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第55回 2008年8月7日

●執筆者紹介●
 
加藤泉
有隣堂 読書推進委員。
仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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〜夏を満喫するための3冊〜
 
8月に入り、ようやく夏本番といった感がある今日この頃。
思いっきり夏をエンジョイしている方もいれば、夏なんて暑いばっかりで何も面白いことないよ!と言う方もいることと思う。
今回は、夏を満喫しきれていない方に、少しでも夏らしさを味わっていただける本をご紹介しようと思う。
 

 夏と言えば海!という方におすすめしたいのは、本馬英治『岬バーガー』。
サーフィンに明け暮れる高校生のひと夏の日々を描いた青春小説だ。

「岬バーガー」とは、主人公たちが足繁く通う岬に開店したハンバーガーショップの名前。
この岬をめぐって、リゾート開発業者と「岬バーガー」の店長が対決し、主人公たちも巻き込まれていくという話なのだが、けっして血腥い内容ではなく、本書の主眼は海を愛する人たちの純粋な思いにある。
夏の日差しの下、波間に浮かぶ主人公たちと同じように、自分もまた波の中にたゆたっているような気持ちになれる、夏にぴったりの1冊だ。

なお、本書を読むとファストフードではないハンバーガーが無性に食べたくなるので、空腹時に読む際はご注意ください。

 
 
岬バーガー・表紙画像
岬バーガー

本馬英治:著
リトルモア
1,575円
(5%税込)

 夏と言えば山!という方には、笹本稜平『還るべき場所』を。
私事で恐縮だが、私は一度だけ登山をしたことがあり、その際、こんな苦しいことは二度とやるまいと心に決めたのだが、そんな私でも本書を読んだ後は、あの苦しさをもう一度味わってでもいいから山に登ってみたいと思わせられた。
怖いくらい力のある本格山岳小説だ。

主人公は4年前に世界第二位の高峰であるK2で恋人を亡くして以来、山から遠ざかっていたのだが、ツアー会社を営む学生時代の山仲間から、K2への登山パッケージツアーの引率役を頼まれ、渋々引き受けることになる。
初めは、公募登山というビジネスに否定的な気持ちを抱いていた彼だが、参加者の熱意を目の当たりにして、次第に前向きな気持ちで任務を全うしようと思うようになる。
そんな折、同じく公募登山でブロードピークにやって来ていたオーストラリアの団体が悪天候の中遭難し、彼らは救助に向かうことになるのだが…。

なぜ、こんなに辛い思いまでして人は山に登るのだろうと思うことがある。
その問いに答えてくれるような言葉が本書の中にはあった。
それは、「魂の糧」という言葉だ。
人は、呼吸して栄養を摂取して排泄をするだけでは、真の意味で生きているとは思えない。
その人間の性(さが)を突き詰めた行為が登山というスポーツであるのだと、本書を読むと深く理解できる。

現在公開中の話題の映画『クライマーズ・ハイ』(横山秀夫原作)の登山シーンに少しでも心を動かされた方は、是非『還るべき場所』もお読みいただきたいと思う。

 
 
還るべき場所・表紙画像
還るべき場所

笹本稜平:著
文藝春秋
1,943円
(5%税込)

 夏と言えば高校野球!という方には早見和真『ひゃくはち』を。

「ひゃくはち」とは、野球のボールの縫い目の数であり、煩悩の数も表している。
このタイトルどおり、本書には煙草も吸えば合コンもする、煩悩の塊のような高校球児たちが登場する。

主人公は野球の名門校に一般入試で合格し、スタメンはおろかベンチ入りさえギリギリという野球部員。
春の選抜大会のメンバーが発表される場面は、読んでいるこちらまで心臓がバクバク音を立てる気分が味わえる。

後半には高校生らしからぬ問題が浮上してきたりもして、これまでの野球小説や野球漫画とは一線を画すような作品なのだが、本書を読んで良かったのは、スター選手ではない選手の存在を強く印象づけられたことだ。
一度でも高校野球に熱くなったことのある方には、心の中にいつまでも住み続ける甲子園のスターがいることと思う。
私にとってはPL学園時代の桑田と清原なのだが、グラウンドで大活躍した彼らばかりでなく、ベンチやアルプススタンドで応援していた球児たちにとっても、ひとしく意味のある夏だったのだという当たり前のことに、本書を読んで気づかせられた。
今年の甲子園中継は、スタメン以外の選手たちの顔もしっかり見ておこうと思う。

なお、映画『ひゃくはち』も8/9より公開になるので、原作と一緒にお楽しみいただきたいと思う。

 
 
ひゃくはち・表紙画像
ひゃくはち

早見和真:著
集英社
1,470円
(5%税込)
 

文・読書推進委員 加藤泉

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