『ツナグ』 |
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加藤: |
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吉川英治文学新人賞受賞、おめでとうございます。 |
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『ツナグ』
新潮社:刊
1,575円(5%税込)
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辻村: |
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ありがとうございます。受賞自体が嬉しいことはもちろんなのですが、それが初期の頃から書いている“スコシ・フシギ”テイストを含めた話である『ツナグ』で叶ったことも、とても嬉しいです。
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加藤: |
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この『ツナグ』という作品ですが、生涯に一度だけ死者と会わせてくれる使者(ツナグ)がいる、という設定の連作短篇集ですね。
この設定を思いついたきっかけは?
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辻村: |
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日常から少しだけ浮き上がった小説ならではの設定を使うとしたら、人が一番望み、願うことって何だろうと考え、現実では絶対に叶うことのない“死者との再会”にテーマを取ろうと決めました。
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加藤: |
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泣けるお話なのかな?と思いながら読んだのですが、「親友の心得」という章はとても辻村さんらしいというか、一筋縄ではいかないものを感じました。
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辻村: |
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私自身も書きながら毎回どうなっていくかわからないところがあって、回数を重ねながら、自分が書きたいことを探っていくような感じでした。「親友の心得」は特に勢いがあって最後までノンストップで書き上げ、ラストでは自分でも残酷なことになった、と呆然としました。
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加藤: |
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辻村さんご自身でしたら、誰に会わせてほしいと願いますか?
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辻村: |
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この設定を書こうと決めた時まず考えたのですが、いなかったんです。中学の時に亡くなった祖母に会ってみたいけど、祖母に会う権利が一番あるのは祖父だろうなあと考えて、そこから、小説の中にも“一人の死者に会えるのは一人だけ”というルールを決めました。
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加藤: |
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『ツナグ』を読むと、自分だったら誰に会いたいか、つい考えてしまいますね。そうやって、もう会えなくなってしまった人たちに思いを馳せることは、すごく大切なことなのではないかと感じています。
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『本日は大安なり』 |
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加藤: |
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『本日は大安なり』は、同じ日に同じ結婚式場で披露宴を行う4組のカップルをめぐる物語ですね。辻村さんの新境地のように感じましたが…。
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『本日は大安なり』
角川書店:刊
1,680円(5%税込)
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辻村: |
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同時進行的に時間で区切って物語を動かしていく作業は初でしたが、思っていた以上に楽しくて、登場人物と一緒にあっという間に一日過ごしたような気がします。
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加藤: |
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ウエディング・プランナーの女性の視点から見た“オシゴト小説”としての側面もありますよね。
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辻村: |
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結婚式、と聞くとどうしても“夢見る花嫁”のようなイメージが持たれがちだと思うのですが、だからこそ彼女のようなそこで働く子の目線も入れてみたかったんです。彼女の立場はいわば裏方ですが、働く女子たちにもぜひ読んで欲しいです。
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加藤: |
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登場人物たちが皆、個性的ですね。
中でも、双子姉妹が印象的でした。式を挙げる片方が、もう片方に尋常ならざる思いを抱いている…。辻村さんにとって思い入れのある登場人物はいらっしゃいますか?
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辻村: |
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白須真空。小学生の男の子を久しぶりに思いきりかけて楽しかったです。誰でも幼い頃にわけもわからず式に出席した経験が一度や二度あると思うのですが、そうやって物心つく前から問答無用に人を巻き込む冠婚葬祭の力って、やっぱりすごいなあと思います。
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加藤: |
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あの男の子はすごく健気ですよね。どの登場人物をとっても、辻村さんが楽しんで描いていらっしゃるのが伝わってきます。ぜひ読者の皆さんにもお気に入りのキャラクターを見つけていただきたいですね。
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最新刊 『オーダーメイド殺人クラブ』 |
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加藤: |
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さて、いよいよ新刊『オーダーメイド殺人クラブ』についてお話を伺います。クラスメイトたちとの関係に行き詰った主人公が、自分が被害者となる殺人事件を同級生の男子に依頼する、というあらすじですね。
中学生時代特有の息苦しさや教室の閉塞感が伝わってきて、この作品を心から必要としている読者がいるに違いないと思いました。
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『オーダーメイド
殺人クラブ』
集英社:刊
1,680円(5%税込)
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辻村: |
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前の2冊とは書き方が全然違っていて、単行本化にあたって改めて読み返し、自分でも驚きました。主人公の目線がとても近くて狭い。だけどこれが中学生の教室であり、距離感なのかもしれないですね。この空気感を、読者が必要としてくれるならとても嬉しいです。
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加藤: |
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今回、中学2年生を主人公になさったのは?
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辻村: |
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これまで、小学生、高校生、大学生を書いてきましたが、中学生ってあまりにも生々しい世代な気がして書かなかった。作品数を重ねる中で、思いきって封印を解くような気持ちで飛び込みました。
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加藤: |
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もともと辻村さんは青春小説で多くの読者を獲得なさってきた作家だと思いますが、古くからのファンの方が待ち望んでいたタイプの小説なのではないかと感じました。
この作品にこめられた思いをお聞かせ願えますか?
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辻村: |
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封印を解くような気持ちで挑戦してみるつもりが、結果的に、これまで私が書いてきた青春小説と呼ばれるものの最高到達点みたいなものができあがったと思っています。かつて中学二年生だった人たちへの、大袈裟に言っていいなら、私なりの贈り物です。どうか、多くの人に受け取って欲しいです。
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加藤: |
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辻村さんが自ら「最高到達点」とおっしゃるこの作品、一人でも多くの方に是非お読みいただきたいです。
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