加藤: |
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今回は秋の夜長にぴったりのミステリーをご紹介しようと思います。そこで、有隣堂きっての読書家のお二人をお招きして座談会形式で本をご紹介いたします。今回も「POPの帝王」梅原潤一さん(横浜駅西口店)と「東野圭吾命」の佐伯敦子さん(川崎BE店)にご登場いただきたいと思います!(「本の泉」
第86回 / 第92回参照)
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白銀ジャック
東野圭吾:著
実業之日本社
680円

悪の教典 上
貴志祐介:著
文藝春秋
1,800円

悪の教典 下
貴志祐介:著
文藝春秋
1,800円

灰色の虹
貫井徳郎:著
新潮社
1,995円

後悔と真実の色
貫井徳郎:著
幻冬舎
1,890円

再会
横関大 :著
講談社
1,680円

お台場
アイランドベイビー
伊予原新:著
角川書店
1,680円

小鳥を愛した容疑者
大倉崇裕:著
講談社
1,575円

三人目の幽霊
大倉崇裕:著
講談社
798円

砂の上のあなた
白石一文:著
新潮社
1,785円

ほかならぬ人へ
白石一文:著
祥伝社
1,680円

ツリーハウス
角田光代:著
文藝春秋
1,700円
※価格は全て5%税込です。
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梅原: |
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はいはい、どうも。
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佐伯: |
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去年に引き続きがんばります!
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加藤: |
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それでは早速佐伯さんからお願いします!
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佐伯: |
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はい!まずは東野圭吾の『白銀ジャック』です!
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梅原: |
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ふふん。
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佐伯: |
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また、東野圭吾か! とつっこまれそうですが、“今回の東野圭吾も面白かった”。
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加藤: |
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先月創刊した実業之日本社文庫の目玉作品ですね!
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佐伯: |
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そうです。この新刊が680円、これを見逃す手はないですよ~。
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加藤: |
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佐伯さん、ジャパネット高田みたいですね。
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梅原: |
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で、どういう話なのさ。
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佐伯: |
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あるスキー場に爆弾をしかけたというメールが届きます。そして、要求される身代金。つまり、スキー場全体がジャックされてしまうのです。過去にこのスキー場で大切な人を失った親子、謎の老夫婦、怪しい地元のスノーボーダー達。一体、誰が何のために。
読んだ後は、なんだか東野圭吾にスキーに連れていってもらったような心地よいウキウキ感にひたれます。
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加藤: |
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え~っ!(笑)
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佐伯: |
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エンタメに徹して誰でも楽しんで読めるように書かれた東野圭吾の新刊が、な、な、なんと680円!
ぜひ、お近くの有隣堂で今すぐお買い求めください!
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梅原: |
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だから、ジャパネット高田か!
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加藤: |
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佐伯さん、他のおすすめは?
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佐伯: |
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貴志祐介の『悪の教典
上・下』ですね。
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加藤: |
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第一回山田風太郎賞を受賞したばかりですね。いやあ、これは面白かったです!
上下巻一気読みでした。
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佐伯: |
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そうそう! サイコパスの英語教師が、次々と起こす殺人事件。読後感の悪い、ホラーホラーした一冊ですが、こんな分厚いのにサクサクつい最後まで、読んでしまいます。他の人には決して真似できない世界を創りあげる筆力は、さすがです。怖いなあ、怖い、と思いながらも、日常から離れ、小説の世界に読者を引きずりこむ、この劇薬のような作品の魅力にまたやられた感あり。人の心の琴線は、愛か恐怖で揺さぶられると前に何かで読んだことがありますが、貴志祐介ほど、その使い方がとてもうまい作家はいないのではと、いつもいつも感じます。ぜえぜえ。
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加藤: |
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過呼吸気味ですが、大丈夫でしょうか、佐伯さん?
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佐伯: |
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この勢いで貫井徳郎『灰色の虹』も紹介させてください!
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梅原: |
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ちょっと待った! これはオレに紹介させてくれ。
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佐伯: |
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(タジタジになって)は、はい。梅原さん、お願いします。
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加藤: |
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お二人が揃って勧めるなんて余程面白いんでしょうね。
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梅原: |
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何?読んでないのか?ダメだなあ~。
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加藤: |
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えへへ。ど~もすいません!どういうお話なんですか?
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梅原: |
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冤罪により人生をメチャメチャにされてしまった男が自分を犯人に仕立て上げた刑事、検事、弁護士らを次々に殺していく、というショッキングかつダークな内容で「復讐は赦され得るのか」「正義とはなにか悪とはなにか」と言うことを考えさせるズッシリとした手応えのある作品だが何よりも素晴らしいのはそんな重いテーマを扱いつつもエンターテインメントとしてとにかく圧倒的に面白い点。とにかく読み出したら止まらない面白さなのでやる事やってから読み始めることをオススメします。
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佐伯: |
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貫井さんは最近、日本推理作家協会賞受賞、山本周五郎賞受賞と連続して受賞していますね。年末のベストミステリーでの上位入賞もいよいよ現実味を増してきたのでは…。
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梅原: |
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ああ、そうさ。だがな、年来のファンとしてどうしても言っておきたいのはこの『灰色の虹』だけが貫井さんの作品群の中で突出して優れている訳では決してない!
ということだ。『慟哭』『修羅の終わり』『殺人症候群』『乱反射』『後悔と真実の色』…と連綿と続くヘビーでビターでありながらエンタメ性に優れた犯罪小説を物してきた貫井さんにとっては『灰色の虹』は当然行き着くべき、そしてまた越えていくべき地平の傑作の一つに過ぎないのであーる。
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佐伯: |
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確かに、このミステリーはズバリ今年のナンバー1でしょう。面白かった!
最高に。貫井さんは、人の細かな感情を拾い上げて丁寧に描写するのがとても上手な作家さんだと思います。「これくらいは大丈夫だろう。」とそれぞれが自分勝手に話をでっちあげて、一人の人間の人生をめちゃくちゃにしてしまうという本当に重くて考えさせられるストーリーなのですが、もうどうなるのか、どうなるのか、とページをめくる手を止められないくらいの面白さでした。虹色に見えていたはずの未来が、ある日とつぜん色を失い、灰色になるなんて、誰も予想しなかった。冤罪は、本当に人の未来と周りの人の人生を一瞬のうちの壊してしまうのだと。読んだ後は、しばし魂をぬかれたように、呆然とする人も多いのでは?貫井徳郎さんは、本当にいい作家になったと思った今年最高のミステリーでした。
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加藤: |
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分かりました。私もなるべく早く読みます。
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梅原: |
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今すぐ読め!
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加藤: |
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ひぃ~っ! は、はいっ! 新人作家でオススメはありますか?
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佐伯: |
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横関大『再会』ですね。
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加藤: |
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江戸川乱歩賞受賞作ですね。
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佐伯: |
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はい。ある事件が起き、幼なじみの4人はその秘密をタイムカプセルに入れ、校庭に埋めます。そして23年後に新たな殺人事件が起き、4人は再会することになり、過去の事件とのつながりを明らかにされます。オーソドックスに書かれていて、とても読みやすく面白かった。2時間ドラマを観ているようで、誰が、何のために掘り起こし、で、23年前に起こった出来事は?と。次回作が楽しみです。
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加藤: |
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この方は、江戸川乱歩賞を受賞するまで8年頑張ったそうですね。それも努力賞ものですね。
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佐伯: |
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はい。あともう1作、伊予原新『お台場アイランドベイビー』も紹介していいですか?
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加藤: |
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はい。横溝正史ミステリ大賞受賞作ですね。
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佐伯: |
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東京お台場に起こる近未来の震災とその後。無国籍チルドレンの実態。ミステリーというよりも時代の流れを感じる一冊でした。そういえば、何年か前には出稼ぎにきている外国人が多かったなあと思い出し、あの人たちの苦悩と生まれてきた子供達とその後の生活とかいろいろ考えてしまいました。
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加藤: |
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「大賞史上最も泣けるミステリー」とのことですが…。
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佐伯: |
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確かに動物図鑑のところでは、思わずほろりときましたね。ミステリーというよりも、世界を思わず見渡してしまいそうなストーリーでした。
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梅原: |
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そろそろオレにも話させてくんない?
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加藤: |
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あ、はい! それはもう。お願いします!
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梅原: |
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『灰色の虹』のようにヘビーなのもいいけどお気軽なミステリーも好き。『小鳥を愛した容疑者』は、落語ミステリー(『三人目の幽霊』『七度狐』)、軽犯罪ミステリー(「白戸修」シリーズ)「刑事コロンボ」への偏愛に満ちた倒述ミステリー(「福家警部補」シリーズ)などややマニアックな設定でありつつも軽快な語り口と魅力的なキャラ設定で万人向けのミステリーを量産し続ける大倉崇裕の新たな「ヘンテコ設定ミステリー」だ。
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佐伯: |
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へえ~。
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梅原: |
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逮捕、拘留された容疑者が飼っていたペットを保護する「警視庁総務部総務課動植物管理係」に配属された元捜査一課のバリバリ鬼警部補(現在銃傷でリハビリ中)の須藤友三と獣医師免許を持つ動物オタク薄圭子巡査。このふたりの迷コンビぶりがなんとも楽しい上に飼っているペットの様子や習性が犯人逮捕の決め手になっていく過程が
ワクワクさせ、ミステリー的な出来も素晴らしいのだ!
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加藤: |
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面白そうですね。私も読んでみようかな。
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梅原: |
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今すぐ読め!
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加藤: |
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ひぃ~っ! り、了解です!
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梅原: |
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で、「秋の夜長のミステリー」鼎談に参加しながらこんな事を言うのもなんですが、基本的に自分「小説のジャンル分けは不要、不毛、無意味だ」と思ってるんだよね。
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加藤: |
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えへへ。ど~もすいません!
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梅原: |
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まったく、おまえは林家三平か! 自分的には小説には「面白い」小説と「つまらない」小説の二種類しかなく、更に「面白い小説は必ず少なからずの謎を孕んでいる」と思っていて、言い方を変えると「面白い小説はすべからくミステリーである」という結論に達するわけで、要は「オレ様が読んで面白かった本はすべからくミステリーなのだ!」という極論に達する訳です。
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佐伯: |
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ほぇ~!
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梅原: |
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そんな観点から世間的にはミステリーには決してジャンル分けされない小説から大オススメひとつ。『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞し、世間的には恋愛小説の大家と認知されつつある白石一文の新作『砂の上のあなた』。死んだ父に愛人が居た。その愛人に宛てた手紙の存在を愛人の息子と称する男から知らされて戸惑う35歳主婦、美砂子…てな導入部からどんな物語が語られるか想像してください。
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佐伯:
加藤: |
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………(想像している)。
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梅原: |
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はい、そんな想像を遥かに超えたデタラメ一歩手前の物凄い展開が待っています!
なんていうのかなあ、恋愛小説というよりも横溝正史の『犬神家の一族』とか『八つ墓村』などといった、因襲に囚われた閉鎖的な一族に起こる悲劇というか親の因果が子に報い的な運命の不思議さを感じさせる物語なんだよな。
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加藤: |
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わぁっ! 松子・竹子・梅子の三姉妹とか双子のおばあちゃんとかが出てくるんですか?
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梅原: |
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(あっさりと)それはないね。で、後半は「ええっ!」「おいおい!」「まさか!」の連続で主人公の美砂子も読んでるこっちの頭もメチャメチャ疲弊します。でもこれって面白いミステリーを読んでる時の悦びそのものなんだよねえ。
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加藤: |
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それを仰るなら角田光代の新刊『ツリーハウス』もある意味ミステリーですよね。満州から引き揚げてきた祖父母に始まる家族の歴史を、孫が少しずつ探っていく物語です。
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梅原: |
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ああ、そうだな。戦争から戦後にかけて日本が辿ってきた大きな歴史と、この家族の小さな歴史が絡まるように展開していく、角田光代の新しい魅力が詰まった1冊だな。
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加藤: |
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ほんと、どうしてこの作家は書くたび書くたび最高傑作を更新するのでしょうね。
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梅原: |
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すばらしいよな。
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加藤: |
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ノーベル文学賞をさしあげたいくらいですよね。
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佐伯: |
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ちょいちょいちょおい! それは東野さんでお願いします!
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