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第134回 2011年11月17日


●執筆者紹介●


加藤泉

有隣堂ヨドバシAKIBA店

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる、尼僧のような生活を送っている。


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~今、話題の作家! 真梨幸子登場!!~

 はじめに
加藤:   今回は、文庫『殺人鬼フジコの衝動』が話題になっている真梨幸子さんをお招きしています。
 
真梨:   はじめまして。お手柔らかにお願いいたします。
 
加藤:   殺人鬼フジコの衝動』やデビュー作『孤虫症』を拝読して、一体どういう方がこういうお話を書かれているのだろうと非常に興味を覚えまして、こうしてインタビューさせていただく機会を設けていただきました。
 
真梨:   興味を覚えていただいて、作家冥利に尽きます。
 
加藤:   今回はこれまでの作品の振り返りと、11月に文庫になる『ふたり狂い』を中心にお話を伺っていきたいと思いますが、よろしいでしょうか?
 
真梨:   どうぞ、どうぞ!

 

 真梨幸子作品の特色
加藤:   真梨さんはこれまでに10作単行本を出されていらっしゃいますね。真梨さんの作品は、いずれもダーク・ミステリーと呼んでいいと思うのですが、作品をお書きになっている間、心身に変調をきたしたりすることはないですか?たとえば、体が痒くなったりとか(笑)。
 

 

スコーレNo.4・表紙画像

孤虫症
講談社文庫
730円
(5%税込)

 


スコーレNo.4・表紙画像

殺人鬼フジコの
衝動

徳間文庫
730円
(5%税込)

 
表紙画像・深く、深く砂に埋めて
深く深く、
砂に埋めて

講談社文庫
730円
(5%税込)

表紙画像・パリ黙示録
パリ黙示録
徳間書店:刊
1,680円
(5%税込)

表紙画像・更年期少女
更年期少女
幻冬舎:刊
1,680円
(5%税込)

真梨:   孤虫症』を書いてからというもの、潔癖症がひどくなりました(笑)。もともと神経質ではあったのですが、それが悪化したというか。『孤虫症』が文庫落ちするときは、ゲラを触るのもイヤでした。手袋をしながら、ゲラチェックしたものです。まあ、自業自得なんですけれど(笑)
 
加藤:   影響を受けた作家の方はいらっしゃいますか?
 
真梨:   犯罪心理に興味を抱くきっかけとなったのは、『アウトサイダー』のコリン・ウィルソンです。人間社会の悲喜劇を教えてくれたのは、バルザック。バルザックの『幻滅』は、今の時代にも通じる風刺が満載でたまりません。
あと、なんといっても、なかにし礼さん。
小さい頃聞いていた昭和の歌謡曲が私の創作の原点なのですが、特になかにし礼さんが作詞された歌謡曲はどれも、深く魂に刻み付けられています。

 
加藤:   これまで出された作品の中で、特に思い入れの強い作品はありますか?
 
    深く深く、砂に埋めて』と『パリ黙示録』です。
『深く深く、砂に埋めて』は、『マノン・レスコー』という古典をモチーフにしたものですが実はそれは表向きで、本当は、なかにし礼作詞の『美しき愛の掟』をイメージして書きました。ちなみに『美しき愛の掟』は昭和44年に発表されたザ・タイガースのナンバーで、美青年ジュリーが切々と歌い上げる純愛に、幼い私はすっかりノックアウトされたものです。
『パリ黙示録』は、デビューする前から温めてきた作品で、今年ようやく日の目を見ることができました。18世紀半ばのパリを舞台にした警察小説です。歴史、中でも庶民の暮らしとか風俗を紐解くのが昔から大好きで、ライフワークのような作品です。

 
加藤:   真梨さんの作品を読んでいると、〈女〉であることの悲劇と喜劇を味わっているような気分になります。
 
真梨:   男性にももちろん悲喜劇はあると思うのですが、私自身が女性なので、どうしても書きやすいほうを書いてしまいます。
男性視点の作品もあるのですが、どうも、ロマンチックな方向に傾いてしまうんですよね。異性に対する憧憬なんでしょうか。こうあってほしい、みたいな。男性が女性を描くときも、「こうあってほしい」願望が表れてしまいますよね? 女性読者から見ると、「こんな女いないよ」とつっこみたくなる。「女はもっと怖いわよ」と(笑)。

 
    だからといって、私が書くような女性も、実はそうそういません。現実の女性は、みなさん、うまく本音を隠していますから(笑)。
それでも私の小説にリアリティを感じていただけるのは、おもいっきりデフォルメしているからだと思います。ありのままを書くと、意外と現実味がなくなるんですよね。でも、ちょっとやりすぎなぐらい大袈裟に描くことで、かえってリアリティが生まれる。そんなデフォルメをしやすいのが、私の場合、女性の生態なのです。

 
加藤:   デビュー作『孤虫症』でも『殺人鬼フジコの衝動』でも、食べ物の描写がすごく美味しそうだと感じました。作品の中でそこだけ異質というか。そこは意識なさってお書きになっているのでしょうか?
 
真梨:   おっ。そんなことを言われたのは、はじめてです。なにか、嬉しいですね。
特に意識はしてないのですが、前述の「デフォルメ」の一環かもしれません。
あ、そういえば、『更年期少女』では逆に、食べ物がとても不味そうだった、という意見をいただきました(笑)。

 
加藤:   真梨さんの作品以外でも、読んでイヤ~な気持ちになるミステリー、いわゆる“イヤミス”が最近大ヒットすることが多いのですが、どうしてだと思いますか? 書いているご本人にお伺いするのもおかしいかもしれませんが(笑)。
 
真梨:   『殺人鬼フジコの衝動』が文庫落ちするとき、「このご時世なのに……」という声もあったと聞きます。私だって思いましたもの。3.11後に、これを出すのはちょっと不謹慎かもしれないと。もっと、正しく美しいものが出版されるべきだと。
でも、震災後、テレビでは「ポポポポーン」なCM一色になり、その内容はどれも正しくて美しいものなんだけれど、なにか薄気味悪いものも感じていました。「ポポポポーン」の音楽が流れると、ホラーな気分にもなったものです。そのあとしばらくして、普通の事件もニュースで扱われるようになって、ちょっとほっとした気分になりました。
そのとき思ったのが、陰(ネガティブ)と陽(ポジティブ)のバランスです。
西洋などでは、「善」と「悪」、「光」と「闇」など、二者がはっきりと対決しています。そして、どんなことがあろうと「善」または「光」が正しいということになっています。
が、東洋思想では、「陰」と「陽」はどちらも否定はされず、重視するのはバランス。これらは占いをやっている人ならよくご存知かと思います。よいと思われる要素が多いと、むしろよくない、と判断するんです。なので、あえて、ネガティブな要素を取り入れるんです。
震災後は、正しいことや善いと思われるようなことしか言ってはいけない、聞いてはいけない、みたいな風潮があって、これらはいわば「陽」です。つまり、圧倒的に「陽」に傾いてしまった。バランスの崩壊です。そこで「陰」、つまりネガティブなものが無意識的に求められたんじゃないでしょうか。
いみじくも、『殺人鬼フジコの衝動』のようなイヤミスを、「ネガティブ・エンターテインメント」と呼ぶ方もいらっしゃいます。

 

ふたり狂い』について
加藤:   タイトル「ふたり狂い」の意味についてお聞かせ願えますか?
 

 
ふたり狂い・表紙画像
ふたり狂い
ハヤカワ文庫
735円
(5%税込)

 
真梨:   感応精神病。フランス語でフォリ・ア・ドゥともいうそうです。
妄想を持った人と親密になったり共同生活をしたりしているうちに、正常な人まで妄想を共有することをいう現象で、つまり、「狂気の伝染」といったところでしょうか。こっくりさんや悪霊祓い、集団ヒステリーなども含むそうです。

 
加藤:   各章のタイトルも「デジャヴュ」「エロトマニア」「カリギュラ」「ホットリーディング」など、精神病や心理学に関連する用語が使われていますね。この方面には前々から精通されていたのですか?
 
真梨:   専門に勉強したことはないのですが、心理学や精神病は昔から興味がありました。小さい頃、家に『家庭の医学』がありまして、暇さえあれば、「精神病」の項目を繰り返し読んでいました。そこに出てくる症例がどれもドラマチックで、まるで小説や映画をみているような気分になったものです。
 
加藤:   この度、文庫化されるにあたって加筆・修正などはなさったのですか?
 
真梨:   時系列を正しく認識いただけるよう、ちょろちょろ修正しましたが、大きな変更はありません。あ、でも、一部、作品の掲載順序を変えました。順序を変えることで、作品全体の印象がなんとなく変わった感じもして、我ながら不思議でした。
 
加藤:   これから読まれる方に、何か注意事項はありますか?
 
真梨:   作品を読んでいるうちに、もしかしたら「ある思い込み」に囚われるかもしれません。作品を読み終わったら、その思い込みを検証することをおすすめします。その思い込みや記憶ははたして、正しいのか……。

 

これからの真梨幸子
加藤:   文庫化を含め、今後の刊行予定を教えていただけますか?
 
  よろこびの歌・表紙画像
女ともだち
講談社:刊
1,680円
(5%税込)

 
真梨:   『更年期少女』(幻冬社)が12月に、『女ともだち』(講談社)が来年1月に文庫化されます。
また、連載のお話もいただいておりますので、順調にいけば、来年早々には第一回が掲載される予定です。あと、アンソロジーの企画に参加予定です。書き下ろし長編も執筆中です。
いずれも、詳細が決まりましたら、私のホームページで告知いたします。

 
加藤:   真梨さんご自身が最近気になっていることはありますか?
 
真梨:   スペースデブリ(宇宙ゴミ)のことが、昔から気になっています。最近も、そのデブリのひとつが地球に落下するなんてニュースがありましたし。地球の周りはゴミでいっぱい! なんて想像すると、なにか落ち着きません。
 
加藤:   お仕事をなさる上で、真梨さんがこれだけは守っている信条のようなものはありますか?
 
真梨:   自分自身の感性を信じる。
小説を書いていると、ふと「これって、ウケるかな?」「時流に合うかな?」「読者の顰蹙買わないかな?」など、つい、他者の目を気にしてしまいがちです。すると、作品の軸がブレるばかりか、何を書きたいのかも分からなくなる。なので、「自分がおもしろいと思うものを書け」と常に自分に言い聞かせています。

 
加藤:   最後に読者の方に向けてメッセージを!
 
真梨:   これからも、「私自身がおもしろい」と思った作品を書き続けます。そこは妥協いたしません。私のおもしろい、に賛同くださる読者のみなさま、来年もよろしくお願いいたします!
 
真梨:   真梨幸子さんの素顔にご興味を持たれた方は、是非ブログもご覧になってみてください! → http://park8.wakwak.com/~mari/index.html
真梨さん、お忙しい中ありがとうございました!

 
 
インタビュー/文・ 加藤泉

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