はじめに |
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加藤: |
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今回は、『いちにち8ミリの。』が刊行になったばかりの中島さなえさんをゲストにお招きいたしました!
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中島: |
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こんにちは! お招きいただいて嬉しゅうございます。 張り切ってお答えしますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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加藤: |
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さなえさんのお父上は、あの中島らもさんなんですよね。 私たち読者からは、かなり破天荒な方とお見受けしますが、さなえさんから見たらもさんはどのようなお父さんでしたか?
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中島: |
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いや、私から見ると、社会性のある常識人です。 酒も飲むけれど、かなりの仕事人間。 うちの母親のほうがよほど破天荒ですね。 巨大なバイクに乗って、つなぎ姿で授業参観に現れたりしますから(笑)。
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加藤: |
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そうなんですか! 意外ですね。 さなえさんのお名前も、らもさんが付けられたとか。
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中島: |
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「食いっぱぐれないように」ということで、兄に「晶穂」、私に「早苗」とつけてもらいました。 私の生活は今までのところ安穏なのですが、兄は一時期会社をクビになったりして、思いっきり食いっぱぐれていましたね(笑)。 最初は自分の名前が田植機のようで気に入っていなかったのですが、大人になるにつれて、いい名前をつけてもらったなあと、ほっこり思っています。
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加藤: |
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今まで色々なお仕事を経験されているそうですが、さなえさんの今のお仕事は?
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中島: |
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本を出していただいて念願の「職業=作家」になることができましたが、ちょこちょこアルバイトをするのが好きです。 もちろんお金のこともありますが、それ以上にいい刺激と体験になるので。 みなさんの職場にも、ある日ひょっこり現れるかもしれません(笑)。
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加藤: |
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それでは、デビュー作の『いちにち8ミリの。』について伺ってまいりましょう。
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「ゴリづらの木」 |
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加藤: |
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『いちにち8ミリの。』には、「ゴリづらの木」「手裏剣ゴーラウンド」そして表題作「いちにち8ミリの。」が収録されていますね。 全体を通して、一途な想い、伝えたくても伝えきれない想い、が描かれている作品だなあと感じました。
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『いちにち8ミリの。』
双葉社:刊
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中島: |
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そうですね。 書いてみてから気づいたのですが、今の自分の中で一番しっくりくるのが「せつないけれど微笑ましい」というテイストなんです。 感動もしたいけれど寂しい気持ちのまま終わりたくない。 そういった自分の中のわがままな願望を叶えてくれる話を作りました。 3話ともすごく気に入っています。
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加藤: |
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最初に収録されている「ゴリづらの木」、読み終えて私はすごく泣いてしまいました。
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中島: |
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ありがとうございます。 すごく嬉しいです! 読んでいただいた方の声を聞くと、主に女性の方の支持をいただいています。 たまに「オイオイ泣いたよお! 」と言ってくれる男性もいて、妙に嬉しいですね。 無条件で「この人、素敵な男性やなあ」と見直します(笑)。
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加藤: |
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このお話が生まれたきっかけは?
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中島: |
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昔やっていたバンドから3、4年前に、「ゴリ面(ごりづら)」という曲をやるから、ショートストーリーを考えてくれないかっていう依頼があったんです。 「ごりづら」と聞いてパッと思いついたのが、木の上に登ったまま降りてこない、顔の醜い男の子。 それで簡単なストーリーを作って。 結局その企画はお箱入りになったんですが、去年思い出して、わざわざ箱から引っ張り出し、『ゴリづらの木』という新しい物語を書きました。
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加藤: |
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エンディングがすごくいいですよね。 書き始めてからどれくらいの段階であのラストを思いついたんですか?
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中島: |
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去年プロットを考え始めた時に、オープニングとエンディングはすぐに思いつきました。 どの話も、始めと終わりは最初に思いつきます。 特に気に入ったエンディングを思いつくと、ものすごく筆が進むんです。 たぶん私自身も、早くエンディングを味わいたい、たどりつきたいからだと思います。
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加藤: |
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読者の皆様には、夏のうちに是非読んでいただきたい作品だと思います。
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「手裏剣ゴーラウンド」 |
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加藤: |
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この短編はすっごくおかしかったです! お腹を抱えて笑いました。 ひょっとしてさなえさんは忍者好きですか?
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中島: |
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大好きです! 小学校に入るくらいまで、忍者ハットリくんの嫁になるのが将来の夢でしたから。 だけどその後、小学校低学年くらいになると将来の夢がなぜか、「忍者の嫁」から「スーパーのレジ」という非常に堅実なものに移り変わっていたという(笑)。
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加藤: |
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「荒巻シャケオ」ってすごいネーミングですね(笑)! 読者の中には古田新太さんをイメージした方もいらしたそうですが、私のイメージでは荒井注さんがぴったりなんですよね。
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中島: |
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みなさん、バラバラですね(笑)。 もう好きにイメージして楽しんでいただけたら幸いです。 なんせ脳内キャスティングするぶんにはタダですから(笑)。
「荒巻シャケオ」というのは、知人で実際そういったあだ名の人がいて。 「荒巻」という苗字の男性なんですが、みなから「シャケオ君」と呼ばれていたんです。 私、それを聞いた時に「『シャケオ』て……」と突っこんでしまいまして(笑)。 可笑しくてナイスなあだ名ですよね。
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加藤: |
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このお話の舞台は遊園地ですが、この遊園地のモデルはどこですか?
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中島: |
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七年ほど前に、関西からバンドの車に乗って、浅草へCDのジャケット写真を撮影に来たんです。 その時に花やしき遊園地へ遊びに行って。 加藤さんも、行かれたことがありますでしょうか。 「えらい小さな遊園地だな」と思ったんです。 ちょうどその時、天童よしみさんが新曲のキャンペーンでいらしていて、それが『手裏剣ゴーラウンド』のオープニングシーンの元になっています。 なんでも経験してみるもんですね。
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加藤: |
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この作品も、すごく笑えるんだけど、読んでいるうちにしんみりした気持ちになります。
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中島: |
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ありがとうございます。 こんな情報過多で整備された現代に忍者が現れたら、さぞかし居辛いだろうなって。 訓練されて感情を表に出さない忍者でも、時には人恋しくなったり、いたたまれなくなったりすることもあるんじゃないでしょうか。 同じように、毎日の生活にどこか居心地の悪さを感じている人って、たくさんいると思うんです。 後半はそういった感情を軸に、主人公と忍者が互いに少しだけ、共感を持ちます。
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「いちにち8ミリの。」 |
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加藤: |
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さて、いよいよ表題作について伺います。 まず、タイトルについてさなえさんからご説明していただけますか?
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中島: |
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村の丘の上にある祠に、二メートルもある大きな石が祀られています。 その石は、村に住んでいる大好きな美澄の姿を見たい一心で、毎日8ミリずつ、大変な思いをして動いていくんです。 しかし、その石の思いは思いきりに打ち砕かれます。 毎年、石を祠に戻す祭が開催されて、石は無惨にも引き戻されてしまうんです。 それでも石はまた「いちにち8ミリの。」移動を始めます。
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加藤: |
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動かない石、に託された思いは?
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中島: |
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実はこの話はもともと二部構成になっていました。 カットした二部に出てくる男性、彼はまったく体を動かすことができない境遇にいるのですが、その彼の象徴が石なんです。 意志があるのに体を動かすことができないって、一番残酷な状況だと思うんです。 これで生きていると言えるのかって、何度も自問自答を繰り返すはず。 それでも石は、あきらめずに少しずつ自分を動かそうとする。 これも私の願望で、一日8ミリでも、いつかきっとたどりつけると信じて、強い信念を持っていたいと。 石にその思いのすべてを託しました。
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加藤: |
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すごく切ない気持ちになってきました。 執筆期間はどれくらいだったのでしょう?
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中島: |
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構想半年、執筆半年、2008年に書きましたね。 その時ちょうど『潜水服は飛ぶ蝶の夢を見る』という映画が公開になって、「やばい! これ、テーマかぶってるやん!」と、あわてて書き始めた覚えがありますね(笑)。
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加藤: |
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舞台となっている柄内村(がらないむら)のモデルとなった村はあるのですか?
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中島: |
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千葉の房総半島のまんなかあたりを想定しています。 実は恐ろしいことに、一度も行ったことがないのですが(笑)。 方言も勝手にアレンジして使っています。 機会があれば、一度遊びに行ってみたいと思います。
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加藤: |
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そうなんですか! さなえさんご自身もつぶやいておられるツイッター http://twitter.com/ichinichi_8mm では柄内村の様子もよく出てきて楽しいですよね。 読者の皆さま、是非こちらも覗いてみてください。
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