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第129回 2011年9月8日 |
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~この秋おすすめのミステリー~ | |||||||||
読書の秋も近づいており、今年は本でも読んでみようかな~、でも何を読んだらいいのかよく分からないな~、という方も多いことでしょう。 |
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解剖学が偏見にさらされていた18世紀のロンドン。外科医ダニエル・バートンは医療発展のため解剖教室を開き、彼の下には個性的な弟子達が集まっている。彼らは墓荒しから遺体を買い取り、違法に解剖を行うことを常としていた。ある晩、妊婦の解剖をしている最中に警察の家宅捜索を受けた直後、遺体が増えていることに気付く。四肢のない少年と顔を潰された男の遺体。この遺体は一体どこからやってきたのか?その背後には、田舎からロンドンにやってきた詩人志望の少年をめぐる、ある事件が隠されていた…。 こうして内容を説明しているとグロテスクな内容と思われるだろうが、随所にユーモアが散りばめられていて、登場人物たちのキャラも立っているのですいすいと読み進めることができる。巻末には「解剖ソング」なるものまで収められていて遊び心も満載。ラスト間近には感動的なシーンも用意されていて読後感も非常に良い。 帯に「作家生活40年のキャリアを誇る著者の集大成にして新境地」と書かれているが、81歳の著者の力作を読まないテはない。当時のロンドンの社会・風俗が分かりやすく描かれているという点でも一読に値する1冊だ。 |
![]() 開かせていただき 光栄です ![]() 皆川博子:著 早川書房 1,890円(5%税込) |
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本書は、2009年に刊行されるや大ベストセラーとなり、数々の文学賞を受賞し映画化も決まっているという。ドイツの刑事事件弁護士である著者が現実の事件に材を得て書き上げた短編集だ。 長年連れ添った妻を殺した医師(『フェーナー氏』)、早朝の駅で絡んできた男2人をあっさり殺した身元不明の男(『正当防衛』)、羊を殺し眼球をくり抜き続けた伯爵家の息子(『緑』)、恋人の背中をナイフで切ってしまった青年(『愛情』)など、11編が収められている。著者は一切の感情を排して淡々と事件の全容を著しているが、そこから見えてくるのは紛れもない当事者たちの「人生」である。 厳密に言えば、本書はミステリではないかもしれないが、ここに描かれた「犯罪」には人間の底知れなさ不可解さが満ち溢れており、そら恐ろしくなる。 「銀行強盗はかならずしも常に銀行強盗であるとはかぎらない」―この一文に心動かされた方にはぜひお読みいただきたい。 |
![]() 犯罪 ![]() フェルディナント・ フォン・シーラッハ:著 東京創元社 1,890円(5%税込) |
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ロックフェスが行われること以外、何のとりえもない山間の村。そんな田舎に飽き飽きしている高校生の広海は、フェスの夜、かつて村を捨て東京で女優になった由貴美が村に帰ってきていることを知る。彼女と知り合い、恋に落ちる広海。が、由貴美には「村に復讐する」という目的があった。復讐の手助けをするよう頼まれた広海は、やがて村に隠された秘密に近づいていくことになる…。 著者が初めて直木賞候補になった『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』を読んだ時にも感じたことだが、辻村深月は田舎の閉塞感を描くのが抜群に上手い。この「閉塞感」に、年上の女性に対する少年の強い思いが絡み合い、これまでの辻村作品とはまた違った切なさを感じることができる。広海のその後を想像させるラストも深い余韻を残す。 進化し続ける辻村深月。この作品で一つ上のステージに立ったと言っても過言ではないだろう。 |
![]() 水底フェスタ ![]() 辻村深月:著 文藝春秋 1,500円(5%税込) |
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文・加藤泉
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