げる。

「文章という、自分だけのアウトプットで勝負したくて小説を書き始めました。投稿して突破できず、30歳位でものにならなかったらあきらめよう、あきらめるなら言い訳の余地を残さない荒行をしておこうと、月に1本応募すると決めた。仕事を減らし、最低限食える状態で月1本出し始めたら、急に毎月のように受賞して、これは何か落とし穴があるなと、今その落とし穴にいるって感じですね(笑)。人間の心の闇を描いた作品に惹かれるのは、結局は人間を書きたいんだと思う。陽も陰もあるのが人間で、陰の世界を書くだけが全てじゃないから、どちらも掘り下げていきたい。ジャンル不明、カテゴライズ不能なところを志向しつつ、軸足はエンターテインメントに置いておきたい。当面は、4つの賞の受賞第一作を書きます」

(青木千恵)

『RANK』・表紙

RANK
真藤順丈/ポプラ社/1,700円+税

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