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第101回 2010年7月2日


●執筆者紹介●


加藤泉

有隣堂読書推進委員。

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。


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~第143回直木賞大予想~
  (この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません)
 
 
平尾才助

(55歳…書店員歴33年)



悠木和雅

(44歳…書店員歴15年)



野口魚子

(33歳…書店員歴6年)

  悠木:   さあ、またもや直木賞の季節がやってまいりました。
 
  野口:   今回も私たちは本命・対抗・大穴と予想しなくてはならない辛い立場にいます。
 
  平尾:   毎度のことながら誰にも頼まれてないけどな。 俺たちも好きだよな。
 
  悠木:   今回は、6候補作のうち3作が初ノミネートです。 フレッシュな風を感じますね。
 
  野口:   いつものことですが、予想するのは本当に難しいですね。
 
  平尾:   外れてもともとのつもりで気楽にやろうぜ。 我々の使命はお客様に少しでも興味を持っていただくことなんだから。 これも毎回言っているけどな。
 


小さいおうち・表紙画像
小さいおうち

中島京子:著

文藝春秋
1,660円
(5%税込)

   本命・中島京子 『小さいおうち』(文藝春秋)

 

  悠木:    中島京子は初ノミネートです。
 
  平尾:   今回も我々は賭けに出たってわけか。
 
  野口:   中島さんは今まで候補にならなかったのが不思議なくらいの作家です。 この作品で受賞しても全く驚きません。
 
  平尾:   初候補で受賞したケースは過去にあるのか?
 
  悠木:   それがけっこう多いんですよ。 現役の作家で挙げると、小池真理子、高村薫、乃南アサ、村山由佳、山本文緒、唯川恵などがいます。 あえて女性作家だけにしぼってみましたが。 ただ、ここ5年間は初候補で受賞したケースはありません。
 
  平尾:   ほお。 それはひょっとしたらひょっとするかもしれないな。 装丁もいいし。
 
  野口:   作品の完成度から言っても『小さいおうち』は文句ないと思います。
 
  悠木:   タキさんというお婆さんが昭和初期の女中奉公時代の思い出を書き綴る、という体裁をとっています。 奉公先の奥様をめぐる秘められた恋のゆくえが、太平洋戦争の情勢と呼応するように描かれています。
 
  平尾:   手が込んだ作品だよな。 バージニア・リー・バートンの『ちいさいおうち』が出てくる最終章は読んでてゾクゾクしたぞ。
 
  悠木:   中島京子さんには、田山花袋の『蒲団』を現代に甦らせた『FUTON』や、『日本奥地紀行』で有名なイザベラ・バードを題材にした『イトウの恋』という作品があり、いずれも素晴らしい作品です。 この『小さいおうち』はその流れを汲む、まさに中島さんの真骨頂と言っていい作品だと思います。
 
  野口:   はい。 それに、この小説の中には「東京會舘」という言葉が出てくるんです!
 
  平尾:   それがどうした?
 
    野口:   東京會舘は直木賞受賞式の会場なんですよ! これは隠された暗号なんです!
 
    平尾:   そうか。 それじゃあ我々の予想する本命は『小さいおうち』に決定!
 



光媒の花・表紙画像
光媒の花

道尾秀介:著

集英社
1,470円
(5%税込)

   対抗・道尾秀介 『光媒の花』(集英社)
 
  悠木:    道尾秀介は、第140回から連続して4回目の候補です。
 
  平尾:   すごいよな~。 波に乗ってるね。
 
  野口:   乗ってますね~。
 
  平尾:   これも本命にしたいくらいだな。
 
  悠木:   『光媒の花』は先日山本周五郎賞を受賞したばかりです。 過去に、同じ作品で山周賞と直木賞を受賞したのは熊谷達也『邂逅の森』だけです。
 
  平尾:   あの時は驚きだったよな。
 
  悠木:   はい。 ただ、山周賞を獲った翌年に直木賞を受賞するケースはいくつかあります。 宮部みゆきも江国香織も京極夏彦も重松清もそうですね。
 
  野口:   重松清と言えば山周賞の選考委員をやっていますが、この『光媒の花』の選評が良かったんですよ。 「全六章それぞれが短編としての繊細さを保ちながら、やはりこれは、闇から光へ向かって紡がれた長編であり、と同時に、光から闇への長編でもあるのだ」ですって。 この作品の素晴らしさを的確に言い表していらっしゃいますね。
 
  平尾:   ふうん。 まあ、『光媒の花』は今回は授賞を見送って次回に、ということになるんだろうな。
 
  悠木:   道尾秀介は「別冊文藝春秋」で連載が終わったばかりで、それが秋口に単行本になるとすると、その作品で直木賞、という可能性のほうが高いと思います。
 


リアル・シンデレラ・表紙画像

リアル・シンデレラ
姫野カオルコ:著

光文社
1,785円
(5%税込)

   大穴・姫野カオルコ 『リアル・シンデレラ』(光文社)
 
  悠木:    姫野カオルコは4回目の候補です。 久々のエントリーです。
 
  野口:   ほんっとに嬉しいですね!
 
  悠木:   5年前、第134回で『ハルカ・エイティ』が候補になって以来です。
 
  野口:   はい。 姫野さん久々の長編小説です。
 
  悠木:   「シンデレラは幸せな女性の象徴と本当に言えるのか? 」という問いで始まり、本当に幸せな女性とはこういう人だと描いてみせた、とても読後感の良い1冊です。
 
  野口:   ただ、ひとつ残念なのは『ツ、イ、ラ、ク』が候補になったとき姫野さんを高く評価した田辺聖子先生がもう選考委員を退いているということなんですよね。
 
  平尾:   なるほどな。 大穴にとどめておいたほうが無難かもな。
 
  悠木:   我々の生みの親もこの作品を「本の泉」第95回で絶賛していますので、よろしければそちらもお読みいただきたいと思います。
 


あの日にかえりたい・表紙画像
あの日にかえりたい
乾ルカ:著

実業之日本社

1,575円
(5%税込)

   乾ルカ 『あの日にかえりたい』(実業之日本社)

 

  悠木:    乾ルカは初めてのノミネートです。
 
  平尾:    犬いるか?
 
  悠木:   乾ルカです。 確かに、ペンネームの由来は「犬いるか?」らしいですが。
 
  野口:   この作家はデビュー作『夏光』のときから応援してました! やっと候補になってくれた! という感じです。
 
  平尾:   どういう作風なんだ?
 
  野口:   ライトなホラーなのですが、心の琴線に触れるような短編が上手い作家です。 「泣けるホラー」と言うと語弊があるかもしれませんが、朱川湊人に通じるものはあります。
 
  悠木:   『あの日にかえりたい』は乾ルカの4冊目となる作品ですが、前作の『メグル』も評判がとてもよかったです。 着々とステップアップしている若手作家ですね。
 
  野口:   はい。 いつか必ず直木賞作家になる方だと思います。
 
  平尾:   そうだな。 今回は候補になったことをまず祝おう。
 


天地明察・表紙画像
天地明察
冲方丁:著

角川書店
1,890円
(5%税込)

   冲方丁 『天地明察』 (角川書店)
 
  悠木:    冲方丁も初ノミネートです。
 
  平尾:    オキカタチョウか。
 
  野口:   ぶっ! 平尾さんお約束のギャグですね。
 
  平尾:   でもよぉ、最初っから「うぶかたとう」と読める人はいないと思うぜ。
 
  悠木:   それにしても、このノミネートはびっくりでした。 これまでに本屋大賞作品が直木賞の候補になったことはなかったと記憶しています。 逆はいくらでもありますが。
 
  野口:   時期的にもびっくりですよね。 発売は去年の12月でしたが奥付は11月30日になっています。
 
  平尾:   これはよぉ、本屋大賞への挑戦なんじゃねえか?
 
  悠木:   なんてことを! 立場が逆でしょう!
 
  野口:   それにその喧嘩上等みたいな態度やめてください。
 
  平尾:   でも、まあ、『天地明察』は直木賞って感じはしないよな。

 

  悠木:   万が一直木賞を獲ったらすごいことですよね。 今から選評が楽しみです。

 



かのこちゃんとマドレーヌ夫人・表紙画像
かのこちゃんとマドレーヌ夫人
万城目学:著

筑摩書房

903円
(5%税込)

   万城目学
かのこちゃんとマドレーヌ夫人

(筑摩書房)

 

  悠木:    万城目学は3回目の候補です。
 
  平尾:   びっくりと言えばこのノミネートが一番びっくりだよな。 なんてったって、ちくまプリマー新書なんだから。
 
  悠木:   新書が候補になったり、本屋大賞受賞作が候補になったりと、今回は直木賞の懐の深さを感じさせますね。
 
  平尾:   そんなにいい作品なのか?
 
  野口:   小学6年生のかのこちゃんとすずちゃんの友情と、犬の玄三郎さんと猫のマドレーヌ夫人の夫婦の愛情が描かれていてとても温かい物語です。 お子様向けではありますが、日常のちょっとしたやりとりの妙が、エピソードとしていい具合に散りばめられています。
 
  悠木:   万城目さんの本筋ではないかもしれませんが、その分、鹿が喋る話が受け入れられなかった選考委員の先生には、万城目はこういう作品も書けるんだぞ、とアピールになると思います。
 
  野口:   ああ、でもこの作品が受賞したら「鼻てふてふ」が流行りそうで、それが楽しみです。
 
  平尾:   なんだ、その「鼻てふてふ」って。
 
  野口:   これです。 (野口、両手の親指を鼻の穴の中につっこみ、残りの指をひらひらさせる)
 
  平尾 悠木:   ………。
 

 
  平尾:    以上、言いたい放題だったが、今回も力のある作品が出揃ったな。
 
  野口:   はい。 皆様にも是非全作品お読みいただいて、予想してほしいですね。
 
  悠木:   第143回直木賞、発表は7月15日(木)の夜です! 皆様、お楽しみに!
 
 


文・読書推進委員 加藤泉


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