Web版 有鄰

524平成25年1月3日発行

「箱根ジオパーク」で考える – 2面

平田大二

「ジオパーク」は大地の遺産を見所とする自然の中の公園

私たちは大地の上で暮らしている。当り前のことであるが、当り前すぎて多くの人がそのことを忘れている。世界のどこでも、大地=地球があって、生き物がいて、そこに私たちが暮らしているのである。大地は私たちに自然の恵みを与えてくれる。しかしその一方で、火山噴火や地震など大きな脅威もある。特に日本列島は、世界でも有数な地殻変動の激しい所である。

私たち日本人は、過去から現在まで、この激しい大地の動きと折り合いをつけながら暮らしてきた。そして、これからも私たちは大地と折り合いをつけていくのである。大変なことも多々あるが、大地がもたらす恵みを楽しみながら暮らしていきたい。

さて、「ジオパーク」という言葉をご存知だろうか。最近マスコミなどに時々取り上げられてはいるが、まだ多くの人には聞きなれない言葉であろう。ジオパーク(Geopark)とは、「地球」あるいは「大地」を意味するジオ(Geo)と、公園のパーク(park)を結びつけた造語で、地球のさまざまな活動が作り上げた大地の遺産を主な見所とする自然の中の公園のことである。

ジオパークは、ユネスコの支援を受けて2004年に設立された世界ジオパークネットワーク(GGN)により、世界各国で推進されている。

日本でもジオパーク推進活動が始まり、2008年に日本ジオパーク委員会(JGC)が、2009年には日本ジオパークネットワーク(JGN)が組織された。

ユネスコの活動といえば世界遺産を思い浮かべるであろう。日本各地に世界遺産があり、神奈川県内でも「武家の古都・鎌倉」が登録審査中である。世界遺産はユネスコの正式なプログラムであるが、ジオパークは正式プログラムではなく、ユネスコの支援のもとに展開する活動となっている。

箱根ジオパーク認定ポスター

「箱根ジオパーク」認定ポスター

ジオパークについては世界ジオパークネットワークのガイドラインに示されており、要約すれば「地域内に大地の出来事だけでなく、生物を含めた自然、歴史と文化を紹介できる場所を有している」、「地域社会の持続可能な活動ができる組織と運営計画がある」、「地域の自然や文化の資源を保全し、学べる教育活動を展開できる」、「行政体だけでなく地域全体での活動を推進できる」、「地域の持続可能な活動が、国際的なネットワークと連携できる」、「防災への取り組みはどうなっている」(日本ジオパーク委員会HP)となっている。

ジオパークはハードではなくソフトなのである。地域の既存資源を活かした、持続可能な保全と地域社会の発展のための活動である。そのためには、地域の既存のさまざまな資源について再認識するための教育活動がもっとも重要であるのは言うまでもない。

このようなガイドラインのもと、2012年11月現在で世界ジオパークは26か国92地域、国内では日本ジオパークとして25地域が認定されている。そのうち、「洞爺湖有珠山ジオパーク」など5地域は世界ジオパークとしても認定されている。なお、ジオパークは4年に1度の再審査が行われる。つまり、持続可能な活動が行われているかどうかが、重視されているのである。

箱根火山を主体に大地の営みと人の暮らしの関わりが学べる場所

そこで箱根である。箱根火山は、フィリピン海プレートの最北端に位置し、太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に沈み込んだことによってできたマグマが地表に現れたもので、日本を代表する活火山の一つである。東京大学の久野久博士(1910−1969)の研究により、箱根火山の名は世界的なものとなった。その後の研究により、現在では新たな形成史が構築されるようになってきた。

箱根ジオパークは、その箱根火山が主体となる。広い裾野と、外輪山に囲まれたカルデラ地形、カルデラの中の芦ノ湖や中央火口丘群などさまざまな火山地形を見ることができ、「火山地形の博物館」といえる。

火山の恵みである温泉も豊富な地域である。また、富士箱根伊豆国立公園や神奈川県の自然公園に指定されているように、四季折々の姿をみせる豊かな自然環境に恵まれている。そして、古代から現在まで、東西を結ぶ歴史の要衝地であるために史跡、旧跡が多数あるほか、博物館や美術館も数多い。

そのような箱根を楽しむ観光客数は、箱根町、小田原市、真鶴町、湯河原町を合わせて年間約3000万人にも及ぶ。日本でも屈指の大観光地なのである。その箱根をジオパークにしようと2008年に小田原市、箱根町、真鶴町、湯河原町の1市3町および神奈川県により小田原・箱根ジオパーク推進連絡会(仮称)が発足、2011年には箱根ジオパーク推進協議会が設立された。

早川石丁場跡(小田原市)

早川石丁場跡(小田原市)
神奈川県立生命の星・地球博物館提供

協議会には、地元自治体のほか教育委員会、高校や大学、観光協会、商工会、地元企業、NPOなど70を超える多種多様な団体が参画し、「北と南をつなぐ自然のみち、東と西をつなぐ歴史のみち」をテーマに、箱根らしいジオパークをめざした構想が検討されてきた。そのなかで、地形・地質、生物、歴史、産業など箱根の魅力を体感できる見所としてジオサイトを設定した。各ジオサイトについては箱根ジオパーク推進協議会のHP(http://www.hakone-geopark.jp/)で紹介している。

このような活動を展開しつつ、2012年4月に日本ジオパークに申請、9月に認定された。認定の理由は、「箱根カルデラの風光明美な景観、大涌谷カルデラ内外の温泉群といった、地球科学的な見どころに加え、江戸城の石垣の石を出した真鶴半島の採石場跡や、大地震毎に再建を繰り返した小田原城など、歴史・文化の名所も多く、大地の営みと生物多様性や人の暮らしの関わりが学べる場所。優れたガイドもいて、来訪者が地域の魅力に触れられるようになっている」であった。

箱根の自然や歴史・文化を再認識して地域の活性化を

では、なぜ箱根のような大観光地が、新たな取り組みとしてジオパークの活動を行うのか?年間三千万人もの来訪者があるものの、そのスタイルは時代とともに移り変わってきている。外国人も増えてきている。大勢の人が訪れれば、当然オーバーユースから自然環境の保全の課題が出てくる。来訪者たちの多様なニーズに応えるだけでなく、箱根の魅力を楽しむためには箱根の自然や歴史・文化の貴重な資源について、より理解してもらう必要がある。そして何よりも大切なのが、地域の活性化である。

ジオパークに取り組むのは、地元に暮らす人たちが、箱根の自然や歴史、文化、産業などの根底にあるものまでを知り、大地や火山の恵みが豊かな地域であることを再認識するためと言える。そのためには、子どもたちも大人も含めた教育が大切である。ジオパークは、箱根の未来の姿を考えるための架け橋となるはずである。筆者は、「地域の、地域による、地域のためのジオパーク活動」を進めることが大切であると考えている。そして、私たちは大地の上に暮らしていることをあらためて感じたい。

平田大二 (ひらた だいじ)

1955年横浜生まれ。
神奈川県立生命の星・地球博物館学芸部長。専門は地質学・岩石学。共著『伊豆・小笠原弧の衝突』有隣堂(品切)、ほか。

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