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第69回 2009年3月5日

●執筆者紹介●
 
加藤泉
有隣堂 読書推進委員。
仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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〜仕事がイヤになりそうになったら…〜
 
「リーマン・ブラザーズって、吉本の新しい芸人のことだと思ってた」などと言いながら笑っていた半年前、これほどまでに景気が落ち込むと誰が予想していただろうか。
出口の見えない状況の下、日々の仕事の中で心が折れそうになっている方も多いことと思うが、こんな時だからこそ明日への活力になるような3冊をご紹介しようと思う。
 

 まず初めに、原宏一『トイレのポツポツ』を。
舞台となるのは、「鴨之木製麺工業」という中堅食品メーカー。
この会社で働く様々な立場の人の視点から描かれた連作短編集だ。
タイトルを見て引いてしまう方もいるかもしれないが、最後まで読んでいただければ本書にはこのタイトルが一番合っているとお分かりいただけると思う。
極めて真っ当な会社小説だ。

大まかなあらすじを説明すると、舞台となる食品会社の不正が、内部告発によって明るみに出るという内容。
ディテイルが効いていて、読みながら「会社って怖い!」と背筋が寒くなるのだが、読み進めていくうちに、会社とはそこで働く人たちが作り上げていくものなのだという当たり前のことに気付かされる。
出口のないトンネルはない、と思わせてくれるラストは実に清々しい。

とにかく本書は、働く全ての人たちに、特に企業で働く人たちに是非読んでいただきたい。
直木賞を受賞してもおかしくない、原宏一の現時点での最高傑作だ!

 
 
トイレのポツポツ・表紙画像

トイレのポツポツ

原宏一:著
集英社
1,260円
(5%税込)

 会社小説つながりでもう1冊、津村記久子『アレグリアとは仕事はできない』を。
資本主義ピラミッドの底辺にいる人物たちを描くのが上手い著者は、ご存知のとおり『ポトスライムの舟』でこのたび第140回芥川賞を受賞。
受賞作のリアルな「みみっちさ」に共感を得た読者も多いことと思うが、この「アレグリアとは仕事はできない」も、組織で働く人たち(特に事務系)の共感を大いに集めると思われる作品だ。

主人公は、地質調査会社で働く事務職のミノベ。
タイトルの「アレグリア」とは、高性能を謳われ鳴り物入りで導入された複合機の商品名。 が、このアレグリア、まったくもって役立たずなのである。
1分動かせば2分止まり、急いでいる時ほど途中でスタンバイ状態に入り、取り扱い説明書にはないエラーコードでダウンし、メンテナンスの人間がやってくると突然ちゃんと動き出したりする。
こういう経験あるある…と苦笑いする読者もいることだろう。

本作のすごいところは、ミノベとアレグリアとの戦いの日々を描きながら、組織の縦社会や脆い人間関係まで炙り出しているところだ。
たった一台のコピー機を使ってここまでの会社小説を書いてしまう著者の力量には、正直言って度肝を抜かれた。

津村記久子については「本の泉」第54回でも取り上げているので、そちらも是非ご覧いただきたい。

 
 
アレグリアとは仕事はできない・表紙画像

アレグリアとは仕事はできない

津村記久子:著
筑摩書房
1,470円
(5%税込)

 最後に、西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話』を。
苦労人の著者による自伝の要素が強い「お金論」だが、この本の本質は「仕事論」とも言え、数々の名言に溢れている。

たとえば
「何かをやりはじめたとき、誰もが最初にぶち当たる壁は、自分の実力を知らなきゃいけないってことだと思う」
「仕事っていうのは、そうやって壁にぶつかりながらも、出会った人たちの力を借りて、自分の居場所をつくっていくことでもあると思う」
「人が喜んでくれる仕事っていうのは長持ちするんだよ。 いくら高いお金をもらっても、そういう喜びがないと、どんな仕事であれ、なかなかつづくものじゃない」
など、真っ当なことなのだが、著者の生き様に説得力があるせいか、ずしりと胸に響く。

働いていると、楽しいことだけじゃなくてもちろんイヤなこともあるけれど、働いてお金を稼ぐって素晴らしいことなんだ、泣けてくるほど幸せなことなんだ、と思わせてくれる1冊。
今、壁にぶつかっている人には、是非この本を読んでほしい。

 
 
この世でいちばん大事な「カネ」の話・表紙画像
この世でいちばん大事な「カネ」の話

西原理恵子:著
理論社
1,365円
(5%税込)
 

文・読書推進委員 加藤泉

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