本の泉 清冽なる本の魅力が湧き出でる場所…

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第128回 2011年8月18日


●執筆者紹介●


加藤泉

「本の泉」執筆リーダー
有隣堂アトレ恵比寿店

仕事をしていない時は
ほぼ本を読んでいる
尼僧のような生活を送っている。


磯野真一郎

「本の泉」執筆メンバー
有隣堂 販売促進室
書籍仕入・販促担当

晴れて気持ちのいい休日は、
自転車で遠くの公園に出掛けて本を読んでいます。

岩堀華江

「本の泉」執筆メンバー
有隣堂厚木店
文芸書・文庫を担当

本と映画、そして音楽がないと生きていけないと思っています。

広沢友樹

「本の泉」執筆メンバー
有隣堂アトレ新浦安店
文芸書・コミック等を担当

書評と建築、
そして居心地の良いカフェや図書館が好きです。

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~落ち込んでいる人へ~
 

(この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません)


 
平尾才助
(55歳…書店員歴33年)

悠木和雅
(44歳…書店員歴15年)

野口魚子
(33歳…書店員歴6年)










  平尾:   おいおい、どういうことだよ。直木賞予想の回以外に我々が招集されるとは。
  野口:   前にもこういうことありましたよね。(第91回
  悠木:   その直木賞予想ですよ。先日の私達の予想が大ハズレだったじゃないですか。(第125回
  平尾:   ワシなんか、ハズれたらとんだ笑いものになる、なんて言っちゃった!
  野口:   ほんと、余計な一言でしたね。我々の生みの親はショックのあまり寝込んでしまったらしいですよ。
  平尾:   今回は代理として本を紹介しろってことだな。
  悠木:   お題は何でもいいのでしょうか?それでしたら、落ち込んでいる人を励ますような本にしましょうよ。
  平尾:   ああ、それはいいな。じゃ、1人1冊ずつ紹介していこうぜ。




まともな家の子供はいない・表紙画像
まともな家の
子供はいない

津村記久子:著

筑摩書房
1,575円(5%税込)





















    津村記久子
   『まともな家の子供はいない』(筑摩書房)

 
  平尾:   ワシのおすすめはコレ! 津村記久子『まともな家の子供はいない』。
  悠木:   どういう内容なんですか?
  平尾:   中学3年生のセキコは、働かないで家でゴロゴロしている父親のことが大嫌いで、夏休みはなるべく家の外で過ごすようにしてるんだよ。
  野口:   図書館に行ったり、友達の家にお邪魔したり。
  平尾:   そう。でもな、そこで彼女はそれぞれの家庭が抱えている実情を目の当たりにして、まともな家なんてない、まともな親なんていない、ってことに気づくんだ。
  悠木:   は~、なるほど。中学生特有の苛立ちですね。
  平尾:   うむ。でもな、この作家のすごいのは、中3女子の不平不満を描いてはいるが、そこに普遍性があるとこなんだよな。
  野口:   はい。私も読みましたが、セキコの苛立ちはことごとくこの世の生き辛さに通じていると思いました。
  悠木:   へぇ~。
  平尾:   真夏の太陽にまで文句言っちゃってるからな。「人間はすごく無理をして生きている」っていうのがこの作品のテーマだな。
  悠木:   誰かにそうはっきり言ってもらえると、肩の力が抜けて楽になれますよね。
  平尾:   最近なんかイライラする~って人は、この本を読むといいと思うぞ、ワシは。
  野口:   そんなイライラしてる自分がイヤで落ち込んじゃってる人に最適ですね。




ジュージュー・表紙画像
ジュージュー
吉本ばなな:著

文藝春秋
1,155円(5%税込)











    よしもとばなな 『ジュージュー』 (文藝春秋)
 
  悠木:   次、野口のおすすめは?
  野口:   はい。私は癒し系ど真ん中で、よしもとばなな『ジュージュー』を!
  平尾:   内容案内には「朝倉世界一のマンガにインスパイアされて書かれた」とあるな。
  野口:   はい。『地獄のサラミちゃん』です。このコミックを読んだ後に『ジュージュー』を読むと作品の世界がより面白く感じられると思いますよ。
  悠木:   「ジュージュー」というタイトルの意味は?
  野口:   地獄のサラミちゃん』の主人公サラミちゃんが働いているステーキハウスの名前です。『ジュージュー』の主人公の母親はこのコミックが大好きで、ステーキハウスを開くときに「ジュージュー」という名前にした、という設定になっています。
  平尾:   で、野口はこの本のどこが気に入ったんだ?
  野口:   大切な人を失ったり、大好きな人と結ばれなかったり、人生はままならないものですよね。それでも自分の居場所をしっかりと築いていく主人公の姿にとても勇気をもらえたんです。
  平尾:   よしもとばななの真骨頂だな。
  野口:   はい。特に、心が弱っている時に読むと効きます。「今がそんなに悪くない。ただそれだけでいい」とか「意図さえ持っていれば、時間の中でものごとは単純になっていく」とか、ハッとさせられる言葉の宝庫です。
  悠木:   よし、この本は我々の生みの親に贈ることにしよう。




コンニャク屋漂流記・表紙画像
コンニャク屋漂流記
星野博美:著

小学館
1,785円(5%税込)



















    星野博美 『コンニャク屋漂流記』 (小学館)
 
  野口:   悠木さんのおすすめは?
  悠木:   はい。星野博美『コンニャク屋漂流記』を。『転がる香港に苔は生えない』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した著者が、自分の一族の歴史を辿ったノンフィクションです。
  平尾:   コンニャク屋だったのか?
  悠木:   いえいえ。星野さんのご先祖は江戸時代に和歌山から千葉へ移住した漁師で、なぜか「コンニャク屋」という屋号で呼ばれていたらしいです。
  野口:   漁師ですか!
  悠木:   そう。この本を読むと漁師の文化の奥深さが分かって面白いですよ。星野さんは、祖父が遺した手記を手がかりに五反田、千葉、和歌山へとルーツ探しの旅をするのですが、随所に星野さんの感性がキラリと光る1冊です。
  平尾:   で、どうしてこの本が落ち込んでる人におすすめなんだ?
  悠木:   はい。落ち込んでいる時というのは誰でも、自分は孤独だ、自分には誰も味方がいない、と思い込みがちになってしまいがちですよね。そんな時この本を読めば、自分の中には先祖代々から脈々と受け継がれた血が流れていて、自分は一人じゃない、孤独じゃないと感じてもらえると思ったんです。
  平尾:   ほお。
  悠木:   あとがきで、星野さんは「歴史の終わりとは、家が途絶えることでも墓がなくなることでも、財産がなくなることでもない。忘れること。」と書いていらっしゃいます。私は、忘れないでいる、ということは、もちろん死者のためでもありますが、強い自分になるためでもあるんじゃないかと感じました。
  平尾:   現実的な悠木からそんなセリフが聞けるとはな。
  野口:   なんだかすごく読みたくなってきました!




 







  野口:   いかがでしょう。いま自分は落ち込んでいらっしゃるという方、今回ご紹介した中から気になる本はあったでしょうか?
  平尾:   やっぱりな、本を読むのが一番だと思うぞ、落ち込んでる時は。
  悠木:   それでは、またお会いできる日まで、皆様ごきげんよう!


 
文・加藤泉


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