Web版 有鄰

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有鄰

平成20年8月10日  第489号  P5

○座談会 P1   箱根火山 噴火の新しいメカニズムをさぐる (1) (2) (3)
高橋正樹/萬年一剛/山下浩之/松信裕
○特集 1 P4   源氏物語一〇〇〇年 藤井貞和
○特集 2 P4   横浜開港150年・有隣堂創業100年
「横浜を築いた建築家たち (2)」 ブラントン
 吉田鋼市
○人と作品 P5   吉行和子と『老嬢は今日も上機嫌』
○有鄰らいぶらりい P5   瀬戸内寂聴 著 横尾忠則 画 『奇縁まんだら』井上ひさし 著 『ボローニャ紀行』北村慶 著 『排出権取引とは何か』三宅勝久 著 『自衛隊員が死んでいく』
○類書紹介 P6   裁判員制度…いよいよ来年から導入される制度を、正しく理解するために。


 人と作品
 
吉行和子氏
吉行家のこと、女優仲間との思い出などを綴る 

よしゆきかずこ  
吉行和子 と『老嬢は今日も上機嫌

 
  吉行和子氏

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声高でなく、迎合しない姿勢で

 
  

今年6月に最後の舞台「アプサンス〜ある不在〜」を上演した。 本の終わりに半世紀を超える舞台生活の幕を引く心境が綴られている。

「何か1本作品を見つけて、最後の舞台出演としたいと思っていました。 これ以上ない程の戯曲に出会い、エッセイ集ができて、とてもいい区切りがつきました。 私は区切りをつけるのが好きで、ひとつやめたら別の新しいことが経験できるに違いないと、楽観的に考える性格です。 新しい時間を楽しめる元気が十分残っているうちに、自分で幕を引こうと考えました」

本は、新聞や俳句誌などに寄せたエッセイを編んでいる。 生まれた町、市ケ谷に戻り、母、妹と、同じ建物内でつかず離れず仲良く暮らす日々を描いた冒頭の「生まれた街で」は、2001年のエッセイ。 この頃、母は94歳で美容師として現役、海外旅行に行くほど元気だったが、その後数年間に、母の骨折、不意の病で妹が急死し、親友の岸田今日子さんが亡くなるという出来事が続いた。

「ずっと一緒に生きていくつもりだった妹の死は、体の一部をなくしたようなショックでした。 また、舞台を続けていた岸田さんの存在は励みで友達の中でも心強い、特別な存在でした」

〈これからの私を待っている恐怖は“死だ”、と思っていたのに、このところ私は死の恐ろしさがすーっと消えてしまった。 妹がいなくなってからだ〉と、書く。

今年101歳になる母は、長男の淳之介さん、次女の理恵さん、ふたりの子供に先立たれた。 骨折で入院中に、娘の死を知らされた母は〈ぐうーっと声にもならない音を発して〉蹲[うずくま]ったが、次は猛然と娘の作品を読み返し始めた。 少しでも多くの人に読んでもらいたいと、一周忌の2007年5月『吉行理恵レクイエム 「青い部屋」』(文園社)の刊行につなげた。

「完璧主義者の妹は、毎日夜中まで原稿用紙に向かっていました。 兄も、文章に対してとても細かく神経を使っていて、そんな二人を見ていた私は、物書きが本業じゃないし無手勝流でいい、と居直って書いています。 文体など考えず、この気持ちをどんな言葉で表そうかと考えて書きますが、世の中に何か訴えるような啓蒙的なことは、芝居でも文章でもやりたいと思わない。 声高でなく、迎合しない姿勢でいたいんです」

子供のころに見た東京の風景、女優の仕事の中で会った人たち、家族、仲良しの岸田さん、冨士眞奈美さんと「三人組」で行動したこと、俳句、読書、旅……。 素の視点から綴られる文章の奥行きと味わいは、とても深い。

「夢中になれる仕事を持つのはいいことだと、97まで働いていた母に、言葉ではなく背中で教わりました。 私は女優になりたくて劇団に入ったわけではなく、できそうな仕事を探すうちに舞台に立ち女優を続けることになりました。 全く飽きずに続けられたのは、フィクションの世界に魅了されてです。 子供時代は体が弱く、本が友達でした。 女優の仕事も、知らない街に立つ旅も、俳句も、私にとってフィクションで、本の登場人物になって遊んだ子供時代の楽しさがよみがえり、どこでも面白がって、不平不満なく過ごすことができました。 現実の生活は、つつがなく暮らせるだけで十分」

 
舞台・映画やテレビドラマ、俳人としても活躍

 
  

1935年、東京生まれ。 父吉行エイスケ、兄淳之介、妹理恵は作家。 母は日本初の女性美容師。 中学3年で初めて見た舞台、三好十郎作「冒した者」に感激して、劇団民藝に学ぶ。 57年に「アンネの日記」で主演デビュー。 毎日映画コンクール田中絹代賞など舞台・映画での受賞多数。 「3年B組金八先生」「ふぞろいの林檎たち」「ナースのお仕事」など、テレビドラマでも活躍。 84年、『どこまで演れば気がすむの』で日本エッセイスト・クラブ賞。 俳人としても知られる(俳号は「窓烏」)。

「若いときは、遊びがたくさんあって、周囲が楽しませてくれるけれど、年を取ったら自分で自分を楽しませる技術を持っていないと退屈なものになるでしょう。 骨折で動きづらくなってからの母の楽しみは読書でした。 読書はすぐにできるものではないから、若い頃から読み親しんで、自分の世界を作っていかないと。 今、本が読まれなくなりそして誰もがお金がないと幸せになれないと思っているのは、とても不幸だと思います。 花を見ても、木を見ても、楽しめる心を持っている方が、ずっと大切です」

   老嬢は今日も上機嫌 1,470円(5%税込)
吉行和子 著 新潮社

(青木千恵)




有鄰らいぶらりい

 

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瀬戸内寂聴 著
横尾忠則・画

奇縁まんだら 日本経済新聞出版社 2,000円(5%税込)
 
 

著者は、徳島の女学校から東京女子大へ入学した年、初めて見た小説家である島崎藤村が美男だったから、自分も文学への志を固めたという。

その藤村をはじめ正宗白鳥、川端康成、三島由紀夫、谷崎潤一郎、佐藤春夫など、まさに綺羅星のような文豪21人との“縁”が著者らしい率直な筆致で描かれている。

仏門の師となった今東光とは、そのとき次のようなやり取りがあったという。

「頭はどうする?」「剃ります」「下半身はどうする?」「断ちます」

これ以前、著者には2人の男性作家にはさまれた煩悩の葛藤があったことを思うと、興味深い応答である。 しかし著者の率直さを上回るのが、宇野千代が寂庵を訪ねたときのやり取り。 著者は宇野の年譜や作品に出てくる男性たちとは、どういう縁だったかを聞くつもりで名を上げた。

『間髪もいれず宇野さんの高い声が返ってきた。 /「寝た」/私はど肝を抜かれて、次の人の名をあげた。 /「寝た」/前より速さが加っていた。 後はすべてネタ、ネナイ、ネタと連発である。 ネナイよりネタ方がずっと多い』

変り種は戦前からの社会主義者の大物、荒畑寒村。 晩年、ソ連や中国、日本の社会党にもすっかり絶望していたにもかかわらず、死後は赤旗葬で送られる、という皮肉な話もあり、文壇側面史としても価値がある。 横尾の装丁と登場者の似顔絵にも迫力がある。

 
井上ひさし 著
ボローニャ紀行』 文藝春秋 1,250円(5%税込)
 

『ボローニャ紀行』
  ボローニャ紀行
  −文藝春秋 刊−
   

ヨーロッパ最古(辞書によっては世界最古ともある)のボローニャ大学があることで有名な北イタリアの都市、ボローニャの旅行記。

人口39万のこの街のことを30年も前から勉強していたという著者によると、ボローニャ・ソース(ミートソース)発祥の地であり、第二次大戦中にはナチスドイツ軍とイタリアファシスト軍と戦って自力で街を解放したレジスタン都市であり、小型精密機械の製造でも有名らしい。

著者がミラノ空港に着いたとき盗難にあった話から始まっている。 長時間の禁煙から解放されてタバコを3本立て続けに吸っているとき、話しかけてきた男から、大金とボローニャについてまとめたノートを入れていた鞄を足元から盗まれたのである。 イタリア暮らしの長かった夫人に電話すると「イタリアは職人の国よ。 泥棒だって職人なんです」と、以前、アメリカの潜水艦乗組員が上陸して遊び、朝帰りをすると艦が盗まれていたというナポリで起こった話を聞かされる。

たとえば貴族の館を保健所や保育所や劇場などに使うなど、歴史的建造物を壊さず、内部は現在の必要のために使うというやり方で、都市再生の世界的モデルになったボローニャをさまざまな角度から紹介している。

 
北村慶著 著

排出権取引とは何か』 (PHPビジネス新書) PHP研究所 840円(5%税込)
 

先の洞爺湖サミットで一番の問題となった地球の温暖化対策。 具体的には二酸化炭素をはじめとする「温室効果ガス」を減らそうという試みだが、その裏にある「排出権」については、あまり話題にならなかったようだ。

著者は中国で日本の総合商社が行っているプロジェクトを見学した際、現地の労働者たちが交わしていた次のような会話を聞いた、という。

「この連中は日本人だな」「ああ、また変なものを買いに来たんだな」「いいじゃないか、何でも売れるものは売ればいい」「しかし何で日本人はあんな煙に大金を払うんだ」

その中国の工場の煙突からは大量の煙が出ており、日本の商社は、それを減らすためのプロジェクトに金を出し、そこから得られる「排出権」を買い、日本の企業に転売する。 その企業は「排出権」を用いて、日本の工場で現に出ている「煙」を出さなかったことにすることができる。

著者が“地球を汚す権利”と呼ぶ京都議定書で決められた排出権の仕組みである。 いま鉄鋼、電力、からコンビニチェーン、Jリーグのチームまでが争って買っている、という世界的な取引市場の仕組みと状況を解説している。

 
三宅勝久 著

自衛隊員が死んでいく』 花伝社 1,575円(5%税込) 
 
 

自衛隊では、ここ数年、平均で、年間の自殺者が約100人出ているという。 10万人当たりの自殺率を見ても2004年度に39.3人、2005年度は38.6人と官公庁では群を抜く高さ。 イラク戦争以降、自殺増加が問題になっている米軍でも10万人当たり17.3人(2006年) で、その2倍を軽く超えている。

その背景に、旧日本軍同様あるいは、もっと陰湿になった古参下士官などによるイジメがあるという具体例を取材して報告している。 2005年の11月に自殺した航空自衛隊H基地のK3等空曹の例では、彼をイジメたM2曹の“指導のつもりだった”という弁明まで出て、生々しいリアリティがある。 加害者の弁明は一様に「指導」である。

2004年、自殺した護衛艦「たちかぜ」の1等海士は遺書で、多くの人に感謝を述べる一方「Sへ お前だけは絶対に許さねえからな」と、激しくののしっている。

このS2曹は、その後、別の事案で逮捕されるが、その罪状は部下にわいせつなCDを買うよう強要したり、至近距離からエアガンやガスガンを撃ちつづけるなど悪質なものだったが、自殺した海士との関連は実証されないなど、防衛省に限らない役所の秘匿体質をよく告発している。

(敬称略)

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