Web版 有鄰

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有鄰

平成21年6月10日  第499号  P5

○座談会 P1   原始・古代から現代まで 『開港150周年記念 横浜 歴史と文化』 (1) (2) (3)
高村直助/斉藤司/西川武臣/平野卓治/松信裕
○特集 1 P4   藤沢のはなし 藤谷治
○特集 2 P4   横浜開港150年・有隣堂創業100年
「横浜を築いた建築家たち」 (12) 川崎鉄三
 吉田鋼市
○人と作品 P5   青木淳悟と『このあいだ東京でね』
○有鄰らいぶらりい P5   乙川優三郎:著 『闇の華たち』塩澤実信:著 『文豪おもしろ豆事典』エドガー・アラン・ポー:著 『モルグ街の殺人・黄金虫』ロバート・ホワイティング:著 『ボブさんの誰にも書けないベースボール事件簿』
○類書紹介 P6   開国・開港と横浜…150年前の横浜の人びと、社会、風景をたどる。


 人と作品
 
青木淳悟氏
都市にまつわる言葉を積み重ねて街の姿を描く

あおき じゅんご  
青木 淳悟 『このあいだ東京でね』

 
  青木淳悟氏

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多様なスタイルの8編を収載
 
  

都市にまつわる小説、8編を収めている。

「2007年刊行の『いい子は家で』で郊外を書いて、次に何を書くか、雰囲気を変えていこうと、郊外の反対としての東京、都市についての小説を意識的に書きました」

表題作は、都内に家を持とうとする人々のことを書いている。 〈いま払っている家賃がもったいないし、財形や頭金目的でコツコツ貯蓄に励んでいるうちに物件価格や消費税率が上昇したらその分相殺されてしまうし〉……。 そんな不特定多数の人々の尽きない悩み、銀行の「ご融資」専用のコーナーや〈さらに端のほうに特別に曇りガラスで仕切られたカード関係の相談ブース〉などは、今、東京という街に厳然としてあるものだ。 とはいえ、これらの現象に「主人公」はいない——。

「住宅購入を考える人たちが集まるネット掲示板があって、読み込んでいき、小説にしようと思ったのが表題作を書くきっかけでした。 思わず時間をかけて読んでしまうほど、色々なドラマがありましたが、それを小説にしたのではないですね。 ある個人の住宅購入記のようなものではなく、家を買おうと考えている人々と、現象について、定点カメラで映し出されたものを書く、それが小説になるか?という試みでした」

「TOKYO SMART DRIVER」で重要な意味を持つのは、人物の会話ではなくカーナビの音声、「止まれ」「最高速度」といった道路標識の「言葉」だ。 およそ10年前、1999年9月の新聞を精読して書かれた「ワンス・アポン・ア・タイム」では、多数の読者のために客観的に編まれたはずの新聞記事が、どこかの家庭で、ある人に、何かしらの感慨をもって、恣意的に読まれていく。

「最初は偶然、1999年の新聞を手にとっただけなんですけれど、昔でもなく最近でもない”10年前”というのに、味わいみたいなものが感じられたんですね。 ちょうど自分が20歳前後のときで、大学で過ごしていたときの社会的な出来事がなんか懐かしくなってコラージュしてみた。 僕としては30代になるにあたって書いた小説です」

ほかに、身辺を素材にした「夜の目撃談」「日付の数だけ言葉が」、さる個人住宅を訪ねて書いた「東京か、埼玉」など。 帯では、〈マンションの募集広告、江戸時代の旧町名、道路標識と交通法規、猫たちの生態、そして大手検索サイトの「ストリートビュー」機能まで。 都市にまつわる無数のことばの積み重ねから、懐かしく驚きに満ちた街の姿が立ちのぼる〉——と紹介されているが、多様なスタイルの8編がまとまると、本全体として、どこにでもあるような風景の連続が読める、そんな構成になっている。

 
小説を書き始めたのは大学に入ってから
 
  

1979年、埼玉県生まれ。 早稲田大学文学部在学中の2003年、「四十日と四十夜のメルヘン」で、第35回新潮新人賞を受賞。 2004年発表の第2作「クレーターのほとりで」が三島由紀夫賞の候補になり、初の小説集『四十日と四十夜のメルヘン』で野間文芸新人賞。 小説を書き始めたのは、大学に入ってからという。 「初めてちゃんと書けた小説でデビューして、次を書かないとそれで終わりだよ、という雰囲気があって、2作目はデビュー作とまったく違うものを書きました」

一文を書き、それに続く次の文を書いて、先が見えないままに小説を書いていく。 「設計図みたいなものはなく、これは小説にならないだろうなという時期がずっと続いて、折り返し点を過ぎたあたりでいけるんじゃないかと手応えが出てくる。 チラシや新聞記事など小説のディテールが細かいのは、”神は細部に宿る”じゃないですが、ディテールやそこにある現象を抽象化、漂白させて、どこにでもあるものを小説にしたい感覚から。 どのように書くかを常に考えて、作品ごとに試みを変え、自分がそのときに考えた小説を形にしたい。 文体にこだわらず、”引用”の創作スタイルも選ぶ。 自分の中を掘り下げるのではなく、外を探して拾ってくる、外に向かって、という感じです」

日本の近代文学、海外の名作を読んできた。 好きな作家として深沢七郎を挙げる。 「大学に入って深沢七郎を読んで、もの凄い衝撃を受けました。 深沢七郎のような型破りな小説が、国語の教科書に載っていればいいのにと思いますね。 次は長編に挑戦しようと、今年中にもう1冊出すつもりで、書いています。 まだまだですが、もう少しで形が見えてくるかなと……」

   このあいだ東京でね 1,680円(5%税込)
青木淳悟:著 新潮社

(青木千恵)
(敬称略)



有鄰らいぶらりい

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乙川優三郎:著
闇の華たち』 文藝春秋 1,470円
(5%税込)
 
  

『闇の華たち』
  闇の華たち
  文藝春秋 刊−
   

封建の世に生きる、いずれも軽輩の武士や浪人学者、蘭方医師などと、そうした男たちに翻弄される女たちを描いた時代小説短編集。

「花映る」は、酒の上の戯れで上士に斬られた友人のあだ討ちをする羽目になった男の屈折した心と、上士の死を知って見違えるように明るく変貌した友人の妻を描く。

「花の季節になると風の匂う道が、城下の町外れにいくつかあった」といった書き出しが、物語に品のある艶をかもしだしている。

「雷鳴とともに雨が激しくなって、やがて庭先を流れる水音が聞こえてきた」とはじまる「男の縁」は、江戸・浅草に寓居していた心学の浪人学者が、領地は雪国にある5万石の藩主から家臣譜の執筆を依頼される話。

「官録に頼らず、あるがままの事実の記録に努めてほしい」と言われ、家臣1,650人の由緒書の提出を求めることから始まった仕事は困難を極める。 ようやく目途がつきはじめた頃、由緒書に補筆したいと言ってきた弓の師範が起こした事件に遭遇する。

情事と喧嘩に憂き身をやつし、悪名を馳せている幼馴染の武士を、離婚して茶屋で働いている武家の娘の目から描いた「悪名」には、意外などんでん返しが待っている。

桜田門外の変を幕府側の佐倉藩隠密の目から描いた「面影」など全6編。


塩澤実信:著
文豪おもしろ豆事典』 北辰堂出版 1,470円
(5%税込)
 
  

「大文豪」「小文豪」「文豪候補」に分け、254人もの作家の話題を取り上げている。 たとえば大文豪では、文藝春秋の創立者、菊池寛を上げ、その小説の文体を、松本清張が自分の書く小説の手本とした、という。

菊池は芥川龍之介が自殺したとき友人代表として弔辞を読んでいるが、芥川の遺児である長男、比呂志(俳優、演出家)や三男、也寸志(作曲家)の名付け親でもあった。

清張が大文豪なのに対し、坂口安吾、尾崎士郎、宇能千代、遠藤周作、開高健らが「小文豪」に入っているのには少々首をひねるが、それはともかく、坂口安吾を担当したことのある、のちの文藝春秋社長、池島信平はその経験から「文士きちがい説」を持っていたという。 戦後の安吾は太宰と並ぶ流行作家だったのに、池島が訪ねると、家具もないガランとした部屋で夏など裸で原稿を書いていた。

税金も払わず、税務署と闘ったが、執達吏が差し押さえに乗り込んでもちゃぶ台と食事道具とバット1本しかなかったという。 菊池寛が芥川賞とともに作った直木賞で知られる直木三十五が、『文藝春秋』に「文壇諸家価値調査票」を書いて問題を起こしたという話もおもしろい。 たとえば「腕力」では今東光が100点、芥川が0点、「風采」では菊池寛が36点、久保田万太郎が21点だった。


エドガー・アラン・ポー:著
モルグ街の殺人・黄金虫
(新潮文庫) 新潮社 460円(5%税込)
 
  

ポーの生誕200年を記念し新訳による全6編を収録している。 戦前は探偵小説といわれた推理小説を、日本に根付かせた江戸川乱歩の筆名が、世界初の推理小説といわれる『モルグ街の殺人』を書いたエドガー・アラン・ポーをもじったことは有名である。 (『モルグ街—』が書かれたのは1841年、乱歩のデビュー作『二銭銅貨』は1923年)。

『モルグ街—』は、密室で母娘が惨殺され娘は暖炉の狭い煙突に押し込められていた怪奇事件に手を焼いていたパリ警察を尻目に、名探偵デュパンが見事な推理で解決する話。 その後、本格推理では定番となる密室ものであり、デュパンは、もちろんシャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロ、日本では明智小五郎、金田一耕助などとつづく世界初の名探偵である。

面白いというか、理屈が嫌いな人には逆に面白くないかもしれないのは、物語のはじまる、つまり殺人事件やデュパンが登場する前に数頁に及ぶ序文、洞察力と集中力の違いなどを論じた分析力についての「理論的前提」が置かれていること。 表題になっている『黒猫』は暗号解読が出てくるが、いかに奇想天外にみえる事件の結末も、論理的帰結であることを教えてくれる小説でもある。


ロバート・ホワイティング:著
ボブさんの誰にも書けないベースボール事件簿
(角川文庫) 角川書店 700円(5%税込)
 
  

野球を通じた日米文化比較論であり、日本に来た助っ人外国人のバイブルだった『菊とバット』や、その逆バージョン『サクラと星条旗』(いずれも早川書房)などの著者の最新作。 夕刊フジ連載を中心に、未発表原稿も収めている。

表題どおり、日本のスポーツ紙には出ない種類の話が多い。 前書きでは、世界に起こった大きな変革として、アメリカ初の黒人大統領オバマと並んで、米国民の日本人メジャーリーガーに対する態度の変化を上げている。

かつて日本に来た助っ人外国人たちは、高い給料を貰う「ダメガイジン」というレッテルを貼られたが、いまは、「頼りないDice-K(大輔)」であり「わがままイチロー」だというのである。

ある米紙の記者は「松坂の試合結果は常に冒険に満ちていて、心臓によくない。 彼は18勝したが、それは幸運と味方打線の援護と、自然の気まぐれとミステリーじみた力と幸運が重なったものだった」と書き、あるボストンのファンは疲れ果てた表情で「ダイスケのピッチングを見たあとは酒を飲まずにいられなくなる」と言ったという。 著者自身は松坂にもイチローにも好意的だが、そうしたバッシングがあるのも確からしい。 別の記者による日本人選手のベスト5とワースト5の評価など興味深い記事が満載されている。

(K・K)




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