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第97回 2010年5月6日

●執筆者紹介●
 
加藤泉
有隣堂 読書推進委員。
仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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〜悩める婦女子たちへ〜
 
新緑が目に眩しいこの季節。 こんな爽やかな時季なのに、なぜか気分が晴れない方も多いはず。 そう、いわゆる五月病というやつだ。 今回は、五月病でもそうでなくても悩める女性の皆様にとって、処方箋になるような本をご紹介したい。
 

 
 恋愛が原因でモヤモヤしている貴女には、田辺聖子『孤独な夜のココア』を。
12編の恋愛小説を収めた短編集。 失った恋や始まる前に消滅してしまった恋を描いたものが大部分を占めていて、読んでいて胸が痛くなってしまうのだが、不思議なことに恋をして傷つくことがとても尊いことのように思えるような、魅力溢れる1冊なのだ。

何より、タイトルがいい。 「コーヒー」でも「紅茶」でもなく「ココア」。 このホッとする感じ。 このタイトルについては解説で綿矢りさも言及しているので、是非読まれたし。

驚くべきは、この本が昭和53年に刊行されたものの復刊であること。 30年以上前に書かれたものが今なお色褪せていないという事実だ(田辺聖子復刊のムーブメントについては「本の泉」第80回を参照)。 ヒロインたちは大体20代後半。 おそらく昭和50年代に比べると今は年齢が7掛けくらいになっている時代だろうから、本書は「アラフォー」世代の方のハートもがっちり掴むことだろう。

読み終わった後は、どの短編が好きか周りの女子と話を弾ませるのもまた一興。 それだけで気分もスッキリするはず。 本書の編集担当の方は「春つげ鳥」と「おそすぎますか?」がお気に入りとのこと。 キャリアウーマン路線だなぁ、と納得。 「ひなげしの家」がお好きという当店の営業ご担当者は意外に情熱的かも。 ちなみに私は「春と男のチョッキ」と「愛の罐詰」がイチオシ。 恋愛に対してどれだけ臆病かが分かってしまいそうだ。 5月末には同じく新潮社より『三十過ぎのぼたん雪』が復刊になるとのこと。 こちらもあわせてお読みいただき、ガールズトークに華を咲かせていただきたい。

 
 
孤独な夜のココア・表紙画像
孤独な夜のココア

田辺聖子:著
新潮社
460円
(5%税込)

 年齢が気になりだしてモヤモヤしている貴女には、益田ミリ『ほしいものはなんですか?』を。 欲しいものは「存在感」? それとも「保証」? どちらの言い分にも思わず共感してしまうコミックエッセイだ。

40歳・専業主婦のミナ子と、35歳・1人暮らしで独身のタエ子。 二人は義理の姉妹という間柄だ。 毎日同じことの繰り返しで自分のやっていることは当たり前と見なされることに不満を覚えるミナ子と、自分には何の保証もないのに夫も子供もいる同僚の分まで仕事をすることに不満を感じているタエ子。

『すーちゃん』や『結婚しなくていいですか』でも益田ミリはアラフォー独身女性の悲哀を描いてきたが、立場の違う女性同士の微妙な関係をこれまで以上に本書ではシビアに描いている。 本書を読んでいて痛切に感じるのは、どちら側の立場に立っても不満の種はなくならないということ。 年齢も社会的地位も、自分の不安を鎮める理由にはなり得ないということだ。

では、不安や不満の波に襲われたとき、どのような考え方が自分を救ってくれるのか? 本書にはそのヒントが書かれている。 本書を読めば、きっと気持ちが軽くなるはず。 それでもまだ足りない方には、「本の泉」第95回でご紹介した『リアル・シンデレラ』をお読みいただきたい。

 
 
『ほしいものはなんですか?・表紙画像
ほしいものはなんですか?

益田ミリ:著
ミシマ社
1,260円
(5%税込)

 はっきりした理由はないんだけど、なんだか気分がモヤモヤする! という貴女には原田マハ『星がひとつほしいとの祈り』を。 大分・松山・白神山地など日本各地を舞台にした短編集だ。

どの短編にも共通しているのは、現実に行き詰ったヒロイン(10代〜50代と幅広い)が、〈ここではない何処か〉へ行って再生する物語であること。 話の運びが滑らかでついつい引き込まれ、1編1編読むごとに前向きな気持ちになれること請け合い。

〈ここではない何処か〉へ行きたくなることは多々あるけれども、現実には時間的にも金銭的にもそうそう簡単にいけるものではない。 そんな時に本書を読めばリフレッシュの旅ができる。 「本は心の旅路」をまさに体験できるのが本書なのである。

 
 
星がひとつほしいとの祈り・表紙画像
星がひとつほしいとの祈り

原田マハ:著
実業之日本社
1,575円
(5%税込)
 

文・読書推進委員 加藤泉

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