本の泉 清冽なる本の魅力が湧き出でる場所…

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第119回 2011年3月31日


●執筆者紹介●


加藤泉

「本の泉」執筆リーダー
有隣堂アトレ恵比寿店

仕事をしていない時は
ほぼ本を読んでいる
尼僧のような生活を送っている。


磯野真一郎

「本の泉」執筆メンバー
有隣堂 販売促進室
書籍仕入・販促担当

晴れて気持ちのいい休日は、
自転車で遠くの公園に出掛けて本を読んでいます。

岩堀華江

「本の泉」執筆メンバー
有隣堂厚木店
文芸書・文庫を担当

本と映画、そして音楽がないと生きていけないと思っています。

広沢友樹

「本の泉」執筆メンバー
有隣堂アトレ新浦安店
文芸書・コミック等を担当

書評と建築、
そして居心地の良いカフェや図書館が好きです。

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~いま必読の1冊 西加奈子『円卓』~
 

 2011年3月11日、東北地方太平洋沖大地震が発生した。自然の猛威を目の当たりにして、無力感にさいなまれている方も多いと思う。私もその一人だ。西加奈子の最新刊『円卓』は、そのさなかに何度も読んで大いに勇気を与えられた1冊である。震災の1週間前に刊行された本書は、この時期に出されるべくして世に出されたという気がしてならない。

主人公は小学3年生の「こっこ」こと渦原琴子。偏屈で、想像力旺盛で、口癖は「うるさいぼけ」。好きな言葉は「孤独」。だが、両親と祖父母と三つ子の姉に愛され3LDKの公団住宅に暮らすこっこに「孤独」はなかなか訪れない。

  円卓・表紙画像
円卓』 
文藝春秋:刊
1,300円(5%税込)

 
こっこは「凡人」が嫌いで、特別なものドラマチックなものに憧れている。幼なじみ「ぽっさん」の吃音を真似することはどうしていけないのか、こっこには分からない。「普通」と違ってめっちゃカッコいいのに。不整脈の発作を起こしたクラスメイトの真似をすることはどうしていけないのか。ボートピープルも在日も、どうしてタブーとされているのか。誕生日を祝うのはなぜなのか。新しい家族が生まれることはどうして無条件にめでたいことなのか。こっこは悩み、考える。そんな矢先、夏休みに遭遇したある不可解な出来事。こっこは「孤独」の真の意味を知るようになる。

隅々にまで愛すべき登場人物たちを配し、にぎやかな会話がエネルギッシュな空気を生み出し、ユーモラスなエピソードがちりばめられていて、実に痛快な物語だ。が、本書の最も見事な点は、そういった明るさの裏に、人はみなこの世に生まれ落ちた瞬間から死に向かって走っているというテーマが貫かれている点である。本書は、こっこが成長するさまを描いた物語であるが、成長するとはすなわち死に近づいているということでもあるのだ。

人は誰しも「死」から逃れることはできない。それは抗えない事実だ。でも、だからこそ、人はかけがえのないものを一つでも多く見つけようとするのではないか。「孤独」を知った者こそが他者をいとおしく思えるのではないか。本書の美しいラストシーンはそのことを私たちに教えてくれる。いま悲しみの底にいる方々に、あの紙吹雪がふりそそぐことを祈ってやまない。

 


文・ 加藤泉


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