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第80回 2009年8月20日

●執筆者紹介●
 
加藤泉
有隣堂 読書推進委員。
仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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〜編集者が語る田辺聖子作品の魅力〜 (1)

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  加藤:   今回は「本の泉」初のこころみとして、編集者の方を対談のお相手にお招きしています。 講談社文庫出版部の新町真弓さんです。
 
  新町:   どうぞよろしくお願いいたします。 このコーナーはいつも楽しみに拝見してます。 本への愛情に溢れていて、面白くて、大好きです。 私ごときが登場していいのか……と恐縮してしまいますが、田辺さんの作品をご紹介させていただけると伺って、それなら! とドキドキしながら参りました。
 
  加藤:   ありがとうございます!こちらこそよろしくお願いします。
最初に、新町さんがこれまでなされてきたお仕事をざっとご紹介していただけますか?

 
  新町:   私が文庫出版部に異動になったのは2007年です。 それまではずっと雑誌の編集をしていました。 最初に配属されたのが「FRIDAY」。 そこに6年在籍して、2000年から女性誌の「FRaU」におりました。
育児休職を経て文庫に異動してから、今は田辺聖子さん、折原みとさん、井上夢人さん、舞城王太郎さんなど幅広いジャンルの方々とお仕事をさせていただいています。

 
  加藤:   新町さんの数々のお仕事の中でも、今回は田辺聖子さんの作品について語っていただきたいと思います。
傑作恋愛小説と名高い「言い寄る」三部作(『言い寄る』『私的生活』『苺をつぶしながら』)を講談社さんが2007年に復刊され、かなり話題になったことを記憶しています。 新町さんの直接のお仕事ではないかもしれませんが、この復刊の流れについてご存知のことを教えていただけますか?

『言い寄る』 『私的生活』 『苺をつぶしながら』
言い寄る 私的生活 苺をつぶしながら
 
  新町:   これは講談社百周年企画で部署を超えて小説の企画を出すというものがあり、そこに応募したデザート編集部の緑川という者が出した企画です。 彼女は20年以上前から田辺さんのファンでもあり、こういう作品を世に出したいと編集者を目指したのですね。 『私的生活』『苺をつぶしながら』は弊社の文庫にありましたが、まずは「乃里子三部作(主人公の名前を取ってこう呼ばれています)」をまとめて出したいと。
「乃里子三部作」のうち『言い寄る』はもともと文藝春秋さんから刊行されていたのですが絶版になっていて、集英社さんが2004年から刊行した田辺聖子全集でしか読むことができなくなっていました。 田辺さんも快くご了承くださり、集英社さんにもご協力いただいて、社を超えた復刻版が実現したのです。

 
  加藤:   なるほど。 1人の編集者の方の情熱から生まれた企画だったんですね。
 
  新町:   はい。 この三部作が話題になった一つには装丁の力がありました。 大久保伸子さんが装丁を手がけてくださったこの装丁の力で買ってくださった若い女性がたくさんいらっしゃいました。 そしてなにより驚かれたのが、30年前に書かれた作品とは思えない瑞々しい内容。 読者カードを送ってくださったのは10代から80代(!)まで本当に幅広いのですけれど、10代、20代の方々からは「読み終わって奥付をみてびっくりしました。 これが30年前に書かれたものだなんて! 信じられない!」という意見がとても多かったんです。 そして「初めて田辺さんの作品を読んだのですがはまりました!」「乃里子になりたい」「私の気持ちを代弁してくれている」と熱い思いのカードも多くきています。 まさに作品の力で話題になったのでしょうね。
 
  加藤:   確かに、この装丁は素晴らしいですね。
装丁と言えば、現在講談社文庫で復刊している『愛の幻滅 上』『薄荷草の恋』『うたかた』『春情蛸の足』の装丁も思わず手に取りたくなる手ぬぐい柄の表紙です。 この文庫復刊は新町さんのお仕事ですね。


『薄荷草の恋』 『うたかた』
薄荷草の恋 うたかた 春情蛸の足

 
  新町:  
  『愛の幻滅 上』
  愛の幻滅 上
 
  『愛の幻滅 下』
  愛の幻滅 下
 
ありがとうございます!
先ほどお話したように、緑川が『言い寄る』『私的生活』『苺をつぶしながら』の「乃里子三部作」を復刻した際、私は育児休暇中だったのですが、是非ともなにか協力したいと思って人を紹介したり相談に乗ったりしていたのですね。 そのうち私が文庫に配属になり、それならと田辺さんの担当をさせていただけることになりました。 だって名作が、品切れのままになっていたのです!! ひええ信じられない! と思って田辺さんのところにお願いに行き、まずは『愛の幻滅』から復刊させていただくことにしました。
装丁はもちろん乃里子三部作を手がけた大久保伸子さんにお願いしました。 『愛の幻滅』はページ数が多かったので、女性がハンドバッグに入れて持ち歩いて読めるように上下刊に分け、「上巻は瑪瑙色、下巻は藍色というテーマでお願いします」とご相談したのです。 お読みいただければその意味もわかりますよ(笑)。 そうしたら、「ちょうどテーマに合う手ぬぐいがあるんですけど」と言われて、上楽藍さんが作られた手ぬぐいを見せていただいた。 まさにこれ! というものでした。

 
  加藤:   本物の手ぬぐいの柄からとった表紙だったんですね!
 
  新町:   はい。 手ぬぐいの色って、ぼかしがありますよね。 これはのちに染色業者の方とも打ち合わせしてわかったのですが、これは一枚たりとて「まったく同じ」ものはないわけです。 そしてこのぼかしはCGではまったく同じように作ることはできない。 しかしプリントしたものではないから、洗っても洗っても、色が薄くなることはあるかもしれないけれど、削れて消えてしまうこともない。 これってまさに田辺さんの作品と同じだなあと思ったのです。
ですから『愛の幻滅』以降は大久保さんと上楽さんにまず作品をお読みいただいた上で手ぬぐいを制作していただき、その手ぬぐいをスキャンしてカバーにするという流れにしようと決めました。 手間も時間ももちろんかかりますけれど、このシリーズは続けたいと思っています。 いつも上楽さんから手ぬぐいのラフを送っていただくのがとっても楽しみで。 『うたかた』のてぬぐいは実は花弁をみると「う」「た」「か」「た」と読めるようになっているし、『薄荷草の恋』は短編が集まっているイメージで作ってくださったし、『春情蛸の足』は「I LOVE STAR」という名前がついてます。 とにかく可愛く、楽しく、色も美しく、と図々しいお願いをさせていただいています。

 
  加藤:   この装丁にはそんな深い意味が込められていたんですね。 なんだか感動します。
最近刊行された『春情蛸の足』の解説は、『食堂かたつむり』の著者小川糸さんが書かれていますね。 帯も印象的でした。
著名人の中にも田辺聖子ファンは多いと思います。 今後どなたが解説を書かれるのか楽しみなのですが…。

 
  新町:   小川糸さんは『食堂かたつむり』と『蝶々喃々』を拝読して「絶対に『春情蛸の足』はお好きなはず!」と思い、ご連絡させていただいたのです。 そして本を送ったら、「もう美味しそうで楽しくて!」と快諾いただいて。 打ち合わせでもあのシーンにこのセリフはすごいですよねとか、よくもここまで美味しそうにかけますよねとか、やっぱり色と恋とは人を幸せにしますよねとか、大いに盛り上がりました。
せっかくこうして復刻版の文庫を作らせていただけるのなら、より幅広い方々に書いていただきたいと思いつつ、名解説をいままで拝見してきたのでちょっとプレッシャーもあります。 ですから、もしかしたらたまたま一度もお読みになったことはないけれど、絶対好きそうだなと思う方にもアプローチしてみようと思っています。 ちなみに10月15日に刊行する『不倫は家庭の常備薬』は、恋愛小説といえばこの方! という大物に書いていただくことになっています。 この方はもともと田辺さんの作品のファンだから嬉しい!と言ってくださいました。 私も今から本当に楽しみでワクワクしています。

 
  加藤:   確かに、「解説」は文庫を読む楽しみの1つですよね。
今後の文庫復刊のご予定を教えていただけますか?

 
  新町:   さきほど申し上げた『不倫は家庭の常備薬』の新装版が10月15日刊行で出ます。 それから来年も2月の『蝶花嬉遊図』はじめ年間3〜4冊の復刊を予定しています。 まだわかりませんが、ちょっと大きな作品になると思います。
 
  加藤:   おお!そちらも楽しみですね!
ここからはお仕事の話は、離れて新町さんに田辺作品の良さを思う存分語っていただきたいと思います。
新町さんが『春情蛸の足』の手ぬぐいをお持ちになって訪ねて来てくださったのが、私たちの知り合うきっかけとなったわけです。 恥ずかしながら私はこれまで田辺聖子さんの作品をそれほど読んだことはなかったのですが、新町さんのあまりの熱意に背中を押されて『うたかた』から読み始めました。 正直言ってびっくりしました!あまりにも切なくて、読み終わった後、呆然としてしまいました。 自分が生まれる前に書かれた作品と知ってさらに驚きました。 これは一体どういうことなんでしょうねえ。

 
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