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第123回 2011年6月9日 |
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この作家の新境地にして勝負作!! | |||||||||||||||
例年になく早い梅雨入りで気分が滅入っている方も多いと思われますが、こういう時こそ室内で読書が一番! 特に、最近は驚くほど力作の文芸書が次々と発売になっており、これを読み逃す手はありません。 今回は、いままさにおすすめの“この作家の新境地にして勝負作!”と言える新刊をご紹介します。 |
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主人公は、定年間近の刑事・香西。彼には、「死の匂い」を感知するという特殊な能力がある。定年を1ヶ月後に控えたある日、失踪者の足取りを追っている捜査中、香西は最新鋭のゴミ処理施設で「死の匂い」を嗅いでしまう。いったい、この施設で何があったのか? 香西は独自に捜査を進める。そんな折、かつて彼が担当して未解決のまま時効を迎えた幼女殺害事件の犯人を知っているという人物から電話がかかってくる。この2つの事件に香西はどうやって決着をつけるのか? 一度読み始めたら続きが気になってならないノンストップミステリーであるが、本書の一番の読みどころは、人間の「生き様」が描かれているところである。定年を目前にした男が自らの仕事に決着をつけようとするその姿勢、そして、人が「怪物」となりゆく過程。香西という男の生き様をしっかと見届けていただきたい。 本書には、このような特設サイトも。 |
![]() 怪物 ![]() 福田和代:著 集英社 1,890円(5%税込) |
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本書の舞台は阪神大震災直前の1994年の大阪、神戸。大阪のドヤ街で暮らす礼司は、大富豪の妻結子の小説を書いてくれと頼まれる。わがままで贅沢でつかみ所のない結子。この女はどういう人間なのか、探るうちに礼司は次第に結子にのめりこむことになる。 本書は構成が凝っている。震災で行方不明になった青年(礼司)が書いた小説が15年後に発見され、それを掲載するという体裁をとっているのだ。最後まで読み終えた後に冒頭を読み返すと、本書は、波乱に満ちた半生を歩んできた結子の物語でありながら、複雑な生い立ちを持つ礼司の物語でもあるということに気付かされる。人一人の人生を描いた物語はそれだけでもちろん一つのドラマであるが、個と個の物語が交錯したとき、より豊潤な物語になると教えてくれているかのようだ。 もうひとつ注目すべきは、1994年という設定だ。そう、阪神大震災と地下鉄サリン事件のあった前年であり、携帯電話もほとんど普及していなかった頃のことである。1995年以前と以降で何が変わったのか?時代考察に満ちた1冊でもある。 |
![]() この女 ![]() 森絵都:著 筑摩書房 1,575円(5%税込) |
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主人公は高校二年生の悠奈。非常勤講師の津田に淡い恋心を抱いていたが、津田はある日突然姿を消す。どうやら、12年前に父が亡くなった事故に関係しているらしい。津田を追って因習残る田舎町まで辿り着いた悠奈。そこには驚愕の真実が彼女を待ち受けていた。 本書はひと昔前の赤川次郎作品のような味わいもあれば、横溝正史の世界のようなサスペンスも持ち合わせている。これまでは若年層に支持されてきた著者だが、この作品では赤川次郎世代(20~30年前のYA層)の読者も掴めるのではないかと期待される。 普通の女子高生のほんの数日間の出来事を描いた作品なのだが、冒険と恋とサスペンスがミックスされたジェットコースターのような展開に圧倒されどおし。単調な毎日にうんざりしている、6月になってもまだ五月病を患っている方に特におすすめしたい。 |
![]() キミは知らない ![]() 大崎梢:著 幻冬舎 1,470円(5%税込) |
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文・加藤泉
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