本の泉 清冽なる本の魅力が湧き出でる場所…

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第81回 2009年9月3日

●執筆者紹介●
 
加藤泉
有隣堂 読書推進委員。
仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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〜「小説屋sari-sari」って、なんだろう?〜
「小説屋sari-sari」ロゴ
 
  加藤:   今回の「本の泉」も前回に引き続き編集者の方をゲストにお招きしています。
角川書店第三編集部の金子亜規子さんです。

 
  金子:   こんにちは。 いつも不審な感じで売り場をぐるぐるしていてすみません(笑)。 今日はこのような晴れがましい場にお呼びいただいて緊張していますが、どうぞよろしくお願いいたします。
 
  加藤:   こちらこそよろしくお願いいたします。
今回、金子さんをゲストにお招きしたのは角川書店の携帯小説サイト「小説屋sari-sari」についてお話を伺いたいと思ったからなのです。
この携帯小説サイトは金子さんが中心にやっていらっしゃると伺いましたが、創刊の経緯について教えてください。

 
  金子:   私自身、携帯メールもやらず、ちょっと前までQRコードが何かも知らなかったので(何の暗号だろう、とまぢで思っていました)、まさかこんなことになるとは……。
なので、経緯というほどのものはありません。 上司に「何か携帯とか使ってさ、『野性時代』とは違うコンセプトで小さい小説誌作らない? 好きに作っていいから。 その代わりスタッフは君ひとりね。 じゃよろしく」と無茶振りをされまして(笑)。
うーんどうしよう、としばらく唸ってから思ったのが、ライトノベルやいわゆる携帯小説の読者さんは、大人になったらどこへ行くのかな、ということでした。 有川浩さんのように「自分が読みたい小説がないから書き出した」という方もまれにいらっしゃるけれど、ひょっとしたら本読むのやめちゃうのかもしれない、そういう方が多いとしたら、すごく勿体ないと思ったんです。 で、「本読み女子雑誌」を作ろうと。 オトナ女子が(もちろん私自身も!)等身大でわくわくできる、本当に面白い小説を送り出したいと思ってつくったのが「小説屋sari-sari」です。

 
  加藤:   「小説屋sari-sari」、可愛らしいネーミングですが、この意味は?
 
  金子:   タガログ語で「なんでもあり」という意味です。 フィリピンあたりを旅していると、各村や、ひょっとしたら島に一軒ずつ「サリサリストア」というのがあります。 要は雑貨屋さんなんですが、さっき締めた鶏とかそのへんで採れた野菜とか、賞味期限のとっくに切れたチョコレートとか、2ヶ月前のNYタイムズとか、何故か昨日発売の少年ジャンプとか(笑)が置いてある。 あの、「なんでもあって楽しくて、たまに命をつなぐ」感じがいいなあ、と思ったので。
 
  加藤:   なるほど。 素敵な意味が込められているんですね。
このサイトのターゲットは、やはり若い女性でしょうか?

 
  金子:   はい。 でも男子もとくに拒んでないです。 私自身が本当に面白いと思う作品ばかり連載させていただいているので、たぶんアラフォー女子も大丈夫!
 
  加藤:   率直に申し上げます。 「携帯小説」と聞くと、紙媒体を売っている立場の人間としては若干複雑な心境になります。 文芸誌の衰退が著しい昨今ですが、金子さんの思いをお聞かせ願えますか?
 
  金子:   私は紙の本、愛してます。 なかったら生きてゆけないと思う。 なくなってほしくないし、そのためにも頑張っていい本作ろうと思ってます。
でも、紙がなかった時代も物語はありましたよね、きっと。 口伝えだったり、洞窟の壁だったり…。 そういうバリエーションのひとつが、現代では携帯なんじゃないでしょうか。
物語は絶対なくならない。 これは確かだと思うんです。 それがいろんな形で表現され、伝わり、残る。 「小説屋sari-sari」もそうであれるといいな、と思っています。
しかし、紙の本くらい、便利と愛着と美しさに応えうるパッケージって、今のところちょっとないのですよね。 だから言い切ってしまおう、「小説屋sari-sari」の目的は、面白い小説と、とびきり素敵な「本」を生み出すことです!
……これで、伝わってますでしょうか……?

 
  加藤:   はい! 金子さんのお考え、じゅうぶん伝わってきました。
私が「sari-sari」を知ったのは6月にsari-sariレーベルの書籍が6点刊行されてからです。 若い女性が手に取りやすい装丁とバラエティ溢れるラインナップが印象的でした。
しかも、いわゆる「ケータイ小説」とは一線を画していますよね。

 
  金子:   ありがとうございます。 「物語」の楽しさは伝えつつ、「文芸」の敷居は多少低くして、と心がけたところはありますね。
いわゆる「ケータイ小説」は、とても共感度の高い「物語」だと思います。 ただ…まったくの私見ですが、あれはどちらかというと、ノンフィクションに近いものじゃないかなあと思うのですね。 「友達の友達の先輩に起こったこと」くらいの距離感で、皆泣いたりドキドキしたりしている気がするのです。
「小説屋sari-sari」でやっていきたいのは、プロの小説家さんによる、100%フィクションの作品ですね。 どちらが良い悪い、ということではなく、単純に「雑誌を作っている私がその方が好き」だからです。

 
  加藤:   「ケータイ小説」との違い、とても分かりやすいご説明ありがとうございます! 
それでは、6月に刊行された6点の読みどころについて伺います。
有川浩さんの『植物図鑑』が目玉だと思いますが…。

 
『植物図鑑』
植物図鑑
 
  金子:   抜群に素晴らしい恋愛小説ですね。 一緒に食べるものを「狩って」食卓を囲むのは、原始時代からの正しい愛のかたちですが、それを現代の風景のなかでこんなにも素敵に、描いた小説はないと思います。 付録の「野草レシピ」もお腹とハートにぐっときます。
 
  加藤:   須賀しのぶさんの『芙蓉千里』は、なんと女郎を目指す少女のお話です。 しかも明治時代のハルビンが舞台です。
 
『芙蓉千里』
芙蓉千里
 
  金子:   須賀さんもインタヴューでおっしゃってますが、これは須賀版「はいからさんが通る」です。 元気な女の子が、国境を超えて運命を切り開く。 「旅と冒険」をキーワードにしているサリサリを象徴するような作品です。 10月から第2部の連載も始まりますので、そちらもお楽しみに!
 
  加藤:   瀧羽麻子さんの『白雪堂』は働く女性にオススメのお仕事小説ですね。
 
『白雪堂』
白雪堂
 
  金子:   オトナ女子にとっては、会社こそが「冒険」の舞台ですよね。 でも普通のひとにはものすごい能力とか運はなくて、どうしようどうしよう、と言いながらとにかく前に進む、その繰り返しの中でこそ、大きな宝に出会えるんだという、本当に「リアル」かつ元気になれる小説です。
 
  加藤:   6作の中で最も異色なのは神楽坂あおさんの『制服を着たインモラル』だと思います。
著者はBL(ボーイズラブ)系の小説を書かれてきた方ですよね。

 
『制服を着たインモラル』
制服を着た
インモラル

 
  金子:   実は個人的にBLは苦手なのです…。 しかし、あおさんの小説はそういう私のためらいを吹き飛ばす面白さがあったんですよね。 たまたま主人公たちは「男同士」だけど、人を求めることの切実さや滑稽さ(ギャグシーン素晴らしすぎ!)、輝かしさは全員に通じるものがあると思います。
 
  加藤:   吉野万理子さんの『シネマガール』は映画好き女子に受けそうですね。
 
『シネマガール』
シネマガール
 
  金子:   仕事ができて美しく、男気のあって憧れ無限大のおねいさま、でもかなり変、なのが主人公の一条リラ。 私のなかではサラ・ジェシカ・パーカー(吉野さん、違ってたらごめんなさい!)が演じてます(笑)。 映画のウンチクも楽しいですが、リラ姉に引っ張り回される主人公のつきぬけた成長っぷりも読みどころ。
 
  加藤:   タナウラ』も異色と言えば異色。 著者の齊藤瀞さんは占い師と伺いましたが…。
 
『タナウラ』
タナウラ
 
  金子:   知る人ぞ知るカリスマ占い師です(現在予約は3ヶ月待ち状態)。 当初は「日記」をお願いしようと思ったのですが、「個人情報が出ちゃいかねないのでお客さんに申し訳なく」小説になりました。 なので出てくるお話は100%フィクションですが、読んでいつといつの間にか自分のことみたいに思えてくるリアルさ。 何より、齊藤さんの描く、個人的で親密な時間の流れる感じは、本当にすごいと思います。
 
  加藤:   金子さんの解説を伺って、sari-sariの目指すものが読者の方にも分かってきたと思います。
sari-sariレーベルの今後の刊行予定は?

 
  金子:   9月に澤見彰さんの『はなたちばな亭らぷそでぃ』が刊行されます。 お江戸の長屋を舞台にした、ラブとコメと人情と狸(?)のお話で、ものすごく面白いですよ。 『しゃばけ』シリーズなんかがお好きな方にはたまらん一冊だと思います。
他にも、島本理生さんの「恋愛外食エッセイ」や北米大ヒットのヴァンパイア・ラブ・ストーリーなどいろいろな連載をやっていますので、是非本誌ものぞいてみてください。
「小説屋sari-sari」QRコード (「小説屋sari-sari」QRコード)
本日はありがとうございました。 小説屋sari-sari、どうぞよろしくお願いいたします!
 
  加藤:   「小説屋sari-sari」に無限の可能性を感じているのは私だけではないはずです。 これからも刊行を楽しみにしています。
金子さん、お忙しい中本当にありがとうございました。

 
 
 
インタビュー/文・読書推進委員 加藤泉

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