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第29回 2007年7月5日


●執筆者紹介●


加藤泉
有隣堂読書推進委員。

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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  第137回 直木賞大予想
  (この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません)
 
 
平尾才助
(55歳…書店員歴33年)

悠木和雅
(44歳…書店員歴15年)

野口魚子
(33歳…書店員歴6年)
 悠木:   いよいよ直木賞の季節がやってまいりました。
 
 野口:   今回も私たちは本命・対抗・大穴と予想しなくてはならない辛い立場にいます。
 
 平尾:   毎度のことながら、誰にも頼まれてないけどな。
 
 悠木:   しかも今回ノミネートされた7作中、5作品が初ノミネート作家のものです。
予想するのが本当に難しいですね。 素晴らしい作品ばかりですから。
 
  平尾:   外れてもともとのつもりで気楽にやろうぜ。 我々の使命はお客様に少しでも興味を持っていただくことなんだから。
 



玻璃の天・表紙画像
玻璃の天
北村薫:著

文藝春秋
1,250円
(5%税込)

  本命・北村薫 『玻璃の天』 (文藝春秋)
 
 平尾:   そろそろだろう。
 
 野口:   そろそろですね。
 
 悠木:   北村薫は5回目の候補です。 そろそろ受賞してもおかしくないですね。
 
 野口:   今回候補になった『玻璃の天』は『街の灯』という作品のシリーズ2作目にあたりますが、このシリーズは本当にいいですね。 ハイカラさんがお好きな方は是非お読みいただきたいと思います。
 
 悠木:   前作に比べると、だんだん戦争色が濃くなっていく昭和初期の雰囲気が上手く描かれていますね。
 
 平尾:   版元はどこだ?
 
 悠木:   文藝春秋です。
 
 平尾:   大本命だな。 受賞するのが遅すぎるくらいの作家なんだから。
 



吉原手引草・表紙画像
吉原手引草
松井今朝子:著

幻冬舎
1,680円
(5%税込)

  対抗・松井今朝子 『吉原手引草』 (幻冬舎)
 
 悠木:   松井今朝子は3回目の候補です。
 
 平尾:   この作家もそろそろ受賞してもおかしくないんじゃないか。
 
 悠木:   この作品の舞台は吉原遊郭で、売れっ子の花魁がある日忽然と姿を消します。 その謎解きになっているのですが、『吉原手引草』という題名どおり、吉原の仕組みを詳細に説明している手引書にもなっています。 勉強になりました。
 
 野口:   一つ懸念されるのが、選考委員の中でもこの方面に造詣の深いと思われる渡辺淳一先生あたりが、「こんなことは常識だ」と一蹴してしまうのではないかということですね。
 
 平尾:   うむ。版元はどこだ?
 
 悠木:   幻冬舎です。 実は幻冬舎刊行の作品が受賞したことはないんですよ。 この辺りも気になるところではありますね。
 



俳風三麗花・表紙画像
俳風三麗花
三田完:著

文藝春秋
2,300円
(5%税込)

  大穴・三田完 『俳風三麗花』 (文藝春秋)
 
  平尾:   ここからは初ノミネート作家がどれだけ評価されるかの予想になるな。
 
  悠木:   いやあ、こうして見ると今回の候補作は非常にレベルが高いですね。
 
 野口:   はい。 この作品はノミネートされなかったら著者の名前さえ知らずにいたと思います。 そう思うと、この作品をノミネートしてくださった方に感謝したい気持ちです。 誰だか分かりませんが。
 
 悠木:   昭和初期が舞台となっています。 ということは北村薫『玻璃の天』と同じ時期の設定です。 2作授賞というケースになったら、取り合わせとしてこの2作が受賞することは難しいでしょうね。
 
 平尾:   意地悪な見方をすれば、『玻璃の天』の引き立て役としてノミネートされたんじゃないか。
 
 悠木:   いえいえ、そうとばかりも言えませんよ。 インテリ好みの渋い作品ですからね。 こちらの方が意外と票を集めるかもしれません。
 
 野口:   しかもラストの切なさと言ったら!時代に翻弄される男女の恋も描いた秀作です。
私はこの作品を読んで俳句を始めました。
 
 平尾:   ほお。 直木賞に因んで一句作ってみろ。
 
 野口:   該当なし だけはやめてね 直木賞
 
 平尾:   ………。
 



まんまこと・表紙画像
まんまこと
畠中恵:著

文藝春秋
1,470円
(5%税込)

  畠中恵 『まんまこと』 (文藝春秋)
 
 野口:   ラストの切なさと言えばこの作品も負けず劣らずです。
 
 悠木:   意外と侮れない作品ですね。 畠中恵は初ノミネートですが、「しゃばけ」シリーズで既にたくさんのファンを惹きつけていて、実力は実証されています。
 
 野口:   江戸市井ものを描く女性作家というと、宇江佐真理を思い出すのですが、宇江佐さんはなかなか受賞しませんよね。
 
 平尾:   女性時代小説作家を評価する風向きが乏しいんじゃないか、直木賞には。
 
 悠木:   そうかもしれませんね。 畠中恵は「もう1作見たい」と言われて見送られそうですね。
 
 野口:   奥田英朗のようにシリーズ2作目で受賞するパターンかも。
 



赤朽葉家の伝説・表紙画像
赤朽葉家の伝説
桜庭一樹:著

東京創元社
1,785円
(5%税込)

  桜庭一樹 『赤朽葉家の伝説』 (東京創元社)
 
  悠木:   もう1人、「もう1作見たい」と言われそうなのが桜庭一樹ですね。
 
 野口:   はい。 しかも桜庭一樹は「別冊文藝春秋」で連載中です。 その作品で獲らせようという算段なのではないですかね。
 
 平尾:   おいおい、下衆な勘ぐりはよせよ。
 
 野口:   すみません。 ただ、個人的にはこの作品に獲ってほしいです!
 
 悠木:   確かに、リーダビリティではノミネート作品中最も秀でている作品かもしれません。 いいんじゃないか、野口が希望する本命作品ということで。
 
 野口:   はい。 それでは、私達が予想する「本命」ではなく「本命希望」ということで。 桜庭一樹は新刊『青年のための読書クラブ』も本当に面白いです!今一番脂がのっている作家ですね。
 



鹿男あをによし・表紙画像
鹿男あをによし
万城目学:著

幻冬舎
1,575円
(5%税込)

  万城目学 『鹿男あをによし』 (幻冬舎)
 悠木:   今回の候補作のラインナップを見て一番驚いたのがこの作品です。
 
 平尾:   この作品をノミネートするなんて、なかなかやるな、と思ったぞ。
 
 野口:   漱石の『坊っちゃん』にオマージュを捧げたファンタジーです。 鹿が喋ったり、青年教師が鹿になったり、鹿女まで出てきたり、とハチャメチャですが。
 
 悠木:   前作『鴨川ホルモー』よりも腕が上がった感じがしました。 一度読み始めたら止まりませんね。
 
 平尾:  

でも、この作品は選考委員には受けないだろうなぁ。 そもそもファンタジー的要素があると難しいからな、直木賞は。
 




夜は短し歩けよ乙女・表紙画像
夜は短し歩けよ乙女
森見登美彦:著

角川書店
1,575円
(5%税込)

  森見登美彦 『夜は短し歩けよ乙女』 (角川書店)
  悠木:   それを言うなら森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』もそうですね。 京都の大学を舞台にしたおよそあり得ない恋愛小説です。
 
  野口:   パンツ総番長というとっても素敵なキャラクターがいるんですけどね。 彼に免じて授賞してあげてほしいです。
 
  平尾:   パンツはともかく、万城目と森見の人気で関西の書店はだいぶ盛り上がっているんじゃないか?
 
  悠木:   この2人は奇想天外小説の両雄として今後も注目されるでしょうね。 彼らの亜流もどんどん出てくるでしょう。
 
  平尾:   この2人を見ていると、賞なんか獲らなくても大衆の圧倒的支持を得られればそれでいいんじゃないか、という気がしてくるよな。 これからも独自の作風を推し進めていってほしいな。
 


    平尾:   以上、言いたい放題だったが、今回はどの作品が獲っても嬉しい感じだな。
 
  野口:   はい。 候補になるだけでもすごいことですから。 しかも今回の候補作はどれも面白い小説ばかりです。
 
  悠木:   是非、皆様にもお読みいただきたいですね。
 
 
文・読書推進委員 加藤泉
構成・宣伝課 矢島真理子

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