Web版 有鄰

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有鄰

平成21年2月10日  第495号  P5

○座談会 P1   「食の安全」と食文化を考える (1) (2) (3)
島村菜津/山本謙治/青木千恵
○特集 1 P4   書店員から作家になって 大崎 梢
○特集 2 P4   横浜開港150年・有隣堂創業100年
「横浜を築いた建築家たち」 (8) ジェイ・ハーバート・モーガン
 吉田鋼市
○人と作品 P5   山本兼一と『利休にたずねよ』
○有鄰らいぶらりい P5   福田和也:著 『昭和天皇』曽野綾子:著 『二月三十日』ディック・フランシス:著 『審判』山藤章二・尾藤三柳・第一生命:選 『「サラ川」傑作選』
○類書紹介 P6   パンデミック(感染爆発)…世界的規模で、インフルエンザなどの流行が懸念されている。


 人と作品
 
山本兼一氏
“茶聖”千利休を新たな視点から描く

やまもと けんんち  
山本 兼一 『利休にたずねよ』

 
  山本兼一氏

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利休の切腹の日から始まる物語
 
  

茶の湯は、戦国の世に花開いた美の世界だ。 『利休にたずねよ』は、信長、秀吉に仕え、現在の茶道三千家の祖となった千利休を、新たな視点から描き、08年下半期の直木賞を受賞した。

「京都で生まれ育ち、子供の頃は大徳寺の境内で遊びました。 利休の切腹の話は小学生の頃に聞き、血に染まった鮮烈なイメージを、子供心に抱きました。 利休というと侘び寂びの世界だと言われます が、私の印象はまったく違います。 利休好みの茶器などを見ていると、むしろ艶っぽさを感じる。 彼が追い求めたものは、冷たい雪の中にある春の芽吹き、燃え立つ命の美しさだったのではないか。 そこを突き詰めて書いてみたいと思いました」

利休は天正19年(1591年)2月28日、京都の聚楽屋敷で70年の生涯を閉じる。 物語は死のその日から始まり、利休、秀吉、禅僧の古溪宗陳、家康、後妻の宗恩ら、関わる人々の目を通し、利休の美学の原点になった事件へとさかのぼっていく。

「私は、利休の死は秀吉に嫌われたためで、特に謎ではないと考えています。 切腹の史実はあまりにも有名で、死を結末にしたら驚きがなく、小説として面白くない。 そこで、ある事件をフィクションとして結末に据え、過去にさかのぼる中で、利休とその世界を書く構成にした。 利休は傑出した才能の持ち主でしたが、傲岸不遜でいやみな人物だと思っていた人もいたはずで、その筆頭は秀吉です。 一面的には捉えられない巨人ですから、多くの人の目から利休を眺めていきました」

利休は茶の湯を洗練し、茶道具、美術、精神性も含めた総合芸術へと高めた。 「躙[にじ]り口」といわれる小さな出入り口が初めて作られたのは、天王山に利休が建てた待庵[たいあん]という。 四畳半以下の茶席は不思議と心地よく、茶の湯は戦乱で疲れきった人々の心を和らげた。 天下を勝ち取った秀吉がどれだけ金銀をはたいても、利休の美の世界の凄まじさに追いつけない。 人は何かを求める気持ちがあって、生きる力を得る。 領地や金銀をほしがる侍と同様、利休も美をむさぼる欲に取り憑かれているのだが、信長や秀吉の執着と、利休の執着とでは何が違うのだろうか。

「利休は、美を支配しようとしたのではなく、時の権力よりも強く長く輝きを放つ美を執拗に追い求め、人が快いと思う空間と人の和を非常な繊細さで作り上げた。 この小説は、利休の恋の話です。 恋をする心は、エネルギーの源泉になる。 ”茶聖”と言われていますが、利休は決していかめしくなく、愛する力の強い、エネルギーに満ちた人だったと思います。 利休の茶の湯に命の輝きや強さがなければ、誰も利休の世界に惹かれなかったでしょう。 私はいつも、小説で”強さ”を書きたいと思っています。 この小説を書いているとき、自分の中から文章がほとばしり、浮力が生じるような感覚がありました。 心地よい緊張感、手ごたえがあった作品です」

 
日本史上の国家や民族のうねりを書きたい
 
  

1956年、京都市生まれ。 同志社大学卒。 出版社勤務を経てフリーライターになり、99年に「弾正の鷹」で「小説NON創刊150号記念短編時代小説賞」佳作。 02年、『戦国秘録 白鷹伝』でデビュー。 04年、『火天の城』で松本清張賞。 ほかの著作に『雷神の筒』『いっしん虎徹』『千両花嫁』『狂い咲き正宗』などがある。

「司馬遼太郎さんの作品が好きで、歴史小説を書き始めました。 ありがたいことにここ30、40年で日本史の研究が進み、司馬さんがご存じなかった新しい発見がもたらされました。 並べるとは思っていませんが、戦っていける余地はあると、これまでにない切り口を一生懸命探して書いています。 国家や民族は、うねったり、きしんだりします。 そのうねりを書きたい」

千利休は、松本清張賞の受賞直後から取り掛かったテーマだった。 書き上げて、山岡鉄舟、フランシスコ・ザビエル、吉原の花魁の話などを構想し、執筆している。

「ドイツの戦車のプラモデルを作ったり、西洋に憧れた時期もありましたが、本名で歴史小説を書き始めて、日本の深層への旅を続けたい思いを強くしました。 世界がさまざまな問題で行き詰まっている今、日本人は、もう日本に帰るしかない。 人間の偉大さとはいったい何だろうと、常々考えます。 社会的影響力とは別に、志高く、自己犠牲もいとわず、自分を無にして人のために何かできる人は尊いと思います」

   利休にたずねよ 1,890円(5%税込)
山本兼一:著 PHP研究所

(青木千恵)
(敬称略)



有鄰らいぶらりい

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福田和也:著
文藝春秋 『昭和天皇 第一部』 1,700円  『同 第二部』 1,800円
(5%税込)
 
  

『昭和天皇 第二部』
  昭和天皇 第二部
  文藝春秋 刊−
   

米国から言わせれば太平洋戦争、日本側から言えば大東亜戦争の最中、米国の大統領ルーズベルトが執務室の机に米兵から送られた日本兵の髑髏をおいていたことはよく知られている。

一方、戦後の昭和36年(1961年)まで昭和天皇が住んだ地下壕執務室の机の背後の飾り棚には、二人の人間の胸像が置かれていた。 飾られていたのは上段がリンカーン、下段がダーウィンだったという。 生物学の研究をしていた天皇だからダーウィンはまだわかるが、「リンカーンは途方もない」と著者は言い、「国の存亡を懸けた大戦争のさなかに、敵、味方といった区別をまったく眼中におかない」この境地を何と呼んだらいいのだろう、とも書く。

敗戦が昭和天皇のいわゆる“聖断”によることはよく知られている。 終戦の決断ができたのなら、開戦はなぜ阻止できなかったのか、という声が、昭和天皇の戦争責任論の大きな論拠だった。

敗戦の昭和20年からの数年間、「彼の人(天皇)は独り、大声で叫びながら、夜闇の御座所を歩きまわり、自身を責め続けたという」。 その後、昭和天皇が対米戦を決める御前会議で明治天皇の御製「四方の海みなはらからと思ふ世になど波風のたちさわぐらむ」を二度詠み上げ、立憲君主国という制約の中でぎりぎりの抵抗をしたという事実も知られるようになってきた。

「想像を絶した、壮絶な、と云いたくなるような無私」の精神と異色の指導者の生涯を追う大作の導入部。 二部は、大正天皇の崩御まで。


曽野綾子:著
二月三十日
 新潮社 1,680円(5%税込)
 
  

表題作ほか12編を収めた短編集。 「二月三十日」は、もちろんありえない日である。

1850年代に西アフリカの奥地に宣教に入った7人の神父と修道士が、次々と病に倒れる経過を、1人の神父が日記に残す。 その神父も最後に倒れ、7人は約80日で全滅するのだが、「二月三十日」は日記に記された日付だけの最後の文字。 著者らしく苦味も効いた表題である。

苦味といえば、冒頭の「パリ号の優雅な航海」も皮肉なタイトル。 海賊の出没するマラッカ・シンガポール海峡1千キロの浮標など航路標識の保全を行っている船に乗り込んでいる日本人の話である。

パリとはインドネシア語で南十字星のことというと、さぞ素敵な船と思われるが、実は1978年建造のオンボロ船で、金もないと分かっているので海賊も狙わない。

この海峡で事故が起きると日本へ送られてくる物資がたちどころに滞る、日本の海上輸送の死活を制する重要な場所なので、日本は100億円以上の金を出して航路標識を保全しているのだという。

ノンフィクションに見せたフィクションだったり、いかにも小説風の実録だったり、どれも曽野さんらしいひねりをきかせた作品集である。


ディック・フランシス:著
審判』 早川書房 1,995円
(5%税込)
 
  

人気の競馬シリーズの最新作。 著者名は、正確にはディック・フランシスの後ろに小さく「&フェリックス・フランシス」と出ている。 ディックは2000年に執筆協力者でもあった、メアリー夫人を亡くしたあと、しばらく絶筆していた。 6年後、今度は息子のフェリックスを協力者に選んで発表した『再起』以来のコンビである。

コンビといえば、長年、邦訳を手がけた菊池光氏も2006年に亡くなり、『再起』以後は北野寿美枝氏が翻訳者となっている。 なにせ競馬界に次いで、ミステリー界でもトップを張り続けたディックもすでに88歳。 周囲がついていけない、という事態も生じるのである。

今度の作品は表題から分かる通り、殺人事件の裁判が大きな山となる。 日本でも陪審制が取り入れられることになったが、その本場は小説の舞台である英国であり、13世紀にまでさかのぼるという裁判制度の歴史と現状が小説の進行とからみあって丹念に描かれていく。

仲間から姓と職業のせいで「ペリイ」と呼ばれている弁護士でアマチュア騎手のジェフリイ・メイスンが主人公。 事件をめぐってメイスンや陪審員が脅迫されるが、日本の新制度ではこういう事態への配慮はどうなっているのか。 陪審制に興味ある人には必見のミステリーだろう。


山藤章二・尾藤三柳・第一生命:選
「サラ川」傑作選 はらはちぶ』 講談社 1,050円
(5%税込)
 
  

毎年全国から公募している「第一生命サラリーマン川柳コンクール」、通称「サラ川」21回目の作品集。

今回はあえて「親父ギャグ」(語呂合わせ句)を選んだという山藤氏のベストテンは
 ▽忘年会娘ミシュラン父酒乱 (ミスターベークマン)
 ▽千の風妻ならきっと千のグチ (紙風船)
 ▽引越しも孟母三遷俺左遷 (舌好調)など。

「抑制の利いた作品」を取ったという尾藤氏の十選は
 ▽KYを今日も良い子と訳す親 (親ばかママ)
 ▽来年の夏はネットで墓参り (ポンタ)
 ▽千の風俺のふところすきま風 (ルチアーノ秋川)など。

第一生命選は全国人気投票によっているが、1位が3562票の
 ▽「空気読め!」それより部下の気持ち読め! (のりちゃん)。 以下
 ▽今帰る妻から返信まだいいよ (えむ)
 ▽減っていく…ボーナス・年金・髪・愛情 (ピュアレディ)とつづく。 5位は
 ▽ゴミ出し日すてにいかねばすてられる (読み人知らず)だが、17年前の「傑作選」1冊目には「ゴミ袋さげてパジャマに見送られ」の「今や古典句」(尾藤氏)が入っていたそうだ。

(K・K)




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