Web版 有鄰

544平成28年5月10日発行

有鄰らいぶらりい

バラカ』 桐野夏生:著/集英社:刊/1,850+税

編集者の木下沙羅は、大学3年のときに親友・田島優子の彼氏、川島と酔って関係を持ち、妊娠、中絶した過去があった。沙羅、優子、川島はバブル世代の最後に属し、沙羅は大手出版社、優子はテレビ局、川島は大手広告代理店に就職、意気揚々と卒業したが、20年後、それぞれの境遇は変化していた。

男は要らないが子供は欲しい。そう考えた沙羅は、ドバイの赤ん坊市場に向かう。1歳半くらいの東洋人の女児を連れ帰り、「光」と名づけて育て始めるが、少し前に再会した川島の存在が、沙羅の運命を変えていく。葬儀業に転職していた彼は、派手で自堕落な中年男になっていた。母の葬儀で手腕をみせた彼と接近した沙羅は妊娠し、結婚退職をして仙台に行く。川島の本性に気づいた頃、巨大地震が東北地方を襲う。

震災と原発事故が起きた年の夏、犬猫保護ボランティアで警戒区域に足を踏み入れた62歳の豊田は、「ばらか」と名乗る小さな女の子を発見する。彼女は何者なのだろうか。そして震災から8年後、小学4年になった「薔薇香」は、無数の人々の思惑に巻き込まれていく――。

謎の少女「バラカ」をめぐり、物語が大きくうねる長編サスペンス。不穏で怖い、現代社会の「空気」を浮き彫りにした衝撃作である。

暗幕のゲルニカ』 原田マハ:著/新潮社:刊/1,600円+税

暗幕のゲルニカ・表紙
『暗幕のゲルニカ』
新潮社:刊

1937年4月、女性芸術家のドラ・マールは、尊敬する芸術家で半年ほど前からつきあい始めたパブロ・ピカソとパリで暮らしていた。スペイン大使館から絵画を依頼され、ピカソが真っ白なカンヴァスに向き合う日々の中、秘書のハイメがアトリエに駆け込んでくる。彼が手にした新聞には、スペインのゲルニカで発生した、空爆の悲劇が報じられていた。

時を隔てた2001年9月11日、ニューヨーク近代美術館(MoMA)絵画・彫刻部門キュレーターの八神瑤子は、テロ事件で最愛の夫イーサンを亡くした。2年後、瑤子は「ピカソと戦争」と題する展覧会を企画する。戦争の悲惨を訴えたピカソの大作〈ゲルニカ〉をMoMAで展示したいと考えたが、世紀の名画を借り出すのは困難だ。1955年に制作され、国連に寄託されている複製画を用いる代案が生まれたが、対テロ戦争の気運が高まる中、〈国連のゲルニカ〉が、暗幕で封印されてしまう――。

『楽園のカンヴァス』で第25回山本周五郎賞を受けた著者による、アートミステリーの最新作。複製画が消えた謎と、〈ゲルニカ〉を生んだピカソの情熱を、ふたつの時空を交互に描く。謎を追うスリルと、〈創造主〉を愛したドラの切なさに引き込まれる長編小説。

真説 真田名刀伝』 東郷隆:著/角川春樹事務所:刊/1,600円+税

NHK大河ドラマ「真田丸」放映で、戦国武将の真田家が注目されている。真田家というと幸隆、昌幸、信繁(幸村)の3代が有名だが、幸隆の出自には豪族・海野棟綱の実子のほかに諸説があり、真田家のルーツははっきりとしていない。本書は、真田家ゆかりの刀剣のうち、「茶臼割り」に着目して描きあげられた異色の歴史小説だ。

天文3年(1534)、信濃東部から上野西部にかけて勢力を張る海野氏の傍系に生まれた海野能登守輝幸(能登)は、旅先で野試合をして「鬼丸」と記された太刀を得る。暴れ牛を斬って切れ味に驚き、常陸国に住む塚原卜伝に事情を話すと、名刀が持ち主を選び、賊から能登に渡ったのだろうと言われる。

帰郷した能登は、兄の幸光と再会する。野盗との戦いで石臼をあざやかに斬った太刀は「牛斬り」から「茶臼割り」へと異名を変え、兄弟の絆を深める。しかしその頃、主筋の信州海野氏が村上氏、甲斐武田氏との合戦で没落。兄弟のもとに、真田小太郎という男が訪ねてくる。関東管領上杉家を頼る父・棟綱と対立する小太郎(幸隆)は、武田への臣従を説く。

「真田」「刀」のふたつのテーマを手がかりに、戦国時代の武辺者、海野輝幸の生きざまを生き生きと、魅力的に描きあげた秀作だ。

どうぶつのくに』 田井基文:著/講談社:刊/1,800円+税

2009年創刊の、動物園・水族館の情報を発信するフリーペーパー『どうぶつのくに』。本書は、これまでに発行された中から国内12、海外8の動物園・水族館を厳選し、オリジナル編集を行った初の書籍化である。

まず登場するのは、東日本大震災で被災した「アクアマリンふくしま」だ。飼育していた生き物の約九割を失いながら、奇跡の復活を果たした軌跡が紹介されている。続いて、沖縄県与那国島にのみ生息する与那国馬など、琉球弧独特の生態系と文化の体現に努め、琉球競馬ンマハラシーを70年ぶりに復活させた「沖縄こどもの国」。

世界一のクラゲコレクションを誇る「鶴岡市立加茂水族館」。ジャイアントパンダの繁殖に継続的に成功する「アドベンチャーワールド」。トドやアザラシ、セイウチなどが銀世界で暮らす「海獣公園」で知られる「おたる水族館」。金魚を一堂に集めた「虹の森公園おさかな園」。また、海にガラパゴス諸島を擁するエクアドルの「キト動物園」や、「北極動物園」(ノルウェー)など、海外の8園館もセレクトした。

著者は動物園水族館業界でプランニングに携わり、動物園写真家としても活動している。作り手のワクワク感が伝わってくる、どうぶつ好きにはたまらない1冊だ。

(C・A)

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