加藤: |
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去年ご好評をいただいた「秋の夜長のミステリー」(第109回参照)を今年もお届けしようと思います。皆様お馴染みの、このお二人を今回もお招きしています。「POPの帝王」梅原潤一さん(アトレ恵比寿店)と「東野圭吾命」の佐伯敦子さん(厚木店)です!
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マスカレード・ホテル
東野圭吾:著
集英社
1,680円

麒麟の翼
東野圭吾:著
講談社
1,680円

真夏の方程式
東野圭吾:著
文藝春秋
1,700円

緑の毒
桐野夏生:著
角川書店
1,470円

エージェント6 上
トム・ロブ・スミス:著
新潮文庫
740円

エージェント6 下
トム・ロブ・スミス:著
新潮文庫
820円

チャイルド44 上
トム・ロブ・スミス:著
新潮文庫
740円

チャイルド44 下
トム・ロブ・スミス:著
新潮文庫
700円

グラーグ57 上
トム・ロブ・スミス:著
新潮文庫
700円

グラーグ57 下
トム・ロブ・スミス:著
新潮文庫
700円

心に雹の降りしきる
香納諒一 :著
双葉社
1,995円

殺し屋 最後の仕事
ローレンス・ブロック:著
二見文庫
920円
※三羽省吾『ジャンク』は
2011年10月に
刊行予定です。
※価格は全て 5%税込です。
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梅原: |
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ああ、はいはい。どうもどうも。
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佐伯: |
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もぉ、ウズウズしていました! よろしくお願いします!
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加藤: |
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それでは、早速佐伯さんから、この秋おすすめのミステリーを挙げていっていただきましょう。
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佐伯: |
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この秋、おすすめ!といったら、それはもう、「東野圭吾命」の名にかけて『マスカレード・ホテル』でしょう!
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梅原: |
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ふふん。
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加藤: |
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今年は作家生活25周年の東野さんイヤーですね。
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佐伯: |
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いやあ、東野圭吾ぐらいの作家になると、大ファンの自分でも、もうそろそろ筆が落ち、傑作は出ないのではないかと思うのですが、ところがどっこい、まだまだ、東野圭吾の引き出しはとてつもなく深かったようです。
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加藤: |
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そうなんですか。ふむ、タイトルから推理するに…、今回の舞台は…、ずばり、ホテルですね!
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梅原: |
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推理ってほどのもんでもないだろ!
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佐伯: |
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はい。連続殺人事件に残された奇妙な暗号を解読すると、次の殺人が起きる場所が「コルテシア東京」という都内のホテルであるということが推測されます。新田浩介という警部補がフロントクラークに扮して、潜伏捜査を始めます。
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加藤: |
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ガリレオでもなく、加賀恭一郎でもない新しいシリーズのニューヒーロー登場ですね!
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佐伯: |
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そのとおり! ホテルマンの世界も描かれていて、同じ接客業に従事する自分も仕事のプロフェッショナリズムについて、ふむふむと頷きながら初心に戻ったつもりで読んでしまいました。教育係の山岸尚美とのやりとりもビジネス書を読んでいるかのようで、そういえば、ホテルマンの世界って、CSの最高峰だよなあと感じました。
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加藤: |
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ビジネス書としても愉しめる、と!
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佐伯: |
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そうです!ミステリーとしても、これは本当に文句なしに面白く、いろいろ張り巡らされた伏線が最後にはきちんとはまって、これって、一粒で二度美味しいって感じ! ホテルの世界と読み応えバッチリのミステリーと! なんだか、お得感満載だなあと思いながら、読み終えました。
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加藤: |
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なんだかすごく読みたくなってきました!
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梅原: |
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やれやれ。
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佐伯: |
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今年の東野圭吾は、『麒麟の翼』も『真夏の方程式』も、ものすごく面白かったのですが、最後にきちんと年末まで、売り続けられるホテルもので締めくくり、もうこれは、言うことなし。ファンとしては、大満足の3連発でした。
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加藤: |
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他にお勧めは?
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佐伯: |
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桐野夏生さんの『緑の毒』ですね。
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加藤: |
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私も読みました!妻の浮気を知った開業医が、水曜の夜ごとに一人暮らしの女性の部屋へ忍び込んで悪さをする、という衝撃的な内容ですね。
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佐伯: |
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はい。桐野さん、やっぱり面白くてやめられないですね。今回も少し怖い設定ではありながら、三番目の被害者に対して開業医が“お前じゃないが仕方がない”というところを読んで、そうそうこれだよ、これが桐野夏生節なんだよと納得しました。
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梅原: |
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このねちっこい感情と小さなことまで書き分ける作家としての嗅覚はすばらしいよな。
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佐伯: |
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はい。ちょうど仕事の異動でストレスを感じていたところで、うまく現実逃避ができるほど夢中で読み、小説でストレス解消ができるんだとあらたに実感しました。嫉妬心は本当に人の感情の中で一番醜いものだと思いますが、桐野夏生にかかるとそれも日常茶飯事、当たり前のことで、その感情に翻弄される人間描写が本当に上手で、桐野夏生もまだまだ健在だなあ。
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加藤: |
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9月から異動で職場が変わったばかりの私たちに、この本はうってつけですね!
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梅原: |
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ほんとかよ!
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佐伯: |
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もう1冊おすすめさせてください! トム・ロブ・スミスの『エージェント6 上・下』。
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加藤: |
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『チャイルド44 上・下』『グラーグ57 上・下』に続くレオ3部作の最終巻ですね。
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佐伯: |
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はい。もう、これでもかと共産主義の世界を描きまくり、ネタはつきないものだなあと読み応え十分。冒頭の回想部分では、このお話がどこへ行くのかとやきもきしましたが、それから15年後に悲劇が起こり、もうそこからは20世紀のソビエトの歴史とそれに翻弄されていたアメリカという国と、どうなるのか、一気に加速して読みました。レオのライーサへの愛情が、切なかった~。
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梅原: |
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トム・ロブ・スミスは、まだ若い作家なのに、すごいよな。
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佐伯: |
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この世界水準の面白さは、そんじょそこらの文庫本とは分け隔てて、お読みいただきたいと思います。
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加藤: |
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梅原さんのおすすめは?
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梅原: |
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うむ。まずは香納諒一の『心に雹の降りしきる』。
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加藤: |
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過去の捜査の失敗と家庭の崩壊によりすっかりやる気を失っている刑事が、ある事件をきっかけに男としての矜持と刑事としての誇りを取り戻そうとする物語ですね。
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梅原: |
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警察機構を詳しく綴り、チームとしての警察の活躍を描く最近流行りの警察小説とは全く趣の違う、どこか懐かしささえ漂う一匹狼のアウトロー刑事の一人称で語られるド・ハードボイルドだ。
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加藤: |
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ほお!
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梅原: |
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涙や感動を押し付けてくるしゃらくさい小説やドンデン返しをこれ見よがしにカマす猪口才な小説の氾濫に飽き飽きしている大人の読者に是非読んで欲しい今どき珍しい無骨な小説だ。
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加藤: |
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ははあ!
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梅原: |
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次におすすめしたいのは、ローレンス・ブロックの『殺し屋 最後の仕事』。
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佐伯: |
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知る人ぞ知る「殺し屋ケラー」シリーズですね。
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梅原: |
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主人公の殺し屋ケラーと、彼を取り巻く人々との粋な会話とケラーの様々な思考が一番の読みどころで、事件らしい事件は殆ど起こらないのに絶妙に面白い! というのがこのシリーズの最大の魅力なのですが、今回はド派手な展開が待っています!
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加藤: |
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おお!
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梅原: |
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が、やはりそこはブロック、変に盛り上げたりせず、いつものテンポがウレしくなります。
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加藤: |
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ふんふん!
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佐伯: |
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作家の伊坂幸太郎さんも大ファンで、この本の解説も書いてますね。
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梅原: |
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最後に、三羽省吾の『ジャンク』。
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佐伯: |
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現代社会の潮流にノリきれず世間から半分ドロップアウトしたかのような男達の犯罪スレスレの労働を描く中篇二本(「指」「飯」)からなる作品集ですね。
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梅原: |
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フザけたユーモア小説を装いつつも実は真摯に日本社会の歪みとその歴史の暗部を抉り出さんとする小説だけを描き続ける三羽省吾は現代の小林多喜二だ!
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加藤: |
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なんと!
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梅原: |
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今回の作品集もイイ!特に、ある事情のために刑務所前のメシ屋で働くことになる男を描く「飯」の怒涛の展開には唸る!大甘なラブストーリーや嘘くさいドラマに飽き飽きしている大人の読者に捧ぐ!
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加藤: |
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わぁお!
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梅原: |
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おい、おちょくってんのか!?
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加藤: |
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と、と、と、とんでもないです!
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佐伯: |
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ところで、加藤さんのおすすめミステリは?
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加藤: |
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えーと、私は前回おすすめさせていただいたので割愛させていただきます。紙面も残り少なくなってまいりましたので今回はこのへんで! 皆様、読書の秋をお愉しみください!
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